第61話 稽古

「さて、さっき言ってた稽古だが…いきなり技を教えても使いこなせないと思うので、まずは基本からだ」

「わかった」

「そうだね。宗次先生も技を使いこなせなくて反動ダメージ受けてたし…」

「咲希は、まず、闘気を使えるようになること」

「闘気?」

「スキルの中に気合ってやつあるだろ?」

「うん。自身の攻撃力を上げる強化バフスキルだけど」

「それ、なんで攻撃力上がるか考えた事あるか?」

「ないな…そういうスキルだから…としか思ってなかった」

「魔力操作ってスキルで、全身や装備品に魔力を纏えるようになっただろ?あれと同じで闘気も纏えるようになるんだよ。んで、その闘気の入り口が気合スキルなんだ」

「そうなのか?」

「気合スキルでどんな感じに自分に強化バフがかかるか、まずは感じること」

「わかった」


「明璃はエイミング狙う力を鍛えるのが最優先な」

エイミング狙う力?」

「まぁ、簡単に言うと、どんな状況でも、百発百中で敵の弱点に命中させることができるようになれってことだな」

「そ、そんなこと…え?できるの?」

「【必中の矢】という技があるんだが、それを会得した後に、技を使わずに必中効果だけを維持するように訓練すると、できるようになるな」

「じゃあ、それを教えてもらえる?」

「いいぞ。ちょっと弓、貸してくれるか?」

「はい」

 明璃が自分の精霊の弓と矢を真央に手渡した。

 それを受け取り、おもむろに矢を番え、目を瞑り、空へ放つ。

 ドサリ。

 何かが落下したような音がして、そちらへ目を向けると、羽を貫かれて空から魔物が落ちてきていた。

 二射目で頭を射ち抜き、魔物は靄へ変わる。

「今のは…雷鳥サンダーバードではないか…雷の化身とも言われておるから、矢で落とすなど至難の業のはずじゃが…」

「おにぃ?今、どこ見て射ったの?目、瞑ってたよね?」

「察知系スキルで敵を視るんだよ」

「そういうことかぁ…今まで目視しかしてなかった…」

「普通はなかなか気づかないもんな。まぁ、今教えられそうなことはこのくらいだ」

「わかった。頑張る!」


「あ、あの…真央さん…私にも…」

 里奈が何かを教えてほしそうな目で訴えてくるが…

「ご、ごめん…舞とか祈祷はやったことすらない…血桜の舞とかは全く別物だしなぁ…」

「そ、そうですよね…」

「う〜ん…あ、そうだ!里奈は魔力操作は使えるよな?」

「え?あ、はい」

「魔力の属性変化は?」

「属性変化…ですか?」

「火魔法や水魔法みたいに、属性魔法ってあるだろ?」

「はい」

「魔法として成立する前の、魔力を集中する段階で、魔力の属性を変化させるんだよ」

「そ、そんなことできるんですか?でも、それが何の役に立つんでしょう?私、魔法は使えませんけど…」

「舞とか祈祷のことはよくわからないけど、効果によって相性のいい属性ってのがあるんだ」

「相性?」

「う〜ん…わかりやすい例だと、速度強化スピードバフの効果がある技なら、それを使うときに、風属性に変化させた魔力を込めると、効果が上がるんだ」

「あ、なるほど!」

「魔力の属性変化で一番大事なのはイメージだ。魔力操作までできるなら、多分すぐにできるようになると思うよ」

「わかりました!やってみますね。ありがとうございました」


「お主ら…ここがAランクダンジョンだということをすっかり忘れておるようだのぅ…いや、それくらい余裕があるということかの」

 みんなに教えたことを、各自で練習し、ある程度の時間が過ぎた。


 俺は一旦、ダンジョンから出ようかとみんなに提案したのだが、

「おにぃのテントがあるじゃん」

 と、明璃に言われ、

「ホテルなんかも予約してないしな」

 と、咲希も追随する。

 里奈と政繁は意味がわからないので、何も言わないが、俺たちパーティーの中で重要な話をしているとでも思っているのか、答えが出るのを待ってくれているようだ。


「それじゃ、このまま野営して、鍛錬しつつ攻略を目指すか」

「野営?あれが?」

 野営と言った瞬間に明璃に笑われたが、

「でも、まぁその案は賛成かな」

「うん、いいと思うぞ。今回はちゃんと調味料も持ち込んでるからな!」

 二人ともこのまま攻略してしまうことで合意した。

「なら、まずはアルスを呼び戻すか」

 呼び戻す必要はないんだけど、どうせならみんなで一緒にご飯食べたいしな。

 ん?そういや、離れた位置にいる魔物って、送還できるのか?

(アルス〜聞こえるか〜?)

(どしたの?マオー様)

(今いるところに分体を残して、一旦こっちに帰ってきてくれるか?)

(いいよ〜)

(あ、今その場で送還できるか試して見るから、ちょっと待っててくれ)

(わかったー)

「よし、じゃあ、やってみるか…アルス送還!」

(何も起きないよ?)

(え?そうなのか?遠くにいる相手を送還するってのはできないのか…)

(なら急いで帰るね〜)

(おぅ。咲希がご飯作って待ってるからな〜)

(わかった〜)

 …

 …

 アルスの帰りを待つ間に、そばにいる分体から空間拡張テントを取り出して、設置する。

「な、何ですか、これ?」

「お主は…また妙なものを持っておるのぅ」

 明璃と咲希は慣れたもので、里奈を案内している。

 政繁は俺が案内した。

 最初は驚いていたが、快適な拠点を持ち運べることの利点に気がついたようで、どうすれば手に入れることができるかを聞いてくるようになった。

「俺の仲間でこれを作れるやつがいるので、そいつが見つかったら頼んでみますよ」

 と言ったら、嬉しそうな顔をして、是非頼む!とガッチリと手を握ってきた。爺さんに手を握られても嬉しくないぞ…

 …

 …

「ただいま〜」

 凄い砂煙を上げながら、アルスが帰ってきた。

「おぅ。おかえり」

「分体は残してきたから、このままダンジョン探索頑張るからね」

「そっか、ありがとな。引き続き探索頼むよ。今日の晩御飯は竜の肉ドラゴンステーキにしようか」

「オッケー!サキおねーちゃんに渡してくるね!」

 …

 さすがの咲希も竜の肉を使った料理なんてしたことがなく、またしても焼くだけとなってしまったが、竜の肉ドラゴンステーキはそれでも、とても美味しかった。

「せっかく調味料…色々持ってきたのに…」

「な、なんか、すまん」

「真央くん!この肉を卸して貰うことはできるのかの?」

 政繁は竜の肉が気に入ったようだ。

「少しだけなら…」

「うむ。それでも構わん!儂の知り合いのシェフに調理してもらおうと思ってな。もしよかったら、お主らも招待するので、食べに来てくれるかの?」

「え?いいんですか!?」

「うわぁ〜楽しみです!」

「わたしじゃこの肉を活かしきれないから…是非呼んでください!」

 こうして、竜の肉を使った、神崎会長の知り合いのシェフの料理に招待してもらえることとなった。会長の知り合いともなると、きっと一流のシェフなんだろうな…と、今から楽しみである。


 夜も更けたので、各々寝室へ移動し、Aランクダンジョン攻略の一日目が終わった。




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