第86話 墓場の戦い

「前方600mに魔物の反応があります」

 ドルフが敵を見つけると、リーナが目にも止まらぬ速さで移動し、討ち取ってくる。

 その様子を見ていた麗華や零士は声にもならないような驚きの表情を見せている。

「さっきから、何が起きているんですの?」

「お嬢様、どうやらリーナさんが魔物を倒しているようです…俺の目では全く追えませんが…」

「ドルフさんのステータスを見たときは驚きましたけど、まさかリーナさんも同等?」

「だとすると、もはや彼を止められる人間などこの世にはいないかもしれませんね」

「ええ。全くですわ。彼と彼の仲間の力を借りられれば、あの忌まわしい竜種も倒せるかもしれません…」

「お嬢様?その話は情報規制されているのでは…?」

「何を言っているのですか?真央さん達はすでに私達よりもランクは上なんですのよ?」

「そ、それは…確かに…そうでした…まさかこんな短期間であれ程の成長を遂げるなど…」

「今回の探索が終わり次第、真央さんに例の話をしてみますわ」

「わかりました。お嬢様の仰せのままに」

 …

 麗華と零士がそんな話をしてるとはつゆ知らず、城を目指す俺達の足は止まらない。

 廃墟地帯を抜け、周りは西洋風の墓地となった。

 ボコッ、ボコッ、ボコッ、ボコッ…

 地面の中から、不死者系統の魔物達が無数に現れる。

「あれは食屍鬼グールだな」

「あの数は面倒ですわね」

「不死者系統は魔石を砕くのが一番早いからな。ここは収益度外視で殲滅するぞ」

「「了解」」


「明璃、魔力感知で魔石だけを狙え。属性は光か炎だ。できるな?」

「うん!任せて!」

「咲希は、今回は光属性の魔力を纏って、弱点を見抜けば魔石の位置がわかるはずだ」

「わかった。里奈と一緒に訓練したやつだな」

「里奈は光属性の浄化を範囲でばら撒いてくれ」

「やってみます!」

 咲希、明璃、里奈に正面の食屍鬼グールの討伐を任せる。


「ねえ、真央?さっきから属性の指示を出してるけど、里奈も咲希も魔法は使えないわよ?」

「それは認識の違いだな。スキルがなくても魔法は使えるのさ」

 俺は人差し指の先に炎を灯してみる。

「嘘…そんな…」

「スキルがなくても魔法は使えるけど、経験値が入らないから、使わないってだけの話なんだよ」

 もっとも、魔法を使うには魔法の理論を知ってないと無理だから、皆には属性の変化くらいしか教えてないのだが…

「小夜にも、今回の騒動が落ち着いたら教えるよ、今は得意な魔法で援左翼の群れ討伐してくれ」

「わかったわ。期待しとくわよ?今は時間が惜しいからね…」


わたくし達はどうすればいいんですの?」

 麗華と零士か。

「麗華は右翼の殲滅を頼む」

「わかりましたわ」

「零士は隠密からの遊撃で、全体のカバーを頼めるか?」

「いいだろう」


「アルス達は、外側から、魔物の包囲網を狭めてくれるか?」

「オッケ〜。任せてよ!」


「さて、それじゃ、俺も暴れてきますかね…」

 一言呟いた後、竜牙刀の鯉口を切り、食屍鬼グールの群れの中に突撃していった。


「光か炎ね…なら!」

 かつてCランクダンジョンのボスを倒したときの事を思いだし、2つの属性を練り合わせる。

聖炎の矢セイクリッドフレイムアロー矢の雨アローレイン!!」

 聖なる炎を宿した矢の雨が食屍鬼グールの群れに降り注ぐ。

「さすがにまだこの数で全部命中とはいかないか…」

「いや、十分だ。後は私に任せろ!」

 魔力を纏った咲希の拳が光っている。光属性への魔力の属性変化は上手くできているようだ。

「せいっ」「やあっ」「はっ」

 食屍鬼グールの魔石は大体、心臓の位置にあるが、稀にズレている個体もいる。だが、弱点看破を持つ咲希の目には魔石の位置が、はっきりと見えているのだ。飛竜装備の速度アップの恩恵もあって、その魔石を一撃で撃ち抜いていく。咲希の拳に貫かれた食屍鬼グールはすぐにその場で黒い靄となって消滅していった。

「わっ、私も!浄化の舞」

 両手に1つずつ、2対の扇を持った里奈がその身体に光属性の魔力を纏わせて、巫女の舞を踊り始めた。里奈を中心とし、光り輝くサークルが出現する。更に、その外側に2重のサークルが出現し、外側の円が舞の経過と共に大きさを広げていく。墓地の中に次から次へと這い出てくる食屍鬼グールの群れに里奈の作り出したサークルが到達すると、その中にいる俺達の身体は軽くなり、逆に食屍鬼グールの動きが鈍くなっていく。墓場に渦巻く瘴気が浄化され、俺達に良い影響を与えているようだ。

 その隙を逃すような攻撃職はここにはいない。動きの鈍った敵を咲希と零士が迅速に、的確に処理していく。乱戦になってきたので、明璃は牽制を中心に、前衛が複数を同時に相手しないように矢を放っている。


 小夜はかつてパーティを組んでいた仲間たちの様子がおかしい事に気がついていた。属性を変化させた魔力を纏う?そんなことができるのか?と思ったが、実際、目の前でそれらしき現象を目にしているのだ。

 見様見真似でやってみようと思ったが、いくら魔力の扱いに長けた魔法職とはいえ、ぶっつけ本番で簡単にできるようなものではないと分かったので、今回は今まで通り、大規模魔法で応戦することにした。

「後で、真央が教えてくれるって言ってたわね…暴風サイクロン!」

 左翼の食屍鬼グールの群れを飲み込んだ暴風の嵐はその中で食屍鬼達の身体を引き裂き、すり潰し、消滅させていく。


 小夜の反対側では、麗華が食屍鬼グールの群れの前に立ちはだかっていた。

「凍りなさい!絶対凍柩コキュートス

 剣を地面に突き刺すと放射状に氷の魔力が食屍鬼グールを襲う。その魔力の波に晒された食屍鬼達は足元から凍りつき、やがで物言わぬ氷像と化した。

「これで終わりですわ。氷の破壊剣アイシクルブレイカー!!」

 上段から振り下ろした氷の魔力を帯びた剣撃が全ての氷像を一撃で砕いた。


 真央は、みんなとは逆の、パーティの後方から湧き出し、包囲してこようとする群れに突撃した。

「魔闘剣舞…聖光の輪舞曲」

 光属性の魔力による聖なる浄化の力を闘気と混ぜ合わせ、薄っすらと青く光る刀身で食屍鬼グールの群れを塵に変えていく。


 真央の配下の魔物達はドルフが影狼達を率いて、羊の群れを追い立てる猟犬のように外側から包囲網を狭めていく。ドルフたちによって誘導された食屍鬼に対して、リーナが本来の姿に戻って、目にも止まらぬ速さで遊撃を繰り返し、その軌跡が蒼く尾を引く閃光のようになっている。リーナが通り過ぎた後は、食屍鬼の群れが靄となって消える様子しか残らない。それに対し、アルスも本来の姿に戻って、無限分裂からの圧倒的な物量で食屍鬼グールの群れを飲み込んでいる。


「どうやら、殲滅したか?」

 終わりの見えないほどの食屍鬼グールの群れの襲撃だったが、対する面子が過剰戦力とも言える程だったので、苦戦する様子もなく、殲滅戦は終了した。

「それでも、結構なタイムロスとなってしまいましたわね…」

「仕方ないさ。一点突破で包囲網を抜けるって手もあったかもしれないが、万が一があると飲み込まれ兼ねないほどの物量だったからな…」

「まぁ、おかげでレベルも上がったみたいだから、結果オーライよ」

「ステータスの確認は安全を確保してからにするか…先を急ごう」

「「了解」」


 こうして、俺たちはあからさまに怪しい城の前へと辿り着いた。



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