第33話 訃報

 決闘を終え、咲希達の所へ戻った。

「咲希、ごめん…やり過ぎた。」

「う、うん。真央、ちょっと怖かった…まるで別人みたいだった」

「咲希にお礼を言わないとな。咲希のおかげで戻ってこれたんだ。あのまま…心を冷たい方へ凍らせて行ったら、戻れないところだった」

 その話を聞いた咲希が驚いている。そして、そっと俺を抱きしめてくれた。

「真央…大丈夫。大丈夫だから…ね」

 咲希の暖かさが、心にじんわりと拡がっていく。


「ん、ごほん!」

 そんな俺達が二人の世界に入り込んでいるのを見ていた小夜が隣で咳払いをした。

 そのおかげで、周囲の野次馬ギャラリー達も俺達のことを見ていることに気付く。

 咲希の顔が、一瞬で沸騰し、俺も恥ずかしくなって俯いてしまった。


 そんな俺を見た、周りの人達からは俺のことを怖れるような目はすっかり消えていた。


「もう話しかけてもいいのかしら?」

「咲希さんも大胆ですよね〜。みんなの前であんな…」

「うぅ…も、もう言わないでくれぇ〜!」


「うふふ」「くすくす」「あはははは」

 3人は誰からとでもなく、笑顔を見せあった。


 一通り落ち着いた頃には、野次馬ギャラリーもすっかりいなくなったので、俺達4人も場所を変えることにした。

 咲希は小夜と里奈を連れて、受付まで行き、チーム賢者の秘薬エリキシルからの脱退手続きをして、正式にフリーとなった。

 今後の話をすると、俺はBランクにアップする手続きが済むまで、時間を潰して、支部長室で受け取ってから帰るよと言ったところ、咲希も一緒に待っていてくれるという。

 小夜と里奈は一刻も早く秘薬を持って帰りたいと言うので、護衛をつけることにした。

「二人にはこれを渡しておくよ」

 俺はそう言って、小夜と里奈にアルスの分体を手渡す。

「これは?」

「何ですかね?プニプニしてます…」

「さっき見たと思うけど、俺が契約しているスライムの一部だ」

 そう告げると、

「ひぃっ!」

「へぇ〜。これがそうなんですね〜」

 驚く小夜と興味津々な里奈と、反応が分かれた。

 もしかしたら、里奈の方が度胸が座っているのかも知れないな…

「持っていても、身体が溶けたりしないから安心してくれ」

 驚く小夜を不安にさせないように説明を追加する。

「それで、これを私達に渡すってことは、どういう理由なんですか?」

 里奈が聞いてくるので、

「まぁ、端的に言うと、護衛だ」

 と、教えてあげる。

「護衛?」

「知っての通り、あのスライムは物理と魔法に耐性があるからな、これを肌身離さず持っていれば、危害を加えられそうになったときに、自動で守ってくれる」

 そこまで説明して、二人共、察してくれた。自分達が今持っている、伝説級の薬が狙われる可能性があるということを。

「ありがとう、真央」

「ありがとうございます、真央さん」

「二人が襲われたりしたら、咲希が悲しむからな」

 と言ったら、

「全部、咲希の為なのね…」

「ちょっと妬いちゃいますよね…」

 なんて言われた。

 予想通り、服の中に侵入するアルスの分体に「きゃぁ」とか「ひゃあ」とか悲鳴をあげていたが、軽くジト目で睨まれる程度で文句は言われなかったのでよしとする。


 ひとまず、これで安心なので、小夜と里奈ともここで別れることになり、二人共、急いで帰っていった。


 咲希と、どうやって時間を潰そうかなどと話をしていたら、

 Dフォンに通信が入った。


「うっぐ…ひっく…おにぃ〜」

「明璃か?どうした?」

「おどうざんと…おがあざんがぁ…うぅ…うわぁぁぁぁぁぁん…」

「おい!明璃?父さんと母さんがどうしたって?今どこにいるんだ?」

「びょ…病院んん…ぐすっ…うぇぇぇぇぇぇん」

「おい!明璃?明璃!病院だな!わかった!すぐ行く!待ってろ!」

 通信は切れてしまった。


「真央?何があったんだ?」

 俺の慌てように、咲希が心配して聞いてきた。

「わからない…。ただ、父さんと母さんに何かあったらしい。明璃が泣いていた…」

 俺にも咲希へ説明ができるほどは要領を得ていないので、

「すまない!咲希。俺は急いで病院に行ってくる」

「なら、支部長へはわたしが話しておくよ」

「サンキュー!恩に着る」

 そういえば冒険者資格ライセンスの更新待ちだったな…と思い出し、その対応は咲希に任せることにした。


 俺は急いで病院へ向かった。

 受付で名前を言うと、看護師さんは辛そうな顔をして、案内をしてくれた。その案内の下、辿り着いたのは病室ではなく、霊安室だった…


 扉を開け、まず目に飛び込んできたのは、顔に白い布を被せられた2人が寝ているベッドとその横で椅子に座りながら泣いている明璃の姿だった。部屋の隅には二人が使っていたであろう、装備品と冒険者資格ライセンスのタグ、そして線香が焚かれていた。

「おにぃ?」

 扉が開く音で俺に気づいた明璃が振り返る。その目は泣き明かしたのか、真っ赤に腫れ上がっていた。

「おにぃぃぃ〜うぅぅ…うえぇぇぇぇぇ…」

 再び泣き出す明璃を抱きしめる。

「うっぐ…ひっく…ぐすん…」

 どうにか涙を堪えることができるくらいには落ち着いたようなので、俺は二人に近づいて、そっと白い布をめくった。

「父さん…母さん…」

 そこに寝ていたのは、間違い無く、断れない依頼とやらで出かけていった父と母だった。

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