第77話 契約

 事切れたエルフ達の身体が、黒い靄へと変わっていく。

「これは…」

 こいつらも実体を持たないのか…

 だとすると、女神教の魔法陣というやつは転生魔法陣の類か?


「神狼よ」

(はい、なんでしょうか?)

「お前はこの迷宮で生まれた迷宮主だな?」

(迷宮主という言葉は知りませんが、私の中に暗く澱んだ力を感じます。ただ、今は迷宮を成長させたことで力を失っているようですが…)

 なるほど、迷宮核が力を使い果たしているから、この神狼は迷宮の支配力に抗えているんだな…でなければ、問答無用で俺達に襲いかかってくるはずだ…

「異世界からの侵攻を止めるためには、俺達は、お前を倒さないといけないんだ…すまんな」

(構いません。私の中に感じる黒い力から、何もかもを破壊したくなるような衝動を感じます。このままだと、私の意識は消え、破壊の魔獣と化してしまう…恩人に牙を剥くなど、神狼としての誇りが許しません)

「最期に望みはあるか?できることなら叶えてやりたいが…」

(願わくば、私も魔王様の配下の末席に加えていただけたら嬉しく思います)

「できるかはわからんが…やってみよう」

(ありがとうございます)


 竜牙刀の鯉口を切り、咲希へ告げる。

「咲希、闘気の先を見せるよ。よく見てて」

「闘気の先…?…うん。わかった」


 俺の身体から、白い湯気のようなもの…闘気が立ち上る。

 それと同時に、青い光が全身を覆うように輝きを放ち始めた。

 白と青が混ざりあい、全身から刀へと伝わる。

「いくぞ…魔闘一閃…迅雷」

 鞘から抜き放たれた剣閃が神狼の首を刎ねた。

「見たか?」

「うん…よくわからなかったけど…」

「今のが、魔力と闘気を混ぜ合わせた、魔闘気だ」

「魔闘気…」

「まぁ、今の咲希は闘気を自在に使えるようにって段階だけどな。その先があることを知っておくのは悪くないだろ」

「うん…私もまだまだ、これからだな。頑張るよ」


 俺に首を刎ねられた神狼の身体は黒い靄へ変わり、後には黒い魔石…迷宮核が残されていた。

 神狼だったものの残滓に手をかざし、

契約コントラクト

 …

 やはり…ダメか?俺は新たに魔物と契約することはできないのかもしれないな…

「魔王様、私を通して彼女へ話しかけてみてください」

 リーナが、消えゆく神狼への契約に助力を申し出る。

 俺と絆で繋がっているリーナの魂を通して、消えゆく神狼へと言葉を投げかける。

(戻ってこい!諦めるなよっ!)

(私達と共に行くのでしょう!?気合を入れなさい!)

 黒い靄が、一瞬、光り輝いたかと思うと、俺の体の中へと吸収されるように消えていった。

「成功…したのか?」


 以前、スライムに試したときとは違い、はっきりと神狼の意識が自分の中にあることを感じた。

(よろしくお願いします。魔王様)

「ああ。こちらこそだ。そうだ…いつまでも神狼じゃ呼びづらいな…」

 新たに契約した神狼に名付けをすることに決めた。

(リーナの妹分か…なら…)

「よし、今日からお前の名は、シルヴィ・クレセントだ」


 こうして、俺達の仲間にもう一人の神狼が加わった。


【名前】シルヴァリーナ・フルムーン

【種族】神狼フェンリル

【LV】999

【HP】35000/35000

【SP】28000/28000

【力】5100

【知恵】4500

【体力】4000

【精神】4200

【速さ】9999

【運】99

【スキル】

 神の縛鎖グレイプニル、神爪術、月光、咆哮、鎖術、封印術、氷魔法、身体強化、限界突破

 HP自動回復、HP回復量増加、SP自動回復、SP回復量増加

 念話、言語理解、人化、気配察知、魔力感知、並列思考、高速思考、無詠唱、天眼、空間収納、

 物理攻撃耐性、魔法攻撃耐性、精神攻撃無効、全状態異常無効


【名前】シルヴィ・クレセント

【種族】神狼フェンリル

【LV】188

【HP】6700/6700

【SP】4800/4800

【力】950

【知恵】856

【体力】762

【精神】800

【速さ】1900

【運】86

【スキル】

 神の縛鎖グレイプニル、爪術、咆哮、鎖術、封印術、氷魔法、身体強化、

 HP自動回復、SP自動回復、

 念話、気配察知、魔力感知、並列思考、高速思考、詠唱省略

 物理攻撃耐性、魔法攻撃耐性、精神攻撃耐性、全状態異常耐性


「ん?」

「どうしたんだ?真央」

「いや、シルヴィのレベルがな…」

「レベルがどうだって言うんだ?」

「ああ、ダンジョンで生まれたって言うなら、初期レベルの89のはずなんだが…188になっているんだよ」

「強くなっているっていうなら、いいことなんじゃないか?」

「まぁ、それもそうなんだけど…シルヴィ、何でかわかるか?」

(おそらく、契約時にリーナお姉様の力が私に流れ込んだからではないでしょうか?)

「そういうことか…まぁ、これからもよろしく頼むぞ」

(はい!)

「そうだな…まずは…シルヴィ召喚」

 眼の前に魔法陣が現れ、銀色の神狼が出現する。

「君には、ここにある世界樹を守ってほしい」

(わかりました!元より、世界樹の守り手は私の役目だと思ってますので、このままここで、この世界樹が悪意あるものの手に渡らないように守り抜いて見せます!)

「ああ、頼んだぞ。もしも手に負えないような敵が現れたら、すぐに連絡してくれ」

(畏まりました)


【名前】獅童 真央

【職業】召喚士

【LV】79(5up)

【HP】1041/1041(830+211)

【SP】1610/1619(1290+329 )

【力】211(168+43)

【知恵】208(166+42)

【体力】212(169+43)

【精神】197(157+40)

【速さ】207(165+42)

【運】99

【スキル】

 魔物鑑定、契約、召喚、送還、魔物言語、魔物探知、複数召喚、遠距離送還、魔力操作、召喚魔力半減、魔力自動回復、魂の絆(封印中)

【契約中】

 255/255(2up)

【称号】

 帰還者、世界を超えし者、元魔王、ダンジョン踏破者、魔物を率いる者


「シルヴィの召喚に必要なコストはSP9か…シルヴィの意志で契約したからな、本来、請われて契約するという場合に使われるコストは対象のレベルの1/10ってところか…」

 通常契約だと、召喚対象のレベル分のSPが必要らしいからな…


 召喚士がハズレ職と言われる所以ゆえんをまた感じる真央だった。

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