第82話 吸血鬼ハンターの町
「ここからですと、隣の県にある町の一つで問題が起きているのですわ」
麗華の話だと、吸血鬼の魔石は需要が高く、高値で取引されているんだとか。問題のその町からも吸血鬼の魔石は出ていたのだが、それほど大量でもないため発覚が遅れたとのことらしい。
「遡って調べてみましたら、およそ数ヶ月前から異変が起きていたようですわ」
「それで、今は町全体が廃墟のようになっているって話だったが…?」
「そうなんですの。異変に気がついたので、調査隊を派遣したのですが、町全体が廃墟のようになってしまっていて、住民が確認できなかったのですわ」
「町一つの住民が忽然と消えてしまっているってことなのか?」
「そのようですわ。町が突然廃墟になるなど聞いたこともありませんわ…一体、何が原因なのか、見当もつかないのですけれど…」
「その現象については心当たりはあるんだが…確証は持てないな」
「そうなのですか!?その心当たりとは…?」
「その町に元々あったダンジョンは廃墟のダンジョンじゃないのか?」
「そうですわ。ご存知だったのですか?」
「いや、そうじゃない。町が突然廃墟になったというなら、考えられるのは、ダンジョンが成長して、町を侵食したんだろうさ」
「ダンジョンが成長?」
「先日の冒険者学校のダンジョンも成長して氾濫が起きたからな」
本当の原因はエルフ達だけどな…まぁ、ダンジョンの成長がきっかけでこっちの世界へ渡ってきたらしいから、あながち嘘ってわけでもないんだが…
「それに、神崎会長が集めた情報では最近、各地で魔物が活性化しているらしい。ダンジョンが成長した可能性は十分にあるんだ」
「そうなのですね…」
「まぁ、結局は、一度行ってみないと詳しいことは分からなそうだな」
「ええ。もとよりそのつもりですので、車を手配してありますわ」
あ…この流れって…また高級車で連れて行かれるパターンでは…?
「そ、そうか…なら、準備ができ次第、現地に向かうとしよう」
「零士、車をこちらに回すよう、運転手に伝えてくださいな」
「かしこまりました、お嬢様」
…
何度乗っても、染み付いた庶民感覚ってのは抜けないもので…優雅に佇む麗華たちと違って、俺達はリムジン《車》の中で浮足立っている。
場所だけ聞いて、リーナに先行させて、ドルフに転移で運んでもらった方が早かったんじゃないだろうか…?リーナの速度なら、隣県くらい十数分で着くだろうに…そんな考えが頭に浮かんでくる。
そんなことを考えながら、窓の外をぼんやりと眺めていると、麗華が話しかけてきた。
「あの…真央さん?」
「ん?」
「以前、
「何のことだ?」
「え?あの…え?…忘れて…?あれ?」
「何だよ?言いたいことがあるならはっきり言ってくれ」
「いつの日か共に戦場に…と」
「ああ!そういやそんなことを言われたような…」
「お…覚えてないなんて…」
麗華が愕然とショックを受けたような顔をしていたが、すぐに気を取り直したようで
「あの頃の真央さんは頼りなかったですけど、今やすっかり立場も逆転してしまいましたわね」
「あ〜…レベルの話か?こっちには色々と秘策があるからな」
「秘策…ですか?」
「まぁ、あんまり気にしないでくれ」
「そう言われると余計に気になるのですけれど…」
「お嬢様、もうそろそろ目的地へ到着いたします」
俺達の会話を遮るように、零士が到着が近いことを知らせてきた。
「ん?町まで直接行くんじゃないのか?」
「それが、町へ直接車で乗り入れることができないんですの」
「ああ、そういうことか」
「何か、不思議な力で押し戻されるようでして…」
「そりゃそうだろ。町自体がダンジョン化しているなら、決まった入り口以外に外部からは入れないだろ?」
「そういうことでしたのね…まさか町ごとダンジョンになっているなんて…」
「まぁ、普通はそんなこと思いもつかないだろうさ」
「何故真央さんがその現象を知っているのか気になるところですけど…」
「言っても信じられない話だからな…」
「そう…ですか」
麗華は少し寂しそうな顔をした。
…
「不思議な感じだな…町は見えているのに入れないなんて…」
咲希が率直な感想を言う。
「ダンジョンの不思議は考えたところで解き明かせるもんじゃないからな」
「ほんとに…ダンジョンってなんなんだろうな…」
「それは
「ダンジョンは何なのか?有識者の間では今でも議論が繰り返されているダンジョン哲学ですよね」
里奈が会話に加わる。
「もっとも…真央さんの話を聞いてしまうと、今まで悩んでいたのはなんだったのか?ってなりますけど」
あはは…と苦笑いを浮かべる。
「おにぃの話は荒唐無稽だからね〜。信じろっていうのは無理だもん」
明璃も加わり、俺達
あ〜…これは真偽はともかく、一度話したほうが良さそうだな。このままの状況でダンジョン探索は万が一が起こりうる気がする。
「麗華」
「なんですの?」
「さっきも言ったが、俺達の知っている情報…というか、事情だな。信じるかはともかく、少し話しておきたい」
「よろしいんですの!?」
そんな嬉しそうな顔をするな。
「ふんっ!話したいというなら聞いてやらんでもない」
いや、零士はどうでもいいな。
「いや、別に聞いてほしいわけじゃないからな。無理にとは言わないぞ」
「なんだと!?」
面倒くさいやつだな…
「零士、ちょっと黙ってなさい!」
ほら、麗華も怒ってるぞ。
「も、申し訳ありません…」
「さて、どこから話せばいいのか…」
こうして、俺の抱えている事情を麗華に説明した。
…
「はっ!何を言うのかと思えば、なんだそのおとぎ話は?お嬢様、こんな話は聞くだけ無駄でしたね」
「いえ、
「お嬢様!?」
「以前、真央さんから感じたアンバランスさも、これで納得できましたわ」
「アンバランスさ?」
「冒険者登録をしたばかりの初心者が、強大な仲間を従えていたり、
「ああ…そういうことか」
「あの…真央さん?」
「どうしたんだ、里奈」
「蘇生ってどういうことですか?」
そういや、異世界の話はしたけど、俺の両親に関する話はしてなかったな…
「俺の両親はダンジョンで命を落としたんだが、俺の仲間の中に蘇生魔法が使えるやつがいるんだ」
「蘇生…魔法?」
「ああ、だから、麗華には吸血鬼に関しての情報を集めてもらってたのさ」
「そ…それはっ!誰でも生き返ることができるんですか!?」
「誰でも…というわけにはいかないな。魂と肉体が残っていないと…」
「そう…ですか…」
悲痛な顔をする里奈を見て、思い出した。そうか、里奈も両親を失っているんだったな…
「すまない…里奈の気持ちを考えてなかった…」
「いえ…いいんです!真央さんなら、もしかして…なんて勝手に希望を持った私が悪いんですから…」
淡い希望を打ち払うかのように、涙ぐんだ目をこすり、無理に笑顔を作ろうとする里奈を見て、なんとかしてやりたいと思ってしまった。
…
「ここが、この町、いえ、このダンジョンの入口ですわ」
町をぐるっと一周し、麗華が示した先には、町へと続く街道があり、その途中の空間が少しだけ歪んで見える。なるほど、よく見なければここが入り口とは気づかないかもしれないな…
いよいよ、吸血鬼のダンジョンへと突入する時が来た。
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