第83話 再会

 車に乗ったままダンジョンに突入することはできない。俺達は車を降り、徒歩で進む。

 僅かな空間の歪みを通り抜けたとき、今までは、昼だったはずが、一瞬で夜へと変わった。

「これは…?」

「吸血鬼のダンジョンだからだろ?あいつらの活動に最も適した空間になってるんだろうさ」

「なるほど」

 時間帯すらもダンジョンでは常識を覆すことがあるのだ。


「パーティはどうする?」

 俺達はいつものようにパーティを組むつもりでいるが、麗華と零士はどうだろうか?

「リーダーは真央さんにお願いしますわ。わたくしと零士は真央さんのパーティに加わらせてくださいな」

「了解だ」

 Dフォンを操作し、麗華と零士にパーティへの招待を送る。

“竜咲麗華がパーティに加わりました”

“進藤零士がパーティに加わりました”

「まずは二人のステータスを確認させてくれ」

「ええ。構いませんわ。ステータスオープン」

【名前】竜咲 麗華

【職業】聖氷の戦乙女ヴァルキリー

【LV】66

【HP】1350/1350

【SP】1340/1340

【力】338

【知恵】340

【体力】272

【精神】278

【速さ】208

【運】64

【スキル】

 剣術、氷剣術、氷魔法、光魔法、勇士の行軍、属性強化、勇士の鼓舞、魔力操作、闘気開放、消費魔力半減、

【希少スキル】絶対凍柩コキュートス、直感


「いいだろう。戦力の把握は必須だからな。ステータスオープン」

【名前】進藤 零士

【職業】闇夜の探索者ナイトサーチャー

【LV】59

【HP】910/910

【SP】620/620

【力】248

【知恵】186

【体力】194

【精神】245

【速さ】310

【運】68

【スキル】

 暗殺術、夜目、気配察知、魔力感知、罠探知、罠解除、隠密、魔力操作、集団隠秘

「OKだ。大体のことは把握した。後は実践で連携の確認をする」

「ええ。わかりましたわ」


「じゃあ、行くぞ」

「「「「「はい」」」」」

 俺の号令にみんなが頷く。

「では、まずは俺が先行偵察に出よう」

「ええ、お願いできまして?零士」

「ああ、その必要はないぞ」

「それはどういう…?」

「ドルフ、シャドウナンバーズ召喚」

 俺達の前に、ドルフと10体の影狼が現れる。

「お呼びにより、馳せ参じました」

「しゃ…喋った?それにこの魔物達は…?」

「俺の仲間達だ。彼らは偵察に特化していてな、その察知範囲は数km先まで余すところなく感知可能だ」

「数km先まで…だと?バカな!?」

「信じられないか?」

「当たり前だ!この俺でさえ、数百m先を感知するので精一杯だというのに…」

「自分の斥候技術に自信があるのは結構なことだが、狭い世界しか見ていないと足元を掬われるぞ?」

「なんだと?」

 これは説明するより見てもらったほうが早いな。

 俺は麗華と零士にわかるようにドルフのステータスを開示する。

「ステータス!」

【名前】ドルフ・ドライセン

【種族】シャドウワーウルフ

【LV】850

【HP】25000/25000

【SP】18500/18500

【力】3500

【知恵】3200

【体力】2500

【精神】3100

【速さ】8500

【運】99

【スキル】

 爪術、体術、暗殺術、影渡り、影分身、絶影、闇魔法、眷族招集、身体強化、

 HP自動回復、HP回復量増加

 念話、言語理解、気配察知、魔力感知、熱源探知、千里眼、並列思考、高速思考、影収納、

 物理攻撃耐性、魔法攻撃耐性、精神攻撃無効、全状態異常無効


「な…なんだこれは?俺は一体何を見せられている…?」

「なんなのですか…?このステータスは…?」


「これで少しは信じてもらえたか?」

「くっ…」

「もしかして、以前会ったスライムも?」

「ああ、アルスはもっと強いぞ」

「そんなこと…」

 麗華が衝撃を受けているようだが、とりあえず、これでドルフ達に索敵を任せることに反対はなくなっただろう。

「ドルフ、シャドウナンバーズを連れて、散開。第一目標は住民の発見、敵は見つけ次第討伐して構わない。異変があった場合は知らせろ」

「御意…お前達、聞いたな?散っ」

 シュバババッと影狼達が、その場から消える。

 …

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

「はぁ、はぁ、はぁっ…」

 敵から逃れるように廃墟のビルの影に隠れている女性がいた。

「なんなのよ…まったく…」


 息を潜め、敵の姿が見えなくなるまでじっと待つ。

「どうやら、行ったようね…」

 廃墟と化した町の中に魔物が徘徊している。今までも何度もダンジョンには潜っているが、ここまで魔物の数が多い場所は見たことがない。


 町を徘徊している魔物の容貌は、真っ白い肌に、真っ赤な目、口からは鋭い犬歯、いや牙が生えている。

 かつて何度も狩ったから、あれらが吸血鬼バンパイアであることはわかる。わかるのだが、様子がおかしい。その変わり果てた姿に懐かしい面影があるのだ。

 いつもコロッケを1個おまけしてくれた肉屋のおっちゃんに、学生時代にお世話になった定食屋のおばちゃんに、ハタキを持って万引きするガキ共を追いかけ回してた本屋のおじいちゃん…そして、幼い時より一緒に遊んでた幼なじみ達…

 この現象には心当たりがある。ダンジョンボスの吸血鬼の魔石が高値で取引されるとわかってから、この町の冒険者はこぞってダンジョンへ潜るようになった。

 その際、極稀にだが、吸血鬼の攻撃を受けた冒険者が魔物化し、吸血鬼へと変貌するという事故が起きることがあった。

 だが、その発生確率は1年間に多くても数人程度だったはずだ。

 こんな、町の住人全てが吸血鬼になるなんて考えられないことだった。

貴志たかし…」

 思わず口からこぼれたのは、最愛の弟の名前だ。

 ダンジョン内で自分を庇い、吸血鬼の攻撃を受けたことで、吸血鬼化の症状が弟にも現れ、病院で隔離されていた。症状が進み、完全に魔物化した場合は、討伐対象となり、処分されてしまう。

 その前に、どんな怪我でも病気でも治すという、幻の薬、賢者の秘薬エリキシルを手に入れる必要があったのだ。

 幸いにもほんの1ヶ月と少し前に賢者の秘薬エリキシルを手に入れることができた。仲間だった真央と咲希には感謝しかない。

 急いで病院の弟の元へと向かい、無事賢者の秘薬エリキシルを飲ませることができたのだが…残念なことに弟の吸血鬼化は治らなかったのだ。それでも、多少の効果はあったらしく、病状の進行がかなり遅くなったと医師から説明を受けた。

 人間の魔物化に関する情報を集めるべく、ギルドやダンジョンへと足を運んだが、その成果は芳しくなく、数日前に弟の見舞いにと戻ってきたら、町が突然、夜が明けない廃墟になっていたのだ。

 なんとか病院まで行こうと頑張ってはみたのだが、多勢に無勢で、未だに病院には辿り着けていない。

「あなたがいなかったら、私もあいつらの仲間になっていたかもね…」

 賢者の秘薬エリキシルと共に渡された、小さな護衛に声をかける。

「マオー様が来てくれたから、もう大丈夫だよ」

「!!あなた、喋れたの?」

 小さな護衛が自分に初めて声をかけてくれたことに驚くも、その内容にまた驚いた。

「マオー様って…真央のことよね?ここに来てるの?」

「うん。あっちだよ」

 ニュ〜っと体を伸ばし、方向を指し示す。

 真央から渡されたスライムの示す方向へ向かうと、そこには強大な気配を持つ、黒い狼がいた。

「な…何?あれ?」

「仲間だよ〜」

「あ、あれが?仲間…?」


 住民の発見を最優先と言われていた影狼が真央へと連絡をする。

「魔王様、住民と思しき女を見つけました。アルス様を伴っているようです」

「何?」

(あ〜。前に分体を預けた娘だね)

「もしかして…小夜か?」

「え?小夜がいるの?」

「小夜さん…ですか?」

 俺達は、影狼のいる場所へ向かい、そこにいた立花小夜と再会を果たした。

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