第75話 尋問

 さぁ。尋問タイムといこうか。


 いや、待てよ…さっきこいつは、女神へ知らせるとかなんとか言ってなかったか?なら、このまま手を出すのはまずいかもしれない。

「アルス、そいつがを持ってるはずだ。探せ」

「わかった」

 …

 しばらくして、アルスがペッと吐き出したのは一枚の金属製のカードだった。

「き…貴様!返せっ!それを…返せぇーーー!!」

 取り乱して暴れるが、アルスの拘束からは抜け出せない。

 俺は徐ろにカードを拾い、エルフに確認する。

「やっぱり、これが女神への連絡用アイテムだったか」

 俺が手にしたのは、俺たちもよく知ると呼ばれるカードだった。

「くそっ…やはり魔王は侮れんか…だが!それは女神様の御力で創られたアイテムだ。破壊はできぬし、我々の身に何かがあれば即座に女神様へと伝わるようになっている!どうだ?それでは我らを殺せまい。ふはははっ」

 なるほど、やはり面倒なアイテムだったか…だが、別の次元に送られてもこちらの情報が拾えるものかね?

「アルス、次元収納に仕舞っとけ」

「おっけー」

 あとは、俺達が手をくださなければいいんだろ?なら、それは俺達の役目じゃないな。


 俺達が欲しいのは情報だからな。

 アルスによって拘束され、首だけが出ている状態のエルフの男の他に、影狼達に捕らえられたエルフ共も連れてきて、全員に向かって話しかける。

「お前たちは、エルジャークの村の出身で間違いないか?」

「ふんっ!誰が貴様などに答えるものかっ!」

「そうだ!この邪悪な魔王めっ!貴様に教えることなど何もないわっ!」

「悪に屈するものなどいない!我らエルフの誇りをなめるな!」


 はぁ…面倒くさい…

「アルス、ベラドンナ薬の2番だ」

「了解」

 アルスの体の色が怪しい紫色へと変化する。

「咲希、危ないから、今のアルスには触るなよ」

 唐突に告げられた危険にどう答えていいものか分からなくなり、

「う、うん。わかった…」

 と、返事をするだけに留まった。


「な…なんだ…これは…」

「く…くそっ…これは…催眠か?卑怯な…」

「この程度、耐えられ…る…はず…だ」

「ぐっ…なんだ…頭が…」

 エルフ達が自分らの体の状態異常に抵抗しようと試みるが、その瞼は次第に下がり、瞳の焦点が合わなくなってくる。

「ドルフ、あとは任せたぞ」

「御意」


 ベラドンナ薬の2番とは、強烈な催眠作用をもたらす幻覚薬を改良したものだ。浸透移行性を極限まで高めてあるので、皮膚からでも、接触した部分から吸収され、脳を含めた身体中の隅々まであっという間に到達する。

 使いすぎれば廃人確定だが、強欲エルフ相手にそこまで気を使わなくてもいいだろう。


「闇魔法…朧幻夢」

 闇魔法の中には相手の精神に働きかけるものもある。

 ドルフの魔法により、俺のことは、こいつらが最も信頼している人物に見えているはずだ。

 …

「気がついたか?」

「はっ…こ、これは大神官様!」

 大神官?村長とかじゃなく…か。神官が絡んでるとなると、女神教の連中が関与しているのか…

「お前達に与えた任務を確認したい」

「我々は、御神木を失った、エルジャーク村の復興のため、異世界で再び世界樹の生育を命ぜられました」

 やはりか。

「年に一度、贄を一人捧げる儀式ではなく、月が満ちる度に、どれだけの贄を御神木に捧げてもよいと仰っしゃられたではありませんか」

 月が満ちる度だと?危なかったな…森の外で1泊していたら手遅れだったかもしれない…

「な、なぁ、真央…さっきから言ってる、御神木とか贄とかって、一体何のことなんだ?」

 咲希がエルフの答えに疑問を持ち、聞いてくる。


「こいつらは、世界樹のあった村のエルフなんだ」

「世界樹?」

「世界樹ってのは、世界の邪気や瘴気などを吸って浄化する役目を持っているんだがな、こいつらはそれを御神木と崇めつつも私物化してたんだよ」

「私物化…?」

「世界樹の樹液には、肉体を活性化させる効果があってな、こいつらはその効果を高めて、不老不死薬を作ろうとしてたのさ」

「不老不死の薬なんてものがあるのか…」

「いや、結局、出来上がったのは不老長寿の薬だったんだがな…問題はその製法なんだよ」

「真央はその製法を知っているんだな?」

「知っているけど、やるつもりはないぞ。世界樹に女子供を生贄に捧げて血を吸わせるんだからな」

「そ、そんな…」

「血を吸わせた世界樹は長い時を経て、半分魔物と化していたからな、俺が切り倒したんだ。明璃にあげた弓は、その世界樹の汚染されてない部分で作った物なんだよ」

「だから、学生たちを拉致してたってことか…生贄にするために…!」

 咲希もこのエルフ達に怒りを覚えたようだ。

「満月の夜に生贄を捧げるってことだからな、今夜が満月だ。今ならまだ生徒たちは無事なはずだ」

「そうか…よかった…」

「あそこに植えてある苗木が世界樹だよ。まだ血を吸って汚染されてないのなら、世界樹はこの世界にとってもありがたい存在になるだろうさ。それだけはこいつらに感謝してもいいかもな」

「あれが…世界樹の苗木…」

「まぁ、その辺りは会長にも相談して、どうするか決めることになると思うよ」

「なるほどな…それで、こいつらはどうするんだ?」

「ああ、まだ聞きたいことがあるからな…」


 そして、俺は再びエルフたちに対して尋問をする。

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