第84話 眷属化

「小夜!」

「小夜さん!」

「みんな…ほんとにいた…」

「小夜こそ、どうしてこの町に?」

 久しぶりに再会した小夜はどこかやつれたように見えるが…

「うん…実はね…」

 小夜が話してくれた内容は、

 この町の出身で、弟が魔物化の奇病に罹ってしまったので、賢者の秘薬エリキシルを求めてたこと。

 賢者の秘薬エリキシルを飲ませたが病気が治らなかったこと。

 数日前に訪れた時には町が廃墟になっていて、住民が全て吸血鬼化してしまっていたことなどだった。

「なるほどな…」

「何かわかったのか、真央?」

「いや、この町がこうなった根本的な原因はわからないけど、弟さん…貴志くんだっけ?魔物化ってのは、多分、眷属化のことだから、霊薬エリクサー…あ、いや、賢者の秘薬エリキシルじゃ治らないよ。あれは病気じゃないからな」

「どういうことよっ!?」

 俺の説明に小夜が食ってかかる。

「落ち着けって」

 弟のために頑張って秘薬を探してたのに、それは意味がないと言われたのだから、この反応もわかる気もするが…とりあえず、俺は眷属化についての説明を続ける。

「眷属化っていうのは、主に高位の吸血鬼バンパイアが使うんだが、家族、仲間、下僕、まぁ、言い方は色々あるが、相手の体内に自分の血液を流し込むことで従属化させる、どちらかというと、魔術的な契約に近いから、霊薬エリクサーじゃ、治らないんだよ。一時的に進行を止めるくらいは効果があるけどな」

「真央?あなた、何でそんなこと知ってるのよ?」

「まぁ…話せば長くなるんだが…」

 かいつまんで異世界と俺が魔王だったことの話をする。

「何よそれ…そんな話信じられるわけないでしょ!?」

 まぁ、いきなりこんな話をしてもこれが普通の反応なんだろうけど…

「と、言いたいところだけど、何か妙に説得力があるのよね…それに、今の話を聞いた咲希や里奈が完全に信じてるって顔してるし…」

「小夜」

「咲希はともかく、里奈まで信じてるってことは、あたしのいない間に何かあったんでしょ?今の話を信じるだけの根拠みたいなものが…さ」

「小夜さん…」

「ねぇ…聞かせてくれる?真央。弟を…貴志を…それに、町のみんなを助ける方法は…あるの?」

 震えながら小夜が俺に聞いてくる。もしも、「ない」と答えられたなら、それはもう町の住民も弟も魔物として討伐しなければならないということになるからだろう…

「方法は…ある。間に合えば…だけどな」

 俺の答えに、希望を見出したかのように、小夜の表情が明るくなる。

「ほ、ほんとにっ?」

「ああ。眷属化は、その親となる魔物を討伐することで、血の契約が解除される。その後に回復なり、浄化なりすれば元に戻るはずだ」

「そうなの!?よかった〜…」

「安心するのは早いぞ。間に合えばと言ったはずだ」

「どういうこと?」

「眷属化はまず身体が魔物化する。そして、徐々に精神というか心というか…まぁ、魂だな。それが完全に魔物化してしまうと元に戻すことはできないんだ」

「そんな…それじゃ…」

 希望を持たされた瞬間に落とされたような感覚なのだろう…小夜が絶望したような表情へと変わる。

「確か、小夜が、この町に来たのは数日前だったな?」

「うん…」

「その時にはもう、町は廃墟で、住民が魔物化していた…だよな?」

「うん…そうだけど…」

「身体が完全に魔物化してから、魂まで変質するのには大体7日…一週間くらいかかる。猶予があるとするなら、あと数日あるかどうか…ってところか?一匹捕まえてみないとはっきりとしたタイムリミットはわからないか…」

「魔王様、捕まえてまいりました」

 おい…さすがに仕事が早いなドルフよ…

「まぁ、いいか。魔物鑑定」

【名前】山田太郎

【種族】下級吸血鬼レッサーバンパイア/人間

【LV】12

【HP】260/260

【SP】185/185

【力】44

【知恵】42

【体力】45

【精神】43

【速さ】41

【運】19

【スキル】

 噛みつき、吸血、ひっかき

【状態】

 眷属化(88/168)

「タイムリミットは後3日ってところか…」

「3日…」

 思ったより少ない残り時間に、小夜の声から焦りが感じられる。

「ぐずぐずしてる暇はなさそうだな。残り3日でこの町のダンジョンを攻略して、親玉の吸血鬼バンパイアを倒す」

「わかった」「ええ、やりましょう!」「うん!」

 俺の行動に慣れた仲間たちからは頼もしい返事が返ってくる。

「みんな…ありがとう」

 そんな俺達に小夜が感謝の言葉を述べる。

「しかし、現実的にはかなり厳しいですわね」

「ここにあったダンジョンはCランクだった筈だ。3日でどこに居るかもわからない吸血鬼バンパイアを倒すなど…不可能に近い」

 俺達とダンジョンに入るのが初めてな麗華と零士は3日というタイムリミットは厳しいと思っているようだ。

 まぁ、ダンジョンが成長しているなら、今ここはBランク程度になっているはずだし、俺たちのことを知らなければ、そう思うのも無理はない…か。

「小夜、この町のダンジョンの門があった場所はどこだ?おそらく、そこから次の階層に行けるはずだ」

「うん。この大通りを真っ直ぐ行った先に、役所やら病院やらが纏まった区画があるわ。でも、吸血鬼化した住民が多すぎて、先に進めないのよ…」

「ドルフ、頼めるか?」

「お任せください」

 そう答えたドルフが影の中に消える。

「そうだ、小夜もパーティに入ってくれ」

「うん。わかったわ」

“立花小夜がパーティに加わりました”

 …

「真央さん?時間が惜しいというのに、動かなくてもよろしいんですの?」

「まぁ、そう焦るなよ」

 麗華へ答えたところで、俺の影から闇が吹き出した。

「な、何だっ!?」

「敵襲!?」

 吹き出した闇の中から、忍び装束の人狼が現れる。

「門周辺の安全は確保しました」

「ご苦労。じゃあ、みんな、行こうか」

 俺の号令に、咲希、明璃、里奈はすぐに察して、俺の側に移動してきた。

「麗華と零士、それに小夜もこっちへ来てくれ」

「なんですの?」

「おい!どういうつもりだ?」

「こ、これでいいの?」

 全員が俺の側に集まったので、ドルフの影渡りを発動する。

 ブワッっと影から闇が吹き出したかと思えば、俺たちの目の前には見慣れたダンジョンの門がそびえ立っていた。

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