第36話 死因

 今後の話をするために、俺達は家へと帰ってきた。

「で?麗華…?とか言ったな。それとメガネ。なんでお前らが俺の家にいる?」

「メガネ…だとっ!?貴様、まだ我らを愚弄するかっ!お嬢様の行くところに私がいるのは当たり前だろうがっ」

 お前の名前なんか知らんし、そんな当たり前なんて聞いたこともないわ。そもそも、俺はまだアルスを攻撃したことを許したわけでもない。

「ふんっ!あ、あなたのような変態が咲希さんと一緒にいるのが心配だからですわっ!」

「誰が変態だ!この露出狂が!」

「なっ!…わたくしは露出狂などではありませんわっ!」

「おにぃ…話が先に進まないから…」

「麗華先輩も、それくらいにしてください…」

 明璃と咲希にたしなめられたので、一応矛は収めることにした。

「こ、こほん。…では、改めまして、わたくしは、竜咲りゅうざき麗華れいかと申しますわ」

 麗華は綺麗なカーテシーで挨拶をした。

「私は進藤しんどう零士れいじだ。お嬢様の付き人をしている」

 零士は眼鏡をクイッと上げて、ぶっきらぼうな挨拶だ。

「お前ら、人を舐めているのか?自己紹介なんてする前に、することがあるだろ?」

 麗華とかいう女が首を傾げている。どうやら、本気でわかっていないようだ。

「あのスライム…アルスは俺にとって大切な仲間なんだよ。仲間が攻撃されて、誤解でしたじゃ済まないだろ?って言ってんだ」

 はっ!とした顔をして、俺の言いたいことを察してくれたようだ。

「そ、その節は、申し訳ございませんでした」

 丁寧に腰を折り、ようやく麗華が謝罪の言葉を口にした。

「お嬢様!魔物相手に、何もそのようなことをされなくても…」

「お黙りなさい!零士。非はこちらにあるのですわ。促されるまでそのことに気がつかなかったなど、わたくしの落度ですのよ?」

 麗華に注意された零士も、それ以上口を挟むことはなかった。


「ふん…まぁいい。俺は獅童真央。こっちが妹の明璃で、この人が俺の彼女の咲希だ」

「か、彼女…」

 紹介された咲希が顔を赤らめる。

「か、彼女…咲希さんが…?」

 麗華も驚いているようだ。


「さて、ならもう用は済んだだろ?帰ってくれていいぞ」

 しっしっ!っと手を振り、追い返すように示唆するのだが、その仕草をみて、またメガネ…いや零士がキレている。

「そういうわけにはまいりませんわ!わたくしには隆さんと真由子さんのことをお伝えしなければならない義務がございますの!」

「なんだと?」

 義務と言ったか?なら、父さんと母さんの死にこいつが関わっていると考えるべきか?

「わかった。なら話を聞きたい」

 明璃と咲希も同意見のようだ。


 そして、麗華がその時の状況を話し始めた。

「あの日、わたくし達は国の依頼で、とある魔物の討伐依頼を受けていましたの」

「Sランクの麗華先輩に依頼するほどの魔物がいるんですか?」

「お父さんとお母さんは、その依頼のサポートをしていたんですか?」

「サポート…というよりは、戦力として臨時にチームを組んで討伐に望みましたの。わたくしと隆さん、真由子さん、それと零士の4人パーティーですわ」

「そ、そんな強大な魔物がこの国に…?」

「このことは内密にお願いしますわ。世間に知られた場合には混乱が生じる恐れがありますので…」

 その説明に、明璃と咲希は息を飲んだ。

「その魔物の討伐の折、隆さんはわたくしを庇って大怪我をされたのですわ…」

「それが、父さんの背中の傷か…」

「そして、陣形が崩れたその隙に、真由子さんが全身に大火傷を負うほどの攻撃を受けてしまいましたの…」

「お母さん…」

 その様子を想像してしまった明璃の顔がとても辛そうだ。

「その姿を見た隆さんが、怒りに任せて攻撃をしかけようとしたのですが、傷が深く、動きに精彩を欠いていまして、そこに魔物のアギトが食い込んだのですわ」

「隆さんも…」

 その話に、直接魔物の攻撃を受けることの痛みをよく知っている咲希の顔が歪んだ。

わたくし達は持ち込んでいた全ての回復薬ポーションを使いながら、お二人を連れて撤退したのですが…力及ばずに…」

 麗華もその状況を思い出し、申し訳無いと謝罪を始めた。

「それで…お父さんとお母さんを殺した魔物は、どこにいるんですか?」

 明璃の目から光が消えているような気がする…これは良くない兆候だ。

「明璃…?後で話があるから、今は落ち着け」

 俺は明璃の頭を撫で、諭す。

「わかった…」

 渋々といった感じではあるが、納得してくれたようだ。

 その様子を見た麗華が、さっきの質問に答えるが、

「申し訳ありません。その魔物の情報は制限されていまして…お伝えすることはできないんですの」

「ランク制限…ですか?」

 咲希が尋ねる。

「咲希、ランク制限ってなんだ?」

「ダンジョンにもランクで進入制限があるだろう?それと同じで危険な魔物の情報も冒険者が無闇に挑まないように制限がかかることがあるんだ」

「そりゃ、おかしな話だろう。危険な魔物なら、尚の事、情報を公開すべきじゃないのか?」

「情報を公開すると、自分なら倒せる!と勘違いして無謀に挑むものが出てくるからですわ」

「ダンジョンで死者が出ると魔物氾濫スタンピードが起こるってのが定説だからな。ギルドは情報制限や進入制限でダンジョンでの死者を出さないようにして、魔物氾濫スタンピードを未然に防いでるんだよ」

「そういうことか…」

 異世界あっちじゃ、世界中の魔物を狩り尽くす勢いで討伐してたからな、魔物氾濫スタンピードなんて起きなかったし…

「そういうわけですから、魔物の情報は話せませんの。ごめんなさい…」

ドラゴンだろ?」

 俺がいきなり核心を突く。

「!…なぜ…それを…?」

 その反応はビンゴだな。ポーカーフェイスを覚えないと情報規制は意味ないぞ?

「両親の身体にあった傷を見ればわかるやつにはわかる」

「ついでに言うなら、あんたらの撤退を追撃しなかったところを見ると、一定範囲内から出てこれない、領域守護者フィールドボスってところか?」

「なぜそのようなことがわかるんですの?」

ドラゴンってのは、基本執念深いんだ。狙った獲物をみすみす見逃すなんてことはまずないんだよ」

「まるでドラゴンと戦ったことがあるような口ぶりですのね…あなたは一体…?」


「一週間ほど前に冒険者登録した初心者Fランクだよ」

「はっ!初心者Fランクだと?そんな奴がドラゴンの生態を知っているなどありえん!大方、Sランクのお嬢様に気に入られようと書物か何かで得た知識で媚を売っているのだろう?身の程をわきまえろ!」

 零士が鬼の首を取ったかのように息巻いている。

「その初心者Fランクの使役する魔物スライムに手も足も出なかったお前らに言われても説得力がないぞ」

「ぐぬぬ…」

 零士が悔しそうだ。

「で、麗華さんよ?そのランク制限ってのは、Aランクになれば解けるのか?」

「そうですわね…そもそもの依頼自体がAランク以上限定の指名依頼でしたので…」

「なら、話は早いか。Aランクになればいいってことだろ」

「はっ!何を簡単そうに言っているんだ、このFランクが!」

「あぁ、言い忘れていたが、確か、今日付けでBランクに昇格している…はずだよな?」

 咲希に聞いてみる。

「あ、あぁ。手続き自体は済んでいるはずだ。資格ライセンスは支部長預かりになっているが…」

「Aランクってどうすればなれるんだ?」

「確か…冒険者ギルドの支部長、本部職員、もしくはAランク以上の冒険者3名以上の推薦を受けて、単独ソロでBランクダンジョン攻略、もしくはパーティーでAランクダンジョンの攻略をするんだったかな?基準となるレベルは50以上と言われているが、実力が認められれば例外として昇格できるはずだ」

「何だ、思ったより楽勝じゃないか」

 Aランクへの昇格条件を楽勝だと言い切った俺に対して、麗華が苦笑いを浮かべているが、

「そういうことなら、わたくしが推薦いたしますわ!」

 と協力を申し出てくれた。

「いいのか?」

「ええ。是非協力させてくださいな。零士?あなたも推薦なさい」

「なっ?いや…しかし…お嬢様…」

「何ですの?わたくしの頼みが聞けないとでも…?」

「い、いえ、そんな!滅相もございません!喜んで推薦させていただきます!」

 まるで犬だなと嘲りの視線を零士に向けると、その視線の意味を勘違いしたのか、勝ち誇ったような顔をして、

「この私が推薦してやるのだ。ありがたく思え」

 なんて言うので…

「さすがAランクともなると、ピンクのハート柄のパンツもよく似合うようになるんだな!」

 と、からかってやったら、こちらを憎々しげな目で睨んでいた。

「ぷふっ…そ、そうあまり苛めないでくださいまし。零士は戦闘力こそ低いですけれど、優秀な斥候職なんですのよ。隆さんと真由子さんを連れ帰る時にも、零士がいなければ無理でしたわ」

 その説明を受けて、

「そうなのか…すまない。父さんと母さんをありがとう」

 素直に礼を言ったら、

「と、当然のことをしたまでだ!」

 と、少し照れながら答えてくれた。


 男のツンデレとか…誰得だ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る