第51話 Cランクダンジョンのボス

 それから、野営をしながら進むこと、3日。ついにボスのいる部屋の前の大扉が見えてきた。

「あれか?」

「あぁ。やっと着いたな」

「快適すぎる道程だったけどね…」

「なんだ明璃?不満そうだな…きつい方がいいのか?ドMか?」

「おにぃ、うるさい!」

 などとふざけつつ、経験者である咲希に聞くことにした。

「で、咲希、ここのボスってどんな奴なんだ?」

「ここのボスは、豚将軍オークジェネラルに率いられた、オークのパーティーだな」

「具体的には?」

「部屋に入った人数でパーティーの構成が変わるって言われててな、最低でも、豚将軍オークジェネラル豚戦士オークウォリアー豚神官オークプリースト豚魔道士オークメイジの4体だ」

「なるほどなぁ…どうだ?明璃…行けそうか?」

「う〜ん…多分?」

「まぁ、ダメなら撤退して、レベル上げて再挑戦な」

「わかった!やってみる!」

「アルス。明璃のこと、頼んだぞ。守ってやってくれ」

「まかせてー」

「じゃ、俺と咲希は外で待機してるからな」

「うん!行ってくるよ」

 そして、明璃はアルスの分体を伴って、大扉を潜っていった。


 部屋の中央まで進むと、黒い靄が生まれ、段々と魔物の形へと変わって行く。

「4体ね…」

 ボソッと呟いた明璃はその様子を見届け、魔物が完全にその姿を現す前にスキルを発動する。

「隠れ身」


 隠密の下位スキルで、気配や魔力は隠せないが、姿は周囲の景色に溶け込んで消えたように見せることができる。

 察知系スキルを持っていない相手にはかなり有効だ。そして、オークは大抵、察知系スキルは持っていないことが多い。


 ボス部屋への侵入者がいるはずなのに、オークジェネラル率いるオークのパーティーは明璃の姿を見失っている。


「影縫い」

 明璃の放った、闇魔法の乗った矢が、オークのパーティーに降り注ぐ。

 それと同時に、明璃の隠れ身は解け、オーク共はようやく見つけた侵入者の姿を確認し、それが小さな少女であったことに醜い笑みを浮かべた。

 だが、見つけた獲物に襲いかかろうとしたオークの体は一歩も前へと進むことはなく、動きが止められていた。影縫いは影を射抜くことで、対象を一時的にスタンさせる技だ。

 その隙をついて、明璃は次の攻撃へと移る。定石通り、回復役に狙いを定め、

炎の矢フレイムアロー、曲射!」

 前衛に守られ、射線を遮られている後衛のオークプリーストへ向けて、オークの弱点である炎系の矢を放った。

「ブモォォォォォ!!」

 狙い通りにオークプリーストへ刺さった矢から、炎が燃え上がり、オークプリーストの身体は火だるまとなる。地面を転がりながら、必死に消そうとするのだが、火勢は衰えることなく、やがてオークプリーストは動かなくなった。黒焦げの身体は黒い靄となって消え、その後には魔石が転がっている。

「まずは1匹…」


 そう言いながら、一箇所に留まることのないように移動する。

 後衛の弓使いの自分が一人で戦うときに足を止めたりしたら、接近されて攻撃手段を封じられてしまうからだ。

「フンゴォォ!!」

「ブギャギャァ!!」

 魔物にも仲間意識があるのか、プリーストをやられたオーク達が吠える。

 怒りに我を忘れて突進してこようとするオークを牽制する意味も込めて、明璃が上空へ向けて、弓を引いた。

凍結の矢フリーズアロー矢の雨アローレイン!」

 レベル30を超えたときに覚えた、新スキルの弓の範囲攻撃技に水属性の凍結効果を付与して放つ。

 ジェネラルとウォリアーには手に持つ盾で防がれたが、その奥にいたメイジは矢の雨を防ぐ術はなく、直撃を受けていた。

 矢の雨アローレインは上空に打ち上げた矢が、込められた魔力で分裂し、魔力の矢が降り注ぐ範囲攻撃技だ。メイジに直撃した魔力の矢には凍結属性が付与されているので、攻撃を受けた箇所が凍結していく。やがて、ただの氷像と化したオークメイジは追撃として放たれた実体の矢によって、砕け散った。

「これで2匹…」


 オークの憎しみヘイトが更に増していく。

 猛攻を凌ぎながら、矢を番えるが、それらは虚しくも盾で弾かれる。

「あの盾が厄介だなぁ…」

 思わずぼやいた本音に、苦笑する。

「あれ、やってみるか…この装備ならできるかも…」

 何か秘策を閃いたようで、ボス戦の最中にも関わらず、何かを試そうとする明璃。

 矢を番え、弓を引いたまま、魔力を集中させる。

「今っ!泥沼の矢スラッジショット

 明璃の放った矢は、オークウォリアーの足元へと突き刺さった。

 的を外したと思ったのだろう。オークウォリアーは明璃を嘲笑うかのように汚い笑い声をあげた。

「ブヒャヒャ」

 そして、手に持つ戦斧を振りかぶりながら、明璃の方へと駆け出した。

 ズブリ…

 オークウォリアーが一歩踏み出したところで、泥沼と化した地面に足がハマってしまう。水と土の魔力を混ぜ合わせることで底なし沼を作り出す矢を放っていたのだ。

 藻掻けば藻掻くほど沈む底無しの沼に、腰まで埋まったオークウォリアーに向けて、明璃は矢を放った。

疾風射ちガストシュート!」

 風の魔力によって、射速を増したその矢は、オークウォリアーが盾を構える間もなく、眉間へと吸い込まれていった。

「あと1匹!」


 油断していたわけではないが、オークウォリアーへの対応に時間をかけすぎた。

 明璃はいつの間にか接近していたオークジェネラルに気がつくのが遅れてしまったのだ。

 オークジェネラルは大剣をいとも軽そうに片手で振り回すほどの膂力を持っている。

 その刃が今、明璃の首を刈ろうと迫っていた。

「しまっ…」

 明璃は自身の死を覚悟した…

「もう〜。明璃は油断しすぎだよー」

 服の中にいたアルスの分体がオークジェネラルの刃を受け止める。

「ブ、ブモ?」

 勝ったと思った瞬間の思いがけない抵抗にオークジェネラルの思考が停止する。

「アルスちゃん!ありがとっ!」

 その隙を見逃す明璃ではなかった。

 オークジェネラルの身体を踏み台にして、空中へと飛び上がり、先ほどと同じように2属性の魔力を使い全身全霊の矢を放つ!

聖炎の矢セイクリッドフレイムアロー!!」

 光と炎の精霊によって威力の増した聖なる炎を纏った矢がオークジェネラルの持つ盾を貫通し、身体へと突き刺さった。そこを起点として、燃え上がる。

「ブ、ブモォォォォ!!」

 苦しむオークジェネラルの断末魔がボス部屋に響き渡り、最後の1匹の討伐は完了した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る