第89話 グリム

「グリム、召喚」

 魔法陣から現れたのは、襤褸ボロを纏った、身長180cmくらいの漆黒の骸骨だった。

「ひっ…」

「ま、真央?」

 俺の配下のグリムの最大の欠点は恐怖の常時スキルが仲間にも影響を与えてしまうことなんだよな…それでも、多少はコントロールできるようになったから、普通に呼び出せるんだけど。

「グリム!二人が怖がってるだろ?少し抑えろ」

「はっ!こ、これは申し訳なく…王妃様に王妹殿下、何卒、ご容赦を」

 漆黒の骸骨が五体投地で謝罪している姿はなかなかシュールだな…

「いえ…私こそ、驚いてしまってごめんなさい…あなたも真央の仲間なんでしょ?」

われは魔王軍で処刑人エクスキューショナーの役割を与えられた者にございます」

処刑人エクスキューショナー…やっぱり魔王って、そういう事も必要になるの?」

 明璃はまだ少し怯えているようだ。

「あの世界では女神による制約のせいで、魔物以外を殺すようなことは不可能だったからな…」

「恥ずかしながら、処刑人を仰せつかりながらも、罪人として処刑したのは全て魔物でしたな…して、今回の罪人はどこにいるのですか?」

「ああ、あれだ。今レオンが抑え込んでいる。さっきも言ったが、お前の同類だそうだぞ」

「あれですか…何とも嘆かわしい」

「嘆かわしい?」

「見るからに脆そうで…その身に宿す怨念の量が足りませんな。」

 死神グリムリーパー常時パッシブスキルで周囲を恐怖と絶望に染め、魂を砕く。恐怖と絶望に染まった魂は怨念の塊となり死神に吸収されて、死神の力となる。

「何て恐ろしい能力なの…」

 咲希が死神の能力を知って怯えているが、この能力も元は俺が作り出したんだよな…

グリムのステータスはこうなっている。

【名前】グリム・デスサイズ

【種族】死神グリムリーパー

【LV】850

【HP】72300/72300

【SP】17000/17000

【力】5600

【知恵】3420

【体力】7650

【精神】4260

【速さ】4500

【運】0

【スキル】

 冥府の誘い、死の叫びデススクリーム魂砕きソウルクラッシュ魂魄吸収ソウルドレイン、闇魔法、形態変化、限界突破、

 超再生、HP自動回復、HP回復量増加

 念話、言語理解、生命感知、魔力感知、高速思考、並列思考、無詠唱、

 物理攻撃耐性、魔法攻撃耐性、精神攻撃無効、全状態異常無効


「さて、グリム、あの未熟な死神に、本当の死神の恐怖を教えてやってこい」

「かしこまりました」

 ゆらり〜ゆらり〜と身体を揺らしながら、レオンによって抑え込まれている、敵の死神グリムリーパーの元へと近寄っていく。

「レオン殿、主の命により、われがこの罪人を裁くこととなりました」

「了解シタ」

 レオンが抑えていた死神グリムリーパーを跳ね除け、投げ飛ばす。

 ズガァァァァァァン

 壁に激突した死神グリムリーパーは何事もなかったかのように上体を起こし、立ち上がる。

「さて、ここから先のお相手はわれが務めよう」

 死神グリムリーパーの前に漆黒の骸骨が立ち塞がる。

「クカカカカ…矮小ナ骸骨スケルトン風情ガ…」

「ほう…言葉はわかるようですね…ただ…相手の力量を見極めることもできないとは…やはり未熟」

「塵トナルガイイ!」

 死神グリムリーパーが巨大な鎌を振り下ろす。

 ガキィン

 漆黒の骸骨グリムの細腕が死神の鎌を受け止める。

「やはり、この程度か…」

「バ、馬鹿ナ…」

 自身の攻撃を受け止められたことが信じられない様子だ。

 まるでそれは何かの間違いだと言わんばかりに、6腕の鎌で猛烈な連続攻撃を仕掛ける。

 ガキン、ガキン、ガキィン!

 だが、その全ては漆黒の骸骨グリムの身体を斬り裂くことなく、細腕1本で受け止められてしまうのだった。

「何ダ…何ナノダ…貴様ハ!」

「やれやれ…相手の強さがわからないのはまだしも、同族がどうかすらも見抜けないとは…」

「何ダト?」

「少しだけ見せてやろう…本物の恐怖を…」

 漆黒の骸骨グリムが片腕を持ち上げると、

 ゾワゾワゾワ…と、どこからともなく漆黒の骨が出現し、グリムの腕の先に集まっていく。

 振り上げた片腕は、漆黒の骨の集合体となり、巨大な腕と鎌を作り出した。

「何ダ、ソレハ…何ナノダ…ソレハァァァァ!!!」

「後学のために覚えておくといい。これが本物の死神の鎌デスサイズだ」

 禍々しい漆黒の大鎌が振り下ろされる。

「コ…コンナモノ…」

 自身の6つの腕と鎌で受け止めようとするが、漆黒の大鎌はまるで紙でも切り裂くかのように容易く、死神グリムリーパーを腕ごと、袈裟斬りに切断した。

 パキィン

 死神グリムリーパーの胴体部分にあった真っ赤な魔石も、何の抵抗もなく真っ二つになった。

「ア…アガガ…ソ…ソンナ…」

 魔石の消失と共に、死神グリムリーパーの身体も崩れ始める。

「今、貴様が抱いている感情が恐怖と絶望だ…」

 グリムの言葉が届いたかどうかは分からなかったが、もはや原型も留めないほどに身体の崩れた死神グリムリーパーは黒い靄となって消えようとしていた。

「罪人がただ罪を償うこともなく消えるなど許されるはずもないだろうに…」

 消えるはずだった死神グリムリーパーの残滓がグリムへと吸い寄せられる。

「オオォォォォォォォン」

 嘆き、悲しみ、恐怖、絶望、妬み、怒り、憎悪…

 負の感情が混じり合い、怨念と化し、グリムの身体へと吸収された。

「未来永劫、われの中で苦しむがいい…クカカカカ!」


「うわぁ…」

 明璃…言いたいことがあるのはわかるが…飲み込んどけ。

「それよりも、みんなの具合は?」

 咲希が他の仲間たちの様子を心配している。

「アルスの中で保護して、霊薬エリクサーを施してあるからな…回復しているはずだ」

「そっか…」

 しかし、グリムを見たらまた恐怖状態になってしまうかもしれないか…

「グリムよ…一度、戻ってもらうぞ」

われが未熟なため、魔王様のお仲間へ危害を加えてしまうは、我の本意ではありません故」

「すまんな…グリム送還」

 漆黒の骸骨が魔法陣へと消えた。

「レオンも、急な出撃、大義であった」

「ハッ。有リ難キオ言葉」

「レオンカイザー送還」

 巨大な魔導人形ゴーレムのレオンカイザーも魔法陣へ送還する。

 …

「アルス、みんなの様子は?」

「もうすぐ目を覚ますと思うよ〜」

「そうか」

 状態異常を受けて錯乱した4人はアルスの体内から出して、今は床に寝かせてある。

 …

「う…うう…ん」

 最初に目を覚ましたのは麗華だった。

「こ、ここは?はっ!さっきの化け物は!?」

「落ち着け。あいつなら倒したから安心しろ」

「倒した?あれを?」

 しばらくして、俺の仲間たちの強さステータスを思い出したのか、ようやく安堵の表情を浮かべるようになった。

「そうでしたか…御見苦しい姿をお見せしてしまって、申し訳ありませんわ」

「気にするな。あれはそういう魔物だ。俺も気づくのが遅れてしまった…すまない」

「あれは、一体何だったんですの?」

「あれは、レベル75、死神グリムリーパーという魔物だ」

「レベル75…そんな…」

「そして、レベル75以下の相手に対して、状態異常を振り撒き、即死攻撃など、厄介なスキルを持っていたよ」

「そうだったんですのね…わたくし何もできませんでした…足を引っ張ってしまいましたのね…」

「ここにあんなのがいるなんて想定外だったからな、気に病むことじゃないさ」

 そうな風に話をしていると、他の仲間たちも目を覚ましたようだ。

「お嬢様…私は自分が情けないです!お嬢様の盾となることもできずに取り乱すなど…」

 零士は状態異常にかかってしまったことで自分が許せないようだ。

「真央…あの化け物は?」

「倒したから、安心してくれ」

「そう…」

 小夜はまだ若干恐怖が抜けてない…か?

「真央さん…あの…私回復役なのに…ごめんなさい!」

「里奈、あれは仕方ない…そういうスキルを持った敵なんだ」

「それでも!…そう…ですよね。わかりました!私、もっと強くなりますね!」

 やはり里奈は芯が強いな。


「みんなの無事が確認できたところで、一度、態勢を立て直そう。ここであんな敵が出てくるのは予想外だった」

「うん」「わかった」「はい」「わかりましたわ」「了解だ」「了解」

「調べたら、やっぱりここはボス部屋のようだ。なら、暫くは安全だと思うから、今のうちにステータスの確認をしておくぞ。ステータスオープン」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る