第50話 野営
咲希と明璃が
「なら、俺も…アルス」
「あれだね。懐かしいな〜。確かここに…」
ごそごそという効果音が聞こえてきそうな感じでアルスが収納からテントを取り出す。
ででーん!
「真央?何…それ?」
咲希の疑問に答える。
「野営のテントだが?」
「いや、そうじゃなくて…なんで完成したまま仕舞ってあるのよ!」
「おにぃ…アルスちゃんの収納ってどれくらいのサイズなの?」
「ないぞ」
「は?」「へ?」
「だから、サイズなんてないぞ」
「それって…」
「アルスはアルティメットスライムだからな。どんなものでも無限に飲み込むスライムだぞ?」
俺からしてみれば、何を馬鹿なことを言ってるんだ、常識だろ?という感覚だったのだが…
二人には違ったようだ。
「えーーーー!?」
「確か、時間停止もできるって言ってなかった?」
「当然だろ」
次元収納だぞ?こことは違う次元に収納してあるから、時間の流れからも隔離されてるからな。
まぁ、だからこそ、異世界のアイテムがそのまま取り出せるってことみたいなんだが…
次元収納は別次元にある倉庫のようなもので、開けるための鍵が本人の魂となるわけだ。なので、あっちの世界で死んだアルスをこっちで召喚しても、同じ魂を持つ者なので、次元収納を開けることができたということらしい。
「まぁ、せっかく出したんだし、今日は俺のテントをみんなで使うか?」
「え?一緒に…?」
咲希…なぜそこで顔を赤くする…
「さすがに3人で使うには狭いでしょ…」
ふふん。明璃め、中に入って驚け笑
「…」
「…」
「なぁ…入り口で立ち止まられると入れないんだが…」
「いやいやいや…何よこの広さ!おかしいでしょ!?」
「空間拡張テントってこっちにはないのか?」
「出た!異世界の非常識アイテム…そんなの聞いたこともないわよ」
「
「
だから、あんなに高いのか…
「ま、まぁ、いいだろ。便利なもんがあるんだから、気にせず使ってくれ」
(異世界で逃亡生活をしていた時の話だが…俺は空腹も疲労も感じなかったから、結構強行軍してたんだよなぁ…共に旅をしていた仲間たちは、文句も弱音も吐かずに着いてきてくれたんだけど、ある時、仲間達が無理をしていることに気がついて、できるだけ快適に休める拠点をと思って、作ったんだよな…最果ての地に居城を構えてからは使わなくなったんだけど…)
「サキ姉…おにぃの(異世界の)常識は(こっちじゃ)非常識だから、これも慣れていかないと…だね」
「あ、あぁ。そうだな。それにしても、こういうのを見せられると、真央は本当に異世界にいたんだな…ってさ」
「なんだよ、咲希…信じてなかったのか?」
「いや、信じてるよ。そういうんじゃなくてさ、真央の話聞くとさ、過酷だったんだろうなって…思ってしまって…」
「まぁ…それなりには…な。でも仲間たちがいたから寂しくはなかったぞ」
「そっか。わたしもアルスちゃん以外の真央の仲間たちに会ってみたいな」
「あぁ。いつか会えるさ。咲希のことは頼りにしてるから、これからも頼むな」
「うん!」
「もういい?二人の世界に入っちゃってさ〜」
「うわっ!」
「明璃…お前な…」
「あたしもいるんですけど〜」
ジト目を向けてくるが、その顔は早くこのテントを案内しろと言っているようだ。
「はいはい、わかってるって」
逸る明璃を宥めるように説明をする。
「向かって左側が風呂で、右側が寝室だ。正面の部屋に着替えとかあると思うから、自分に合うものを選んでくれ」
「風呂?」
「え?お風呂もあるの?」
「あるぞ。使い方教えるから着いてきてくれ」
そして、俺達は風呂場へと移動する。
「うわ…ほんとにお風呂だ」
「野営で風呂に入れるとか…いや、これ野営か?」
「ここに触れると、少しだけ魔力を吸われるんだが、それでお湯が出るからな」
蛇口の栓に触れ、実際にお湯を出しながら説明する。
「温度上げたいときは、こっちで、水出したいときはこっちな。」
赤い印と青い印がついてるからわかるだろう。
「風呂上がりにはこっちの冷蔵庫に冷たい飲み物入ってるから、気兼ねなく飲んでくれ」
「ほんと…至れり尽くせりね…」
「二人は先に風呂入っててくれ。俺は飯の支度するから」
「え!?真央が作るの?」
「作るって程じゃないけどな…肉に塩振って焼くだけだ笑」
「確かに…それは料理と呼んでいいものか…」
「仕方ないだろ。魔物の中に料理スキルなんて持ってるやつはさすがにいなかったからな」
「それに、あっちじゃ、塩くらいしか調味料なかったんだよ…人間の街には入れなかったし…」
「なら、今日はわたしが作るよ」
「お?いいのか!?助かる!」
咲希が夕食を作ってくれるというので、アルスに頼んで食材だけ提供した。
「な、なぁ…真央?これは何の肉なんだ?」
「ん?あぁ〜。
「オークキング…」
「なんだ?
「いや…そうじゃなくて…魔物じゃないか!」
「美味いんだぞ?」
「そういう問題じゃなくてだな…」
「こっちで言うと、最高級のブランド豚より美味いぞ」
(あ…ダメだ…話が全く通じない…非常識め…)
咲希が何かを諦めたような顔をしているが、いや、マジで美味いんだって!
夕飯を作ると言った手前、この食材?を使わないわけにもいかず、葛藤する咲希だったが…
真央があまりにも熱心に美味いと連呼するので、少しだけ好奇心が湧いてきたのも事実だ。
「はぁ〜…わかったよ。今の手持ちでできるなら、ポーク?ソテーってところだな」
「ポークソテーか!ん?焼くだけとそんなに違わない気がするんだが…」
「いきなり言われてもな、調味料なんてそんなに色々とは持ち込んでないからな」
「まぁ…そりゃそうか…次に期待するよ笑」
「あぁ、わかってれば用意するさ。次はちゃんとしたの作るから」
咲希が奥の部屋で、部屋着に着替えて来たので、キッチンへと案内し、後は任せることにした。
「アルス…炊いたご飯ってあったっけ?」
「あるよー。炊飯器ごと仕舞ってある〜」
「なら、それを咲希に渡してきてくれ」
「はーい」
しばらくすると、キッチンから美味しそうな匂いが漂ってくる。焼くだけとか言ってごめん!
「うわ!何この匂い〜美味しそうなんだけど!」
「お?明璃か?風呂上がったんだな」
「うん!良いお風呂でした笑」
「咲希がご飯作ってくれるっていうから、頼んだんだよ」
「あ、そうなんだね。それでこの匂いか〜。あたしも手伝ってくるから、おにぃは先にお風呂入っちゃえば?」
「それとも、サキ姉の残り湯のほうがいい〜?」
「バッ!バカかお前!大人をからかうんじゃないよ。全く!」
「えへ。ごめんごめん!」
「んじゃ、俺もザブっと浴びてくるわ」
「はーい」
風呂から上がると、料理が出来上がっていたので、みんなで
咲希と明璃は最初は躊躇っていたようだが、俺があまりにも美味しそうに食べるので、覚悟を決めたようだ。その後はふたり共、美味しそうに食べていたので、俺も安心した。
「でも、不思議よね」
「何が?」
「こっちでは魔物を倒しても魔石しか残らないのに…」
「本当よね。こんな美味しいお肉が手に入るなら、もっと積極的に狩るんだけど笑」
「異世界では、普通に魔物の素材が手に入るんでしょ?」
「そうだな。倒せば死体は残るし、魔石を取るなら解体しないとダメだ」
「どうしてなのかしら?」
「さぁ?魔物は間違いなく、あっちの世界と同じなんだけどな…」
魔物の出現する瞬間が、あのスキルによく似ているような気がするんだが…俺の考え過ぎか?
考えたところで答えが出る問題でもないので、謎は謎のままだが、もう時間も遅いので、アルスに見張りを頼んで、それぞれの寝室で眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます