第85話 吸血鬼ダンジョン

「こ、これは…?」

「何が起きたというんだ?」

「ドルフに頼んで、門の前まで転移してもらったんだ」

「転移だと?」

「そんなスキルが本当にあるのですね…」

「途中に出る魔物化した住民を倒すわけにはいかないからな」

「なるほどな。確かに敵?を倒さずに移動するとなると面倒だ」

「そうですね。私達はちょっと真央さんの便利さに慣れてしまってますけど…」

「いいんじゃない?おにぃだし」

 明璃…その理由でみんな納得するのかよ…

「まさか、こんな移動手段があるとは…これならダンジョンの奥にも一瞬で行けるんじゃないか?」

「さすがにそう都合良くはいかない。俺や仲間が一度行ったことのある場所で、影のあるところにしか転移できないんだ」

「なるほど、そんな制限があるのですね…」

 影渡りの制限に麗華が残念そうな顔をするが、

「それでも、今まではここまで来ることもできなかったんだから、凄いよ」

 数日前からここを探索していた小夜にとっては大きな進歩らしい。

「さぁ、ここからが本番だ。おそらく、このダンジョンはBランク以上へと進化しているはずだ。道中の魔物もランクが上がっているから気をつけろよ」

「心配は無用ですわ。Bランク程度なら、わたくしが遅れを取ることはありませんわ」

「この俺も、Bランクなら然程問題はなく進めるだけの自負はあるぞ」

 さすがはSランクということか、麗華も零士もまだまだ余裕が見える。

「私もやるわよ!」

 小夜は少し気負い過ぎだな…

「そう焦るなよ、ダンジョン探索も俺達の流儀でやらせてもらう」

「リーダーは真央さんですから、異存はありませんわ」

「不本意だが、リーダーの命令に従わないなど、ダンジョンでは命取りになることはわかっているからな。俺も従おう」

「ゴブリン1匹にてこずってた頃とは大違いよね…すっかり抜かれちゃったわ。私もリーダーに従うわよ」

「OKだ。なら、今持てる最大戦力で迅速に攻略するぞ」

 ごくり…咲希達、俺のチームメイトがそこまでする?という感じで唾を飲み込む音がした。

 とはいえ、影狼達は、各地で魔物が活性化しているというから、監視のために派遣してあるからな…

 今出せる最大戦力はアルス、リーナ、ドルフにシャドウナンバーズくらいだ。レオンカイザーは探索には不向きだから、今回は控えていてもらおう。

 俺はまとめてみんなを召喚する。

「みんな(レオン以外)、召喚出て来い

 ズラッと、俺の前に少女姿のアルス、和服のリーナ、忍者装束のドルフに影狼達が並ぶ。

「ちょっと!どうして人間が出てくるのよ?」

 小夜が真っ先に驚きを表す。

「そちらの綺麗な女性はどなたですの?」

 麗華はリーナが気になるようだ。

「…」

 おい、零士。リーナに見惚れてる場合じゃないだろう?

「あ〜…小夜。俺の召喚する魔物達は…一部、人間の姿をしているんだ。その方が魔力消費が少ないんだそうだ」

「そうなの…?」

 順に紹介する。

「アルティメットスライムのアルスだ」

「よろしくね!」

 どこか聞き覚えのある声だと思ったら、先程まで喋れることを知らなかった小さな護衛と同じ声なのだ。

「ほ、ほんとにあのスライムなのね…」

「隣にいるのが、神狼フェンリルのシルヴァリーナ。愛称はリーナだ」

「皆様、お初にお目にかかる方もいらっしゃるようですが、何卒、よろしくお願いいたします」

 丁寧なお辞儀のリーナに、初対面の3人も丁寧なお辞儀で返す。

「い、いえ…こちらこそよろしくお願いいたしますわ」

「あ、ああ。なにか困ったことがあるなら遠慮なく言ってくれ」

 零士よ…いつものツンケンした態度はどこへ行った?

「よ、よろしく。それにしても綺麗な女性なのね…本当にこの人が魔物だなんて信じられないわ…」

 そして、索敵や周囲の警戒、情報収集を担う、影人狼のドルフとその配下の影狼達だな。

「探索は我らにお任せください」


 さて、紹介も済んだことだし、本格的にダンジョンの攻略を始めるとしよう。


 俺達は、門を潜り、次の階層、本来ならダンジョンの1層だった場所へと足を踏み入れた。本来なら門のそばには出入りを管理するための建物があるのだが、廃墟となり朽ちているので、今回は進入記録なしでダンジョンへ突入することとなる。


 新たに生まれた外の町を1層とするなら、ここは2層ということになる。ここは吸血鬼のダンジョンだからか、夜行性の魔物が多いのかもしれない。魔物側に有利になるように常に夜の状態を保っているのだろう。

 外と変わらないような廃墟の町だが、遠くに見えるのは墓地だろうか?そして、その先の小高い丘に洋風の屋敷…いや、あれは城か?が建っているのが見て取れた。

「どうやら、探す手間はそれほどかからなそうだな」

 念のため、影狼達にアルスの分体を伴わせて、散開させ、周囲の探索を命じる。

「みんな、頼んだぞ」

「お任せを!」

 影狼達がその姿を消してダンジョン内へと散っていく。残されたのはアルスの本体とリーナ、ドルフだ。


 探索は影狼達に任せて、俺達は、あからさまに怪しい城に目を向ける。

「小夜、このダンジョンにはあんな城は元からあったのか?」

「ううん。私も初めて見るわよ」

「なら、決まりだな。まずはあの城を調べる」

「わかった」「うん」「どう見ても怪しいですもんね」「いいと思いますわ」「さて、鬼が出るか蛇が出るか」「行きましょう!」


 ドルフを先頭に、リーナが後に続く。その後ろを俺達が歩き、アルスには殿を任せることにして、俺達一行は丘の上の城を目指す。

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