第74話 エルフ
長い階段を降りていくと、暗い森の中のはずだが、月の光が差し込み、辺りの様子がわかる程度の明るさを保っている。いま自分のいる場所がどんなところなのか確認することができた。
「ここは…?」
どことなく静謐な空気の漂う森の中に、開けた空間があり、月の光がまるでそこを中心に照らしているかのように降り注いでいた。
小さな広場の真ん中に、周囲の樹々とはまるで違う雰囲気を持つ苗木が1本だけ生えている。
「あれは…まさか…」
真央の記憶の片隅にあった樹木と、この苗木が重なるが、あれがこんなところにあるわけがないと首を振って自らの考えを否定しようとする。
神狼は苗木を守るように立ち、俺たちを牽制しているようにも見える。
「何事だ!?騒々しい…」
広場の奥にあった、石造りの建物から、ぞろぞろと人間の姿をした者たちが、10人くらいだろうか?俺たちの騒ぎを聞きつけて現れた。彼らの容姿はとても美しく整っていて、先の尖った耳が彼らの種族を象徴している。
「おにぃ…あれって…?」
「ああ。あいつらはエルフだな」
エルフがここにいて、見覚えのある樹木の苗木…そして、学生たちの拉致事件…とくれば答えは一つだ。
真央の中で、怒りが沸騰する。
「あいつら…またあれをやるつもりなのか…」
「
俺たちを一瞥したエルフの代表らしき男が、明璃とアルスを見つけて近寄ってくる。
「ほう…なんだ、いるではないか。これ、そこの女、名は何という?」
問いかけてきたエルフに対して明璃が答える。
「あなたに名乗る名前なんてないわっ!そんなことより!ちーちゃんを返してっ!」
「ふむ。よいよい。元気な女だ。良き贄となってくれるだろう」
「何なの?こいつ…話が全然通じない…」
「神狼よ。この二人以外はみんな喰っていいぞ」
事もなげにそう告げたエルフの男に対して、こちらも戦闘態勢を取る。
「抵抗する気か?ふっ…無駄なことを…」
「グルルルルル…」
エルフの命令によって、苗木を守るようにしていた神狼も殺気を放ち始める。
「宗次さん、気をつけてください」
「ああ。わかっている」
神狼の強さを身をもって知っている宗次の顔には冷汗が流れる。
「アルス、みんなを守ってくれ」
「うん。わかった」
アルスに守りを任せたので、俺は唸る神狼へと視線を向ける。
そうか…お前は
(リーナ!)
(魔王様!ようやく…ようやくお会いできますね)
(ああ。鎖に繋がれた神狼を抑えてほしい。頼めるか?)
(お任せください)
「召喚、シルヴァリーナ・フルムーン」
神狼へ、俺達の排除を命じたからか、エルフの男は俺たちのことなど眼中にないようで、引き続き明璃に話しかける。
「女…!貴様は処女か?」
いきなりそんな質問が飛んできて、明璃が激昂し、弓に矢を番える。
「バッ…バカなの!?あんた?!この変態エロフ!!」
ここで、エルフの男の顔色が変わった。
「貴様…その弓…その弓をどこで手にいれた!!!それは我らが村の御神木より削り出された弓に相違ない!!返答次第では、貴様は贄などではなく、この私の手で殺してくれる…!」
豹変したエルフに対して明璃が戸惑っているので、代わりに答えてやる。
「それは、俺が手に入れたものだ」
バッ!って音が聞こえそうな勢いでエルフが振り向く。
「何だとっ…貴様…いつの間に!?」
「それより…お前、面白いこと言ってたな?我らが村?御神木?」
「そうだ!それがどうした?」
突然背後に現れた俺に驚くも、なんとか平静を装うかのようにエルフの男が答える。
くふふ…ははは…
そうか。こいつはこっちのダンジョンが生み出したエルフじゃない。間違い無く
「あの禍々しい妖樹が御神木とは笑わせてくれるじゃないか」
俺の言葉にエルフの男が反応する。
「何だと?貴様一体…」
「忘れたのか?この俺自ら、あの妖樹を切り倒してやったというのにな」
そこまで言われて、ようやくエルフの男が、あることに気づく。
眼の前で話す人間の男の容姿が、かつて世界の敵だった人物とよく似ていることに…
「ま…まさか…まさか貴様は!」
「ほぅ…思い出してくれたとは光栄だ」
「バカな!魔王は確かに勇者によって討ち取られ、滅ぼされたはず!なぜ貴様がここにいる!?」
「それに答えてやる義理はないな…ドルフ!エルフ共を拘束しろ!」
影の中から返事がする。
「御意」
…
「うわっ!何だ?」
「ギャアアアア!!」
「何だこの魔物たちは!!?」
「やめろっ!離せっ」
「バカなっ!我々にこんなことをしてただで済むと思うなっ!」
ドルフ率いる影狼たちがエルフ共に襲いかかっている。レベル差がありすぎるだろうが、ドルフ達なら上手くやってくれるだろう。
「くっ!神狼は何をしている!私の身を守れ!」
「無駄だ。お前の連れている神狼は俺の部下が抑えているからな」
そう言われて、神狼の方を見ると、和服姿の女によって、地面に鎖で繋がれ、身動きが取れないようにされていた。
「そ…そんなバカな…」
「知らなかったのか?神狼は
劣勢を悟ったエルフの男はどうにかこの場を切り抜けようと、頭を巡らせる。
「こ、このことを一刻も早く女神様へお知らせせねば…ど、どうすれば…どうすればこの場を切り抜けられる…」
そして、目に入ってきたのは、この場に似合わない、白いワンピースの少女だった。
エルフの男がニヤリと笑う。
一瞬の隙をついて、白いワンピースの少女に近づき、ナイフを首筋に当てた。
「ふははは!形勢逆転だな」
勝ち誇ったように言うが、やつは自ら処刑台に上がったことに気づいていないのだろう…
「憐れだな…」
「なんだと…?」
俺が少しも慌てていないことを不審に思っているようだ。
「アルス!飲み込め。少し情報が欲しい。殺すなよ」
「うん。わかったよ〜」
次の瞬間、エルフの男へと、擬態を解いたアルスが襲いかかる。
「ぐっ…ぐわっ!ま、まさか…そんな…くそぉ!離せっ!離さんかっ!」
「さて…お前には色々と聞きたいことがあるからな。素直に話してくれると助かる」
「ふっ…ふざけるなっ!誰が貴様なんかに!」
うん。いいね。無抵抗のやつより、こういうやつの方が心置きなく情報を聞けるってもんだ。
その前に、やることがあるな。
「宗次さん。あの石造りの建物に攫われた生徒がいると思います。そっちを任せてもいいですか?」
「あ、ああ。わかった」
「明璃、友達はあの中にいると思うから、助けに行ってやるといい」
「わ、わかった!ありがとう。おにぃ」
「咲希も里奈も明璃について行ってくれるか?」
「わかりました。回復が必要なら私もお役に立てるかもしれませんね」
「真央はどうするんだ?」
「俺は、ちょっとこいつらに聞きたいことがあるからな…」
「なら、私はこっちに残るよ」
「なんで…?」
「真央が心配だからな。今、酷い顔してるぞ?気づいてなかったのか?」
そうか…咲希には隠し事はできないな…
「これからすることは、あまり見せたくなかったんだけどな…」
「そんな心配するな。わたしはどんなことがあっても真央に着いていくって決めてるからな」
「ありがとうな」
さぁ。尋問タイムといこうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます