第88話 死神
扉を開け、俺達を出迎えたのは、吹き抜けの、広いエントランスホールだった。
「不気味なほど静かだな…」
「この雰囲気…ボス部屋みたいだね」
明璃がこの場所の雰囲気がボス部屋に似ていると指摘した瞬間、ドルフが警告する。
「魔王様!上です!」
突然のことにみんなが躊躇したのはほんの一瞬で、さすが高ランク冒険者といったところか、戦闘態勢に移るのが早い。だが、その中で一人、練度が足りないのか、経験不足なのか、小夜だけが少し行動に移すまでの時間に遅れが出ていた。
そんな小夜を狙って、魔物が吹き抜けの上の方から急襲する。
ガリガリガリガリガリ…
不規則に動く骨の多脚が壁や柱を傷つけながら、螺旋を描くように降りてくる。
ジャキィィィン!!
硬い何かと何かがぶつかるような音がホールに響いた。間一髪で、小夜に渡していたアルスの分体が小夜の命を刈りとる一撃を受け止めた。
「危なかったよ〜」
「あ、ありがとう…」
小夜はその場で尻もちをつき、自分を襲った魔物の姿を見てしまった。
「ひいっ…」
小夜の顔が恐怖に歪む。
地上に降り立ったその姿は、巨大な骸骨の化け物。腰から下はまるで百足のような多脚が不規則に蠢いている。脚の先端は鋭く尖り、壁や柱に突き刺しながら、この空間全てを自由に動けるようだ。そして、あの足に貫かれれば人間の胴体には大きな穴が穿たれるだろうことは容易に想像がつく。
上半身には6本の腕があり、その腕の先は鋭利な刃物…例えるなら死神の鎌だろうか。
肋骨に守られた胸部の奥に、真っ赤な魔石の輝きが見える。あの6腕をくぐり抜けて魔石を狙うのは至難の技となるだろう。
眼球のない眼窩の奥に紅い光が見える。確実にこちら様子を見て、獲物を選んでいるようだ。
「魔物鑑定」
【名前】なし
【種族】
【LV】75
【HP】6500/6500
【SP】1500/1500
【力】520
【知恵】315
【体力】680
【精神】390
【速さ】410
【運】0
【スキル】
冥府の誘い、死の叫び《デススクリーム》、魂砕き《ソウルクラッシュ》、
再生、HP自動回復
言語理解、生命感知、高速思考、並列思考、
魔法攻撃耐性、精神攻撃無効、全状態異常無効
「やっぱり
「オオォォォォォォォーーーンンン」
「ひっ…ひいっ…」
カランっと手に持っていた剣を落とし、ペタンとその場で座り込んでしまったのは麗華だ。
「いやぁぁぁぁぁぁ!!…来ないでぇぇぇぇ!!!」
錯乱し逃げ惑ううちに、腰を抜かし、四つん這いになっても、恐怖からか、更に逃げようとしているのは小夜だ。
「う、うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!!く、来るな!来るなよっ!!」
零士は尻もちをついた状態で、手を交差し顔を隠しながらも、後ずさっている。
「た、助け…助けてっ!きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」
里奈ですら、恐怖に耐えかねて駆け出したところ、躓いて転んでしまった。顔をあげると、そこには骸骨の化け物が自分を狙っているようにすら見えてしまう…
「くそっ!間に合わなかったか…」
自分と咲希、明璃以外のメンバーが
「レオンカイザー!
俺は咄嗟にレオンを召喚する。
「レオン!やつの動きを抑え込め」
「了解シマシタ」
巨大な骨の化け物に対して、巨体のレオンで応戦する。その間にみんなを回復させないとな。
「アルス!全員を回収して、霊薬状態で保護してくれ!」
「任せて!」
よし、とりあえずアルスに任せておけば大丈夫か?
「おにぃ…みんなどうしちゃったの?」
「ああ、何で私達は無事なんだ?」
「
死神に備わっているのは、人間の根源的な恐怖の感情を呼び起こすスキルだからな。
「私達が無事だったのはレベルが高いからなんだな?」
「そういうことだ。あの
「レベル75だって?迷宮主クラスじゃないか!?」
「どうやら、ここの迷宮主は魔物の存在進化に詳しいらしい」
墓場に骨系魔物がいなかったのは、そういうことか…まさか
「存在進化?」
「迷宮の魔物だって成長も進化もするってことさ。基本的には魔物同士は戦わないから、冒険者を倒した魔物なら強くなる可能性があるんだよ。ただ、普通は死者が出ないようにギルドが制限かけているからな…めったに存在進化なんて起きないんだが…ここの迷宮主は魔物同士を戦わせて、強制的に進化させているんだろうさ」
「それであんな化け物が…」
そんな話をしているうちに、アルスがみんなを回収し終わったようだ。
「マオー様、みんな無事だよ」
「サンキューな」
そして、その状態で死神の魂砕き《ソウルクラッシュ》って攻撃スキルを受けた場合、HPに関係なく、魂が壊されて復活できない死を迎えてしまうからな…
「でも、まぁ、ここにこいつがいるってのは、悪いことばかりじゃないけどな…」
「どういうことだ?」
「こっちの戦力も増えたってことさ」
「戦力?あ!?もしかして…」
「そういうことだ」
(さぁ、グリム。お前の同族だ。好きなように斬り刻んでやるといい)
(フフフ…フハハハハハハ。久方ぶりに主からの命令を頂けたと思えば、そのようなご褒美まで!)
「グリム、召喚」
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