第37話 蘇生の可能性

「ところで、隆さんと真由子さんの葬儀なのですが…」

 麗華が突然、そんなことを言い出した。

「真央さんさえ、よろしければ、竜咲グループの総力を上げて、執り行わせてはいただけないでしょうか?」

「なぁ…咲希?竜咲グループって凄いのか?」

「えぇっ!?真央…知らないの?竜咲グループは日本トップクラスの大財閥なんだよ?」

 経済とかに疎い俺が、咲希に尋ねると、そんな想像もつかない規模の答えが帰ってきた。

「ほんとに大金持ちのお嬢様だったのか…」

「お二人はわたくしを庇って命を落とされたも同然なのですから…わたくしがお二人に報いるにはそのくらいのことしかできませんので…」

 麗華の気持ちはわかるし、申し出はありがたいのだが…

 父と母は何があっても必ず蘇生させると決めているからな!

「いや、申し出はありがたいが、必要ない」

「そんなことをおっしゃらずに!どうか、わたくしに償いをさせてくださいませ!」

 さて…どうしようか?蘇生のことを話さないと引き下がりそうもない勢いなんだが…

「おにぃ…」

 明璃は、俺がしようとしていることに予想がついているので、話しても構わないという姿勢だ。

「真央、麗華先輩がこうまで言っているんだ、受けては貰えないのか?」

 咲希は知らないからな、どちらかというと麗華寄りの考えだな…

 仕方ない…か。

(アルス、不審な人物や盗聴とか気になるから、念のため家の周りを覆ってくれるか?)

(わかったー)

「これから話すことは他言無用だ。約束できるか?」

 全員に向けて、話しかける。

 その話の内容に想像がついている明璃は

「もちろんだよ」

 と、即答し。

 咲希は突然俺が真剣な顔になったことと、他にも話せない事実を知っているので、

「あぁ。約束する。誰にも言わない!」

 とすぐに了承してくれた。

 問題はお嬢様と付き人だ。

「一体、何の事なのですか?話が見えないのですけれど…」

「何をバカなことを。お嬢様、このような輩と約束する必要などございません!」

「あぁ、別に聞いてほしいというわけじゃないからな。約束できないと言うなら、このままお引取り願おう」

 どうやら深刻な話であると察したのか、麗華は

「わかりました。わたくしは誰にも言わないと約束いたしますわ」

「ふんっ!お嬢様がそう言われるのであれば、仕方ない。私も話を聞いてやろう」

 麗華の方は今までの話を聞く限りでは信用できそうだと思うが、零士の方はいまいち信用できないんだよな…悪いやつじゃないのはわかってるんだけど…

 まぁ、いいか。バレたところで困ることでもないしな。それで家族に危害が及ぶなら、それ相応の対応をしよう。


「まず、父さんと母さんの葬儀は行わない」

「そんなっ!酷いですわ!冒険者は死が近い職業ではありますけど、お二人は家族なのでしょう?しっかりと弔ってあげるべきですわ!」

「話は最後まで聞け」

 俺は一呼吸おいて、話を続ける。

「父さんと母さんは

 俺の宣言を聞いた明璃は

「やっぱり…」

 と、自分の予想が正しかったことを知る。

「真央…うん。わかった」

 咲希は何も聞かずに俺を信じてくれた。

「何をおっしゃっていますの?そんなこと…」

 麗華は、すぐには信じられないが、本当にそんなことが可能ならば信じたいといった感じだろうか。

「はっ!?何を言い出すかと思えば、馬鹿なことを。死んだ人間を生き返らせるなど、不可能に決まってる!」

 零士はまぁ、予想通りの反応だな。

「お前は、この世界の全てを理解しているのか?」

「何だと?」

「腕や足が無くなっても、飲んだだけで生えてくるような薬があったり、人間が魔法を使ったりしているのに…なぜ蘇生が不可能だと言い切れるんだ?」

「だが、可能だと決まったわけでもないだろう?そんなのはまるで雲をつかむような話ではないか!」

 零士の言っている事ももっともだ。だが、俺にとっては雲をつかむような話ではないのだ。なぜなら、からだ。

 さて…どう説明すればいいものか…

「信じられないかもしれないが、俺は蘇生に関するスキルがあることを知っているんだ」

「そんなスキルが…」

 俺の説明に麗華が驚いている。

「でも、真央…あなたはそんなスキルは持っていないはずよ?」

 そうだな。咲希は俺のスキルを知っているから、そう思うのも当然だ。

「そんなスキルがあるとはにわかには信じられんが、スキルを持っていないのなら、蘇生は不可能じゃないか」

「おにぃには何か考えがあるんでしょ?」

 明璃の質問に答えたのは…

「ミラ姉を探すんだね」

 いつもの姿のアルスだった。


「「アルスちゃん?」」

「か、可愛いですわ!この子は一体どなたですの?」

「さっきまでいなかったはずなのに、どこから入り込んだんだ?」

 はぁ…そこも説明が必要か…

「この子の名はアルスだ。あんた達が手も足も出なかった、あのスライムだよ」

 どうやらかなりの衝撃を受けたようだ。

「そ、そうなのですかっ!?…」

「バカな…この子があのスライムだと?」

「敵対しなけりゃ、何もしないよ。仲良くしてやってくれ」


「それより、アルスちゃん。ミラ姉って誰?」

「う〜ん…ミラ姉はミラ姉だよ?」

「真央?説明してもらえる?」

「あ〜…アルスと同じ俺の仲間さ。ミラを召喚できる呼べるようになれば、蘇生スキルが使えるはずなんだ」

「アルスさんと同じということは、そのミラさんも魔物ということなんですの?」

「あぁ。そうだ。ミラ・ルージュ・ベアトリクスという名の吸血姫だ」

「ただ、契約はできているはずなんだが、まだ召喚はできなくてな…その条件はこれから探していくしかないんだ」

 アルスを召喚できるようになったのはアルティメットスライムと遭遇したのがきっかけだった。なら、ミラと同種の魔物と遭遇できれば、ミラと交信コンタクトができるんじゃないかと思ってはいるんだけどな…まだ確証が得られたわけじゃない。


 とりあえず、説明することはこれだけだな。

 今後、俺がやるべきことは、Aランクへの昇格と、吸血姫に関する情報を集めることだ。

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