第30話 鑑定

 支部長の執務室で、昨日の夜、あらかじめ考えておいたストーリーを話す。

「そんなことが…?」

 俺達の考えた話は、突拍子もない話なのだ。賢者の秘薬エリキシルは発見された数がものすごく少ない伝説級の秘薬だし、魔物側から契約を持ちかけられた話は眉唾ものの噂程度で真偽も定かではない。それがFランクの召喚士が経験したなどと言われても、おいそれと信じてもらえるとも思わないからだ。

 支部長の反応もそれで、ほんとうにそんなことがあるのか?と懐疑的だ。

 なので、次の一手を放つ。

「これがその時に見つけたものです」

 そう。アルスの霊薬エリクサーの現物だ。さすがに目の前に秘薬を出されては支部長も動揺を隠せないようだ。

「おい!誰か、長谷川を呼んでくれ」

 支部長が名指しで職員を呼び出した。しばらくして、扉をノックする音がした。

「失礼します。支部長、お呼びでしょうか?」

「支部長、その人は?」

「あぁ、うちの鑑定部のトップの長谷川だ」

長谷川はせがわ京香きょうかと申します。以後お見知りおきを」

 丁寧なお辞儀で挨拶してくれた女性は京香さんと言うらしい。

「早速だが、長谷川、こいつを鑑定してもらいたい」

 支部長が小瓶を手渡す。

「こ、これは!!!」

「どうだ?」

「はい。間違いありません。賢者の秘薬エリキシルです。これをどこで?」

「こいつがダンジョンから持ち帰ってきたそうだ」

 京香さんはまだ半信半疑のようだが、現物があるため否定もしきれないといった感じだ。

「これはギルトで買い取らせてもらっていいのか?」

「すみません。これを必要としてる仲間がいますので…」

「そうか。咲希のパーティーメンバーか。残念だが、しかたあるまい。戦利品の所有権は冒険者にあるからな。ギルドが強権をもって接収してしまったら、誰もギルドを信用しなくなっちまう」

 さすがに賢者の秘薬エリキシルともなると、様々な思惑が絡んでくるだろうからな… 信頼できる人が支部長でよかった。

「となると、だ。お前らの言った、もう一つの話も証明できると考えていいのか?」

「ここで呼んだら、部屋が壊れますけど…」

「そ、そうか…それは困るな。長谷川、訓練場は空いてるか?」

「今の時間だと、それほど混んでないかと思われます」

「支部長権限で一時使用禁止とする」

「それは、どういう…」

「そうだな…では君も着いてきてくれ」

「かしこまりました」

「すまないが、場所を変えたい。着いてきてくれ」

「「わかりました」」

 俺と咲希は支部長と京香さんの後を着いていく。エレベーターに乗り、地下へ降りると、広大な空間に出た。どうやら、ここが訓練場のようだ。

 訓練場には3人組のパーティーが2チームで模擬戦をしているようだった。

「そこまで!」

 支部長がストップをかける。

 模擬戦をしていたパーティーは動きを止め、こちらへとやってきた。

「あれ?支部長と姐さん!どうしたんすか?」

 ゴチンッ!

「誰が姐さんだ、誰が!」

 咲希の拳骨をくらった男が頭を押さえている。

「あ〜。すまんな、銀次。ちょっと今からギルドの要件で訓練場を使うのでな。すまんが退去してくれ」

「はぁ?わかりやした!おい、お前ら!そういうわけだから、撤収だ」

「うっす」「了解っす」

「わかりました」「ありがとうございました!」「またお願いします!」

 銀次と呼ばれた男の号令によって、その他のメンバーも撤収の準備を始めた。

「咲希、今の人は?」

「あぁ、及川おいかわ銀次ぎんじって言ってな、Cランクパーティ銀の拳シルバーナックルズのリーダーをしているんだ」

「姐さんって?」

「そ、そ、そ、それはいいだろ…別に…」

 まぁ、なんとなくわかるので、これ以上は追及しないことにした。

 全員が訓練場を出ていったので、京香さんが立入禁止の措置を施す。

「さて、これでいいと思うが…見せてもらえるか?」

「わかりました」

(アルス、擬態なしで出れるか?)

(うん、大丈夫だよー)

「召喚!アルス・グラトニア」

 地面の魔法陣から、5mサイズのスライムが現れる。

「こ、これほどとは…」

 支部長が驚いている。

「長谷川、鑑定できるか?」

「やってみます」

 京香さんがアルスを鑑定しているようだが…多分無理だろうな…

「種族名、アルティメットスライム?…ダメです…それだけしか分かりません…」

「そうか…」

 種族名はLV2の俺の魔物鑑定でも分かったくらいだから、そこはレベル差による制限がかからないんだろう。ただ、それ以外の部分は、この世界の人間にアルスを鑑定できるやつはいないと思う。

「真央、と言ったな?このスライムのステータスを開示することはできるか?」

「それは命令ですか?」

「いや、任意だ」

「では、お断りします」

「理由を聞いても?」

「現状、俺はこのスライムとしか契約してませんから。情報の開示は弱点を晒すようなことになるので」

(本音は強すぎて公開できない。だけどな)

「ただ、Bランクパーティーを無傷で撃退できるだけの能力はあるとだけ言っておきます」

「そうか。ありがとう。もう確認はできたから、戻してくれていいよ」

「では、送還!」

 魔法陣が光り、アルスはその場から消えた。

(ごくろうさん。やっぱアルスはいつもの姿のほうが可愛いな)

(えへへ〜)


「さて、大体の事は理解した。ということはFランクダンジョンの異変は解決したということでいいんだな?」

「はい。原因はあのスライムでしたから。念のため、ギルドの方で罠部屋モンスターハウスを確認してください」

「それはもちろんだ。長谷川、ダンジョン部の方へ連絡を頼む」

「かしこまりました」


「さて、今後の話だが、今の君のLVは22だと言っていたな。ならば、支部長権限でDランクまで上げようと思う。異存はあるか?」

「いえ、特にないんですけど、Fランクの召喚士をいきなりDランクまて上げても大丈夫なんでしょうか?」

「まぁ、中には納得しない奴らもいるだろうがな…Bランクパーティーが失敗した依頼を解決し、伝説級の秘薬を発見。さらには未知の魔物との契約だ。これでランクが上がらないなんてことになれば、冒険者達がやる気をなくしてしまうぞ」

「なるほど…では、ランクアップの件はよろしくお願いします!」

「あぁ。今日の夕刻までには済ませておくので、後で冒険者資格ライセンスを更新して行ってくれ」

「わかりました」


 これで、ギルドへの報告は済んだので、支部長達と別れて、俺達はロビーへと移動した。

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