第71話 狼系ダンジョン
真央たちと別れ、先に友人を探していた明璃だったが、学校内のどこを探しても見つかるのは狼系の魔物ばかりで、友人はなかなか見つからなかった。Dフォンで連絡をしてみるも繋がらない。
「ギャン!」
致命傷を受けた狼系魔物が黒い靄へと変わる。
「ちーちゃん…どこ…?」
避難所にもいなかったので、怪我をして運ばれているという可能性は低いだろう。
元々、同じDランクだったので、学生有志として、溢れた魔物と戦っているのかもしれない。
Dフォンが繋がらないということは、もしかしたらダンジョンに入っているのかも…
なかなか友人が見つからない不安が焦りとなり、弓の精度も落ち始め、索敵も疎かになりつつあった。
「グルルル…ギャワン」
隙を見せた明璃に襲いかかった狼は影の中から八つ裂きにされ消えた。
「明璃!無事かっ?」
友人を探して校内で魔物の討伐をしていた明璃の元にやってきたのは、
黒い人狼を従える真央だった。
「おにぃ…」
今にも泣きそうな明璃が助けを求める。
「ちーちゃんが見つからないの…もしかしたら、ダンジョンで戦ってるのかもしれない」
「わかった。なら、俺達もダンジョンへ向かおう。明璃は友達に呼びかけ続けてくれ」
「うん…わかった。ありがとう、おにぃ」
「気にするな、さぁ、行くぞ」
俺達は、明璃の案内で演習場ダンジョンへ向かった。
演習場ダンジョンまで向かう途中、何匹かの狼系魔物に遭遇した。
竜牙刀で斬り捨て、黒い靄へと変え、辿りついたダンジョンの入口の門は壊されていた。
ダンジョンの門はランクの低い者を入れないようにするためと、中から魔物が出てこないようにするために存在している。壊れているということは、ここから外に魔物が出てきたということなのだろう。
「これは…酷いな」
辺りには血の跡が残っている。この魔物氾濫で死者が出たかどうかは聞かなかったが、いくらステータスに覚醒しているとはいえ、不意をつかれれば、もしかしたら、命を落とした者もいるのかもしれない。
「ドルフ、
俺の側に、忍び装束の人狼が現れる。
「ついでにイータゼロから、ミューナインまで、纏めて召喚だ」
レベルが上がり、70体程度までなら同時に召喚可能になった。念のため60体の影狼達を呼ぶ。
「お前たちは、地上に溢れた魔物達を影から討伐しろ。外に出た全ての魔物の気配が消えたら戻ってこい。もし学生たちから攻撃を受けたとしても、反撃なんてするんじゃないぞ?」
「「はい!かしこまりました!」」
「よし、じゃあ散れっ!」
サッ
これで地上は安心のはずだ。
俺達は、破壊された門からダンジョンへと進入した。
ドクン!
心臓が一つ、強く鼓動を打ったような感覚…わかる。これは迷宮主がすでに出現している感覚だ。
「いるな…」
ドルフに先行偵察を頼もうとしたのだが…
「魔王様…我らを支配しようとするスキルの影響を感じます」
「何だと?平気なのか?」
「はい。この程度でしたら、我らの配下全て問題ありません」
「わかった。だが、無理はするなよ?」
ドルフ達を支配しようとするスキル…か。
思わず顔がニヤけてしまう。
「どうしたんだ?真央」
笑顔を見せた俺のことが気になったのだろう、咲希が、尋ねてきた。
「ああ。ドルフ達を支配しようとするスキルってのに心当たりがあってな…」
「そうなのか?それは何というスキルなんだ?」
「魔獣支配ってスキルさ」
「魔獣支配…」
「ああ。そのスキルを使える魔物を俺は1種類しか、知らないんだ」
「それはどんな魔物なんだ?」
「
(ようやく会えるな、リーナ)
ドルフを先行させた真央たちは、洞窟を進む。
「ギャワン」
「キャイン」
「グォン」
「本当に狼系の魔物しか出ないんだな…」
ランク変位型のダンジョンなので、この洞窟はFランクに位置する。本来なら、スライムやホーンラビット、ゴブリンといった魔物が出現するはずなのだが、さっきから現れるのはケイブウルフと呼ばれるDランクの魔物だ。
Fランクダンジョンに、Dランクの魔物が出現するというだけでも脅威なのだが、このまま行くと最深部ではAランクの魔物が出てもおかしくないという状況だ。
そいつらが迷宮から出てきたりしたら、外の学生達では荷が重いかもしれない。
まぁ、影狼のナンバーズを派遣してあるから、余程のことがない限りは大丈夫なはずだが。
地形は変わっていないので、洞窟と言っても、Fランク。分岐も少なく、通路も狭すぎず広すぎずといった、本当に初心者向けなのだが、ケイブウルフは気配を消して、物陰から襲いかかってくるので、注意が必要だ。ドルフやアルスの気配察知を掻い潜れるレベルではないので、俺達には脅威でも何でもないのだが。
2層に進むと、複数のケイブウルフ達が連携を取って襲ってくるようになった。リーダー個体のいない群れが連携を取るなどありえないので、こいつらが
魔獣支配を受けた魔物は、基礎能力に
2層は元々Eランクダンジョンだ。洞窟も複雑に分岐し、行き止まりでは魔物溜まりが発生することが多い。
だが、魔獣支配の影響を受けているドルフには、支配者の呼ぶ声が聞こえ続けているようで、正解のルートがわかるようだ。
2層の洞窟の最奥にある下へ降りる階段へと辿り着く。
階段を降りると、眩しい光が差し込んできた。地下の洞窟のはずなのに…だ。
これもダンジョンの不思議で、地下に降りたはずが、開けた地上に出るということがあるのだ。これがフィールドを含んだ積層型ダンジョンの特徴でもある。あの日差しの正体である太陽らしきものは何なのか?それはまだ解明されていない。
3層の荒野フィールドは赤茶けた大地ではあるが、所々に
この階層も狼系に占有されている。出現する魔物はCランクのレッドウルフだ。レッドウルフはその名の通り、真っ赤な体毛が特徴的で、ウルフ種の中でも攻撃力が高い。更に、火属性に耐性がある他、個体によっては火魔法を使ってくる場合もあり、同レベル帯の冒険者にとってはなかなか油断できない相手だ。
俺達は、ドルフの案内の元、最短距離で下層への入り口へと向かう。
「魔王様、戦闘の音が聞こえます」
「何?どっちからだ?」
「こちらです」
ドルフへ、この階層で戦闘をしている者がいる場所への道案内を頼み、そちらへと向かう。
一刻も早く、迷宮主を倒したほうがいいとは思うが、万が一、その戦闘をしている者たちに犠牲が出たら…と考えると、無視して進むという選択はできなかった。
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