第72話 合流


「あれは…宗次さん達か!」

 戦闘をしている者たちは、この学校の講師陣である、Aランクパーティーの緋色の刃スカーレットブレードの面々だった。

「もうっ!何でこんなところにレッドウルフが出るのよ!」

 出現した敵に文句を言うのは炎魔導士の陽子だ。

「文句言わずに魔法撃ってくれ!」

 レッドウルフの敵意ヘイトを一身に引き受けている重吾が辛そうに言う。

「こいつら、火耐性のせいで魔力消費が大きくなるから面倒なのよっ!」

 愚痴をこぼしながらも、炎の魔法でレッドウルフの群れを攻撃する。

「重吾さん!回復します!回復ヒール

 恵理は傷ついた防衛職タンクへ回復を施す。

「流石にこの数は面倒だな…」

 敵の急所を的確に斬り裂いていた真田も数の暴力に疲れが見え始めた。

「ふっ…この程度なら、まだまだ俺の敵じゃない」

「病み上がりがよく言う」

 戦線に復帰したリーダーの言葉に真田はニヤリと笑いながら、少し弱気になった自分を鼓舞する。


 奮闘している緋色の刃の姿を見た真央も参戦を決意する。

「宗次さん!助太刀します!」


「真央くんか!?助かる!」


「シャドウゼロからシャドウナイン!召喚」

 助太刀を申し出た真央の前に複数の魔法陣が光り輝く。

 現れたのは10体の黒い大きな狼達だった。

「ドルフ、シャドウナンバーズを率いて、あの狼共を殲滅しろ!」

「はっ!」

 主の号令に答えるかのように、黒い魔物達は、その場から消えた。

 次の瞬間、重吾が引きつけ、宗次たちが攻撃を仕掛けていたレッドウルフの群れが、足元の影から放たれた斬撃によって、黒い靄となり、やがて空気に溶けるように消えた。


「今のは…一体…」

「そんな…一瞬で?」

「何が起きたの?」

 何が起きたのか、全くわからないまま、魔物の群れが消えたのだ。真田たちがこぼしたその疑問も当然といえば当然だろう。

 中心にいた忍者のような魔物を知っている宗次は、

「今のが、真央君の新しい力か…凄まじいな」

 と、起きたことはわからないが、その結果を齎したのが真央であることは分かったようだ。


 レッドウルフの群れを殲滅したドルフ達が、真央の元へと集結する。

「魔王様、任務遂行致しました」

「ああ、ご苦労」

 そんな俺達の元へと、宗次さん達も集まってきた。

「真央くん?その魔物達は?」

「見たこともない魔物ですけど…」

「レッドウルフなんて比べ物にならないくらいの力を感じるな…」

「凄いわね…」

「なんにせよ、助かったよ。ありがとう」

 みんなが思い思いに質問をしてくるので、簡潔に、ドルフやシャドウナンバーズを紹介した。

 丁寧な挨拶に、魔物が喋ったことも驚かれたが、少女の姿のアルスを紹介したことが一番の衝撃だったようだ。


「ダンジョンの中で戦っているのは先生達だけなんですか?」

 明璃が自分の担任でもある、真田先生へ問いかける。

「あぁ。入口付近でDランクのケイブウルフの出現が確認されたからな。生徒たちには地上に溢れた魔物の対処をするように言ってある。もちろん、無理はするなと厳命してあるがな」

「そうですか…」

 望んだ答えが帰って来なかった明璃が落胆する。

「何かあったのか?」

 明璃の態度を心配するように、真田が声をかけた。

「ちーちゃん、いえ、私の友人で、学校の魔物氾濫のことを教えてくれた子が、地上にいないんです…Dフォンの連絡も繋がらないので、もしかしたらダンジョンで戦ってるのかもと思って…」

「もしかしたら…」

 そんな明璃の返事を聞いて、陽子が話に加わった。

「何か心当たりがあるんですか?」

「ここまで来る途中で、生徒達は地上へ行くようにって話をしていたんだけど、何人かの学生が、仲間が魔物に連れ去られたって言ってたのよ」

「え?魔物に…ですか?」

「えぇ。魔物が人を攫うなんて話は聞いたこともなかったのだけど、万が一ということもあるから、私達で深部まで行って確認しようとしていたのよ」

「そうだったんですね」

「その途中でレッドウルフの群れに遭遇してな、なんとか切り抜けようとしていたところに、君たちが通りかかったというわけさ」

「では、皆さんはこの後は…?」

「あぁ。もちろん、最下層まで行くつもりだ」

「では、一緒に行きましょうか」

「ああ。最下層までの道案内は俺達に任せてくれ」

「わかりました。よろしくお願いします」


 こうして、俺たちはチーム緋色の刃スカーレットブレードと合同でこのダンジョンを進むことにした。


 ドルフやシャドウナンバーズを先行偵察に出しているので、荒野の3層は何の問題もないまま進むことができた。

「実力のある召喚士というのは凄いものだな…」

「君を見ていると、召喚士を見下していた過去の自分が恥ずかしくなるな」

「ここまで、一度も魔物に遭遇してないのは、全部彼らが?」

「そうですね。見敵必殺と命令してますから」

「俺達が苦戦していたのは何だったんだ…という気にさえなってくるな…」

「いいじゃないの。安全にダンジョンを進めるんだし。アルスちゃんも可愛いし」

 最後の陽子の台詞が不謹慎のようにも聞こえるが、実際、もし生徒が攫われているのだとしたら、なんの問題もなく、ダンジョンを踏破できている、今の現状は歓迎すべき事実でもあるからな。

 そんなやり取りをしている中で、ドルフから念話が届く。

(魔王様…地上のナンバーズがほぼ魔物を制圧したようです)

(そうか…なら、地上に10体を残し、各階層に10体ずつ配置しよう。残りは帰還するように言ってくれ)

(了解しました)


 ドルフからの報告をみんなにも共有する。

「そんなことまで、していたのか…」

「君は一体…どれだけの数の魔物を従えているんだ?」

「でも、これで地上にいる生徒たちは安全ということですよね?」

「そうだな。我々だけでは守りきれなかったかもしれない…感謝するよ、真央くん」

「本当に…これがSランク冒険者の力ってことなのかしら…」

「いえ…おにぃだけは特別だと思いますよ…私達もレベルだけは上がりましたけど、実力的にはまだまだってところですから…」

 苦笑いしながら、明璃が答える。

「全くな…まさか、生徒教え子に抜かれるとは思ってなかったぞ」

 真田も話に加わってきた。

「ついこの前までは、Dランクだったのになぁ…Aランクダンジョンの同行の許可を出したのが、遠い昔の話のように思えるよ」

「いえ、先生。そのおかげで、Aランクダンジョンでレベルを上げることができたんですから。許可を出してくださってありがとうございました」

「だが、レベルアップだけでは技術は上がらないだろう?君の弓の精度はなかなか大したものだ」

「それは、おにぃ…いえ、兄から弓の技を習いましたから」

「ほう…?真央くんは召喚だけでなく、武技にも通じているのか…」

「それは宗次さんのおかげですね。秘剣を見せてくれたので、気づくことができたんですよ」

「あの模擬戦が、君にも良い経験になったということか。それはこちらとしてもありがたい話だな」


 そんな会話を繰り返しながら、一行はダンジョンを進む。

 …

 …

 …

 そして、赤茶けた大地にそびえ立つ巨大な門が見えてきた。

「着いたぞ。ここが、4層へと続く門だ」

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