第46話 黒い魔石

「真央…今の話だけど…」

「ビックリしたよね」

「そうじゃなくて…」

「どうしたの?」

「何か、心当たりあるんでしょ?」

「…」

「顔見てればわかるよ」

「さすがサキ姉だね…おにぃ…もしかして…言えないこと…なの?」

「ちょっと場所を変えようか…」

 俺の信頼する二人は俺のことをよくわかってるようだ。

 …

 ギルド内の個室でもよかったんだが、どこに誰の目や耳があるかもわからないので、家まで帰ってきた。


「実はさ…あの罠部屋モンスターハウスで倒したアルティメットスライムから、魔石がドロップしたんだけど…」

 そう前置きしてから、アルスの収納から真っ黒な禍々しい魔石を出してもらう。

「何?この魔石…」

「なぜかはわからないけど…凄く嫌な感じがする…」

「みんなもそういう風に感じるんだな…」

 この魔石の放つ禍々しさ…おそらくはクソ女神ルフィアに関係してるんだろうけど…

「さっきのギルドの人の話を聞いて、この石のことが頭に浮かんだんだ」

「この魔石が原因だってこと?」

「多分な。この魔石…いや、多分これが、あのFランクダンジョンの迷宮核ダンジョンコアなんだよ」

迷宮核ダンジョンコア…?」

「ダンジョンの最奥にはボス部屋があるだろ?」

「うん」

「そのボスを倒すとダンジョン攻略ってことになるんだよな」

「そうだよ」

「それがんだ」

「どういうこと?」

「ダンジョンにはボスがいて、それを倒せば攻略クリアしたことになるってのは間違いじゃないんだ」

「うん」

「でもな、ダンジョンのボスってのは、最奥にいるやつのことじゃないんだよ。この魔石…いや迷宮核ダンジョンコアを持つ魔物がダンジョンの真のボスなんだよ」

「そんなことが…」

「今までにない事例だってことはさ、この3年で本当の意味でダンジョンを攻略した人間はいないってことさ」

「それをおにぃ、いや、アルスちゃんが倒したってことなんだね」

「そう。そして、真のボスが倒されたダンジョンは死ぬ。つまり活動を停止するんだ」

 真実を知った咲希と明璃は言葉が出ないようだ。

 …

 しばらくして、再起動したのか明璃が興奮して話し出す。

「おにぃ!これって大発見だよ!」

「そうだな。真央、ギルドに報告しないのか?」

「それが悩むところなんだよな…」

 どうにも煮えきらない俺の態度が気に入らないのか、ふたり共、再度ギルドへの報告を促してくるんだが…

「この真実を報告するとするだろ?」

「うん!超有名人になれるよっ!」

「真の攻略を続けると、この世界からダンジョンがなくなるんだぞ?」

 その説明で二人ははっとする。

「あ…そうか…」

 たった3年だが、世界はダンジョンから出る、魔石という資源にかなり傾倒しているように思えるのだ。エネルギーとして見た場合、今までに使われていた化石燃料に比べて、魔石のエネルギーは無害な上に、エネルギー効率が高いのだ。

 それに、レベルや職業ジョブ、冒険者というシステムも随分と世界に浸透してしまっている。


 ダンジョンがこの世界にできた原因はクソ女神ルフィアによる異世界からの侵攻だ。そう考えるなら、ダンジョンを活動停止にすることは悩む必要もなく、決定一択だ。

 だが、その事実を知っているのはこの世界で俺だけなんだ。それを説明したところで、とても信じてもらえるとは思わないし。


 ルフィアは何を考えている?

 侵攻と言う割には、ダンジョンを作って魔物を生み出しているだけだ…俺にはその先があるような気がするのだ…


 くそっ!考えても分からないな…


「真央…」

「咲希?」

「すごく難しい顔をしてるよ。悩んでるんだな」

「…」

「まだ、私達に言ってないことがあるんだろう?違うか?」

「ふぅ…咲希は、鋭いな…」

「それだけ真央のことをよく見てるんだよ」

 照れながら答えてくれる咲希だったが、俺にはその存在がとても嬉しかった。


 俺も覚悟を決めよう…


「俺が異世界に飛ばされた話はしたよな?」

「うん…」

「あの世界には女神ってやつがいるんだ…」

 そして、俺は今まで話さなかった女神のことや、異世界からの侵攻のことなど、全てを語ったのだった。


「そんなことって…」

「その女神ってのが、地球に魔物を送り込んでるってこと?」

「あぁ。あいつならそれくらいやりかねん」

「ちくしょう…そんなことのために…大勢の人が犠牲になったんだぞ…」


「ダンジョンを止めよう」

「咲希…いいのか?」

「公表しようってんじゃない。私達で止めるんだ」

「サキ姉…ギルドには報告しないってことだね?」

「言ったって信じてもらえないさ」

「それに…ダンジョンを止めようなんて話を広めたら、妨害を受ける可能性もある」

「わかった。なら、謎の現象のまま、俺達は知らぬ存ぜぬを通そう」

 俺は頼もしい二人の決断と、全てを話したことによって、心からの笑みを浮かべるのだった。


“「綾瀬咲希」及び「獅童明璃」との間に魂の絆を結びました”

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