第31話 脱退

「咲希!」「咲希さん!」

 ロビーに戻ると、小夜と里奈の二人がいた。そして俺の顔を見て…

「…え!?」「…そんなことって…」

「ははは、なんとか無事でした」

 やっぱり驚くよなぁ。

「咲希…よかったわね!」

「咲希さん…よかっですね!」

「あぁ…みんなにも心配かけてしまったな。ごめん」

 そんな和やかな空気をぶち壊すやつがいた。

「な、なんでお前が生きてるんだ!」

「なんだ?まるで俺が生きてちゃいけないみたいな言い草じゃないか、信吾」

「そうよ。信吾は真央が無事で嬉しくないの?」

「い、いや、そんなことはないさ。ところで咲希。話があるって呼び出されたんだけど、一体何なんだ?」

「あ、うん。小夜と里奈にも聞いて欲しいんだけどね。わたし、チームを抜けようと思って」

「え?咲希さん、辞めちゃうんですか?」

「ふざけるなよ!咲希!これまで一緒にやってきた仲間だろうが!」

「そうだけど…今回のことでね、わたしはやっぱり真央と一緒にいたいって思っちゃったから…真央とわたしと、明璃ちゃんでチームを組もうって話をしたの」

「咲希?賢者の秘薬エリキシル探しはどうするのよ?あなたにはもう必要ないかもしれないけど、私と里奈のために秘薬を探すのを手伝ってはくれないの?」

「そのことなんだが…真央、頼めるか?」

「あぁ。小夜と里奈に渡したいものがあるんだ。ちょっとこっちに来てくれるか?」

 二人を呼び寄せる。ポケットの中から2つの小瓶を取り出し、それぞれに手渡した。

「え?これって…」

「そ、そんな…まさか?」

「さっき、京香さんに鑑定してもらったから、本物の賢者の秘薬エリキシルだよ」

「これをどこで?」

「あの罠部屋スライム道場で見つけたんだ。これのおかげで生きて帰ってこれたんだよ」

「そうだったんですね…」

「咲希を引き抜く形になっちゃったからな…その代わりと言っちゃなんだがこれを貰ってくれないか?」


「本当に、貰ってしまっていいんでしょうか?」

「これを売れば一生お金には困らないし、地位も名声も思いのままなのよ?」

「そんなことよりも、二人にはこれが必要なんだろ?咲希から頼まれたんだ、二人に渡してあげてほしいってさ」

「咲希…ありがとう!」

「咲希さん…ありがとうございます!」

「礼なら真央に言って。わたしのわがままを聞いてくれたんだもの…」

「真央、ありがとうね」

「真央さん、ありがとうございます!」

「いいんだよ。二人はハズレ職の俺を馬鹿にしないで、レベル上げ手伝ってくれただろ?そのお礼でもあるんだ」


「それにしても、咲希さん。幸せそうですね」

「そうね。お願いで秘薬これをポンとプレゼントしちゃう人なんてなかなかいないわよ」


 どうやら円満に解決かな?と思ったが、やはり納得しない人間はいるようで、

「おい!黙って聞いてりゃ、何勝手に話を進めてやがる!俺は咲希の脱退は認めないぞ!」

「咲希が決めたことだ。なんでお前の許可が必要なんだ?」

「うるさい!うるさいうるさいうるさい!お前が呑気に寝てる間、咲希とずっと一緒にいたのは俺だ!俺が咲希を守ってきたんだ!咲希の隣に立つのに相応しいのは俺なんだよ!」

「呑気に…ね。だそうだが、咲希?」

「ごめん、信吾。わたしは真央と一緒にいたいんだ」

「ぐっ…だったら!だったら、俺と決闘しろ!勝ったほうが咲希を貰う!」

「お前こそ、何勝手なこと言ってるんだ?咲希は俺と一緒にいたいって言ってるだろう?」

 咲希の身体を引き寄せて、腰に手を回して抱き寄せる。

「ちょっ…真央…恥ずかしいってば」

 その様子を見ている信吾の顔が怒りに歪む。

「へっ…へへ…怖いのかよ?」

「お前、バカなの?勝っても負けても、俺に何のメリットもないだろ?」

「お前が勝ったら、望むだけの金を払ってやるぞ!」

「へぇ…お前は咲希を金で買おうとしてるのか。いいか?咲希は俺の女だ。誰にも渡す気はないよ!」


「俺の女…」

 ボンッという効果音が聞こえそうなほど、隣にいる咲希の顔が赤い。

「聞きました、小夜さん?俺の女ですって!」

「ええ。里奈。見て、咲希ったら、顔が真っ赤よ」


 俺たちが言い争っていると、ざわざわと野次馬ギャラリーが集まってきてしまったらしい。

「なんだなんだ、騒々しい。一体、なんの騒ぎだ?」

「支部長…」

 ギルド内の騒動に、先程別れた支部長が様子を見に来たようだ。

「実は…」

 と、一部始終を見ていた野次馬ギャラリーから説明を受けている。

「ほう…」

 何やら妙案を思いついたらしく、支部長がニヤリと笑った。

「真央、俺がその勝負に報酬メリットを用意してやる。と言ったら?」

「内容次第ですかね?」

真央お前信吾こいつに勝ったら、Bランクに昇格させてやる。どうだ?悪い話じゃないだろ?」

「そんなに簡単にランクを上げてしまってもいいんですか?」

「本来はダメだがな…Bランク冒険者と一対一サシで戦って勝てる実力があるなら、問題ないさ。上にはそれで無理矢理にでも通してやる」

「まぁ、そういうことならいいですけどね」

「ギルドとしてもな、あの戦力を低ランクにしておくのは損失だ。実際のところ、そんな余裕はないんだよ」

「ダンジョン攻略は思うように進んでないってことですか?」

 図星をつかれた支部長が苦い顔をする。

 そんな俺達のやりとりに

「てめぇ!何をもう勝った気でいやがる!」

 吠える信吾に支部長が条件をつけた。

「信吾!お前は、もし真央こいつに負けたらCランクに降格だ。それでもいいか?」

「へっ!俺がFランクに負けるわけないだろうが!」

「先に言っておくぞ?俺は召喚士だからな。魔物を召喚して戦っても文句言うなよ?」

「魔物だと?はっ!スライムしか倒せないお前が、やっとスライムとの契約に成功でもしたかよ?」

「あぁ、そうだ。やっとと契約ができてな、召喚できる呼べるようになった」

 信吾が野次馬ギャラリーに呼びかける。

「おい!聞いたかよ?お前ら!こいつは俺との決闘にスライムを召喚するんだってよ!あっはっはっは」

 信吾の俺を侮蔑するような笑いに、釣られて笑う野次馬ギャラリーも何人かいたようだ。

「支部長…あんまり仲間を晒したくないんですけどね…」

「まぁ、ここまで大事になってしまったんだから、諦めろ。それにこれでお前を舐めるやつもいなくなるだろうよ…それに、咲希とパーティー組むなら、同じランクになっといた方がいいだろ?」

「まぁ、そうですね。」

 すでに俺と支部長の会話の中では決闘の決着がついている。 


「よし!では1時間後に訓練場で真央と信吾の決闘を行う!勝敗は、どちらかが降参する、もしくは俺が戦闘不能と判断したら止める!殺すのはなしだ!」

 支部長が、仕切り、野次馬も解散していく。俺は一人呟いた…

「ちゃんと、手加減できるだろうか…」

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