第52話 2体目

「ふぅ〜。さっきは危なかった…」

 ボスのソロ討伐に挑んだ明璃だったが、危ないところをアルスに救われた形となってしまった。

「まぁ、マオー様にも頼まれてるしね!ボクが付いてるから大丈夫なんだけどさ!だからって油断しちゃダメだからね!」

「わかってるよ〜。ありがとね、アルスちゃん」

 落ちている魔石を拾い集めていると、ボス部屋の大扉が開いた。

「お?勝ったようだな」

 まず入ってきたのは、兄の真央。

「明璃もなかなかやるようになったじゃないか!」

 次いで、兄の彼女である、サキ姉だ。

「ちょっと危ないところだったよ…アルスちゃんがいなかったら死んでたかも…」

 その台詞に咲希が驚く。

「なんだって?大丈夫なのか?」

 真央はその言葉を聞いても、アルスがいるから大丈夫だと確信しているのか、驚く様子はない。

「まぁ、討伐は成功したんだから、これでランクアップだな!」

「うんっ!」

「それで、この後なんだが…」

「奥の転移陣を踏めば入口まで戻れるけど…」

「いや、ここの真のボスをどうするかって話だ」

「あ〜!そっか!」

「アルス、見張ってる分体に動きはあったか?」

「ん〜?まだないみたい」

「その場所って、ここから近いのか?」

「うん!すぐそこだよ」

 そう言ったアルスが指差したのは、大峡谷の裂け目だった。

「マジか…希少レアアイテムでも隠し部屋でもなくて、真のボスだったか…」

「真央…」

「あぁ。そうみたいだな」

 落ちて上がってきたものはいない谷底か…

 まぁ、正直、アルスが分裂して、階段とかになれば上がって来れると思うんだが…

「行くか!」

「え!?ちょっと…真央?本気?」

「あぁ。ダンジョンの真のボスが持っている迷宮核ダンジョンコアは放置しちゃいけない気がするんだ」

 クソ女神ルフィアの力を感じる石なんて、碌なことにならない気がするからな…

「それに、アルスみたいに俺の仲間と繋がれるかもしれない」

「わかった。なら、私も行く」

「おい、咲希?」

「その女神ってやつが、この世界に何かしようとしているなら、真央だけに全てを背負わせるわけにはいかないよ。わたしも一緒だ」

「うん!そうだね。サキ姉の言うとおりだよ」

「明璃まで…いいのか?危険かもしれないんだぞ?」

「なら、尚更、おにぃ一人で行かせるわけにはいかないよ。あたし達はチームでしょ?」

「わかった。アルス!二人をしっかり守ってくれよな」

「わかったー」

「アルスちゃん、真央のことも頼むよ」

「それは言われるまでもなく当然だよ〜」

「あはは。そうだったね」

「じゃあ、行こう!」

 本来の姿に戻ったアルスが俺達を体内に取り込んで、谷底へ向かってジャンプした。

「きゃあぁぁぁぁぁぁ」

「いやぁぁぁぁぁぁぁ」

 そこそこ長い時間がかかり、ようやく谷底へ着いた頃には、咲希と明璃はぐったりとして、俺の方を睨んでいる。

「ほ、他に降りる方法はなかったの?」

「死ぬかと思った…」

「あれが一番早いと思ったんだよ」

 蹴られた。解せぬ。


 谷底は真っ暗で、咲希が魔法袋マジックバッグから魔法の灯マジックランプを取り出した。

 動くものの気配は感じられない。ここには何もいないのかもしれない。

 仮に、かつて落下した冒険者がいたとしても、その遺留品はダンジョンに吸収されてしまっているだろう。

 アルスの案内に従って、暗い谷底の道を進む。道は段々と細く狭くなっていき、人一人がようやく通れるくらいになってしまった。

「ほ、ほんとうにこの先なのか?」

「うん!ここを抜けたところが目的地だよ」

 身体を進行方向に対して横向きになりながら、カニ歩きで裂け目を通り抜ける。やがて、進む先に光が見えた。

 ようやく辿り着いた場所は、広い円形の闘技場コロッセオのような場所だった。深く暗い谷底を歩いてきた筈なのに、開けたその場所の上空には青空が広がっていた。

 そして、その闘技場コロッセオの中央に鎮座しているのが、このダンジョンの真のボスの魔導人形ゴーレムだろう。

「アルス、見張りごくろうだったな。お疲れさん」

「えへへ〜」

 アルスは分体を回収し、一つの個体へと戻った。

「さて…と、あいつは何ていう魔物なんだろうな?」

 その風貌からは、青っぽい鉱物からできたゴーレムであることがわかる。石の塊を繋ぎ合わせただけのような武骨な姿だが、その全長は10mくらいはあるだろうか?

「多分だが、鑑定をかけた瞬間に、こっちを敵と認識して動き出すと思うから、みんな気をつけてくれ」

「わかった!」

「了解!」

「じゃあ、やるぞ?魔物鑑定!」

 俺の目に、ゴーレムの種族が表示される。


【種族】オリハルコンゴーレム


 鑑定をかけた瞬間、座っていたオリハルコンゴーレムがこちらを向いて、立ち上がろうとする。


「期待はしてたんだが、やっぱり奴はオリハルコンゴーレムだな」

「やっぱり聞いたこともない…未知の魔物だ…」

「オリハルコンって…ファンタジー定番の凄い金属でしょ?勝てるのかな?」

「あぁ…攻撃しても無駄だと思うぞ。奴がオリハルコンゴーレムなら、初期レベルの時点でLV80だしな、魔法は効かないし、とてつもなく堅いぞ」

 まぁ、アルスなら楽勝だと思うが。

「オリハルコンゴーレムねぇ…だったら、あいつか…」

「アルスちゃん、あいつって?」

「マオー様のお気に入りの魔導人形おもちゃだよ」

魔導人形おもちゃ?」

「うわ…何だろう…もうその時点で嫌な予感しかしないんだけど…」

 俺は心の中で呼びかける。

(レオン!聞こえるか?)

(ゴ主人様マスター!?)

 よしっ!成功だ!やっぱり、こっちの世界で、俺の仲間と同種の魔物に出会うことで交信コンタクトできるようになるみたいだ。

(久しぶりだな、レオン)

(ハッ。イツデモ出撃デキルヨウ待機状態ヲ維持シテオリマス、ゴ命令クダサイ)

(待機状態って…お前な…魂だけの状態だろうに…)

(心構エノ問題デス)

(ははっ。わかった、OKだ。なら呼ぶぞ!)

(了解デス)


「レオンカイザー!召喚出撃!」

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