第34話 希望
「父さん…母さん…」
両親の安らかな死に顔を見た時、頭の中に声が響いた。
“獅童真央と深い絆で繋がった魂を感知しました”
“スキル魂の絆の効果で、魂の保護が可能です。保護しますか?Y/N”
「は?」
思わず声が出てしまった。だが、今この状況で、本当にそんな魂があるのだとしたら…それは間違いなく…
俺は迷わずYESを選択した。
“「
よしっ!予想通りの結果に小さくガッツポーズをしてしまう。
神様の言葉を借りるなら、本来、肉体を離れた魂は、輪廻の輪へと還る。だが、強い思念を持っている場合は現世に残ることもあるのだろう。
魂の絆を獲得したときも、死んだはずの仲間達の魂に反応していたのだから、今回は父と母の魂が輪廻の輪に還る前に確保できたと考えるべきだ。
そう考えるならば、スキル魂の絆は完全に封印されているわけではない。そういえば、神様は一部封印と言っていたな…なら、おそらく封印されているのはあっちの世界から連れてきた仲間達の魂だけということなのだろう。
そして、僥倖なのは、父と母の魂を無事保護することができたという事実だ。魂のない肉体に蘇生措置を施しても、
ならば、今、俺のすべきことは…
「おにぃ?」
思考の海に
「ねぇ!おにぃってば!」
そんな明璃の声を無視して、俺は次の行動に移る。
「アルス!二人を飲み込め」
突如として現れた大きなスライムが、二人の遺体を体内に取り込んでしまった。その様子を見た明璃が慌てる。
「ちょっと、おにぃ?何してるの!?やだ…やめて!やめてよっ!!おにぃってば!!!」
明璃が俺の体を揺さぶる。だが、一向に反応しないので…
パチンッ
明璃の平手が俺の頬を打った。その衝撃で、俺は明璃に気づく。
「どうした明璃?今、大事なところなんだ、邪魔しないでくれ」
そう言った兄の顔はものすごく真剣な表情で、これから何かをしようとしているのはわかったが、明璃の目には大きなスライムが今まさに大事な両親の遺体を食べようとしているようにしか見えなかったのだ。
スライムに食われたら何も残らないというのは子供でも知っている常識だ。だが、兄が両親に対してそんな酷いことをするわけがないと信じたい。心が揺れ動く中、明璃は静観を決めた。
「後で、ちゃんと、説明してくれる…よね?」
「あぁ。アルス!二人の身体の損傷を修復…」
身体の組成を
二人の身体が綺麗な状態に戻っていく様子を見ていた明璃は、兄のしようとしていることが段々とわかってきた。だが、そんなことは不可能だという先入観と、規格外の
一方、その頃、真央は修復されていく二人の身体を見ながら、どんな魔物にやられたのかを考える。父は鋭い爪に背中を斬り裂かれ、脇腹を食い千切られている。背中の傷から察するに、誰かを庇って攻撃を受けたのだろう。父らしいといえばそうなのだが、その結果が無言の帰宅であるならば、やるせない思いが溢れてくる。母の身体は一部が炭化しており、高温による攻撃を受けたと推測できた。母は炎魔道士だと聞いている。ならば、炎に対する耐性が強いはずなのだ…それを抜けて、このまでのダメージを与えるとなると、
「
問題は、どこのダンジョンの何階にいる
二人の身体の修復が完了したことを確認したので、次の指示を出す。
「アルス。時間凍結して、次元収納へ収納!くれぐれも丁重にな!」
次元収納の中がどうなっているかは知らないが、アルスのことだ、無造作にあれこれ突っ込んでるに違いないので、両親の身体は丁寧に扱ってくれと頼むことにした。
俺達の霊安室での行動は廊下にまで響いていた。異変を感じ取った人間が3人。
バンッ!と勢いよく扉を開け、霊安室へと入ってきた。
「君たち!そこで何をしている!」
最初に入ってきた、白衣を着た男性が、俺達の行動を咎めるような声を発した。
間の悪いことに、突入のタイミングがアルスが二人の身体を次元収納へと仕舞う瞬間と重なってしまったのだ。傍目には俺が巨大なスライムに二人の遺体を食べさせたようにしか見えない…
「隆さんと真由子さんを、よくもっ!絶対に許しません!」
突入してきた3人の内の一人、銀髪縦ロールで青い鎧を着た女性が、腰に下げていた剣を抜いた。
「お嬢様!いけません!!」
さすがに、病院内の霊安室での刃傷沙汰はまずい!と思ったのか、その後に続く、黒服を着た神経質そうな眼鏡の男が、女性の行動を制止するように声を上げる。
「
女は抜いた剣の切先を俺へ向け、牽制しながら、
「貴方への詰問は後回しですわ。まずは、その許し難いスライムを討伐してさしあげます!」
そう宣言して、アルスへと斬りかかった。
女の振るった剣はアルスの体へと吸い込まれるが、アルスの体を斬り裂くことはなく、刃の中程までがアルスに埋まり、膠着状態となってしまった。
情けない話だが、剣を抜いてアルスに襲いかかった女の動きは俺の目には全く見えなかった…
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