第30話 鑑定
支部長の執務室で、昨日の夜、あらかじめ考えておいたストーリーを話す。
「そんなことが…?」
俺達の考えた話は、突拍子もない話なのだ。
支部長の反応もそれで、ほんとうにそんなことがあるのか?と懐疑的だ。
なので、次の一手を放つ。
「これがその時に見つけたものです」
そう。アルスの
「おい!誰か、長谷川を呼んでくれ」
支部長が名指しで職員を呼び出した。しばらくして、扉をノックする音がした。
「失礼します。支部長、お呼びでしょうか?」
「支部長、その人は?」
「あぁ、うちの鑑定部のトップの長谷川だ」
「
丁寧なお辞儀で挨拶してくれた女性は京香さんと言うらしい。
「早速だが、長谷川、こいつを鑑定してもらいたい」
支部長が小瓶を手渡す。
「こ、これは!!!」
「どうだ?」
「はい。間違いありません。
「こいつがダンジョンから持ち帰ってきたそうだ」
京香さんはまだ半信半疑のようだが、現物があるため否定もしきれないといった感じだ。
「これはギルトで買い取らせてもらっていいのか?」
「すみません。これを必要としてる仲間がいますので…」
「そうか。咲希のパーティーメンバーか。残念だが、しかたあるまい。戦利品の所有権は冒険者にあるからな。ギルドが強権をもって接収してしまったら、誰もギルドを信用しなくなっちまう」
さすがに
「となると、だ。お前らの言った、もう一つの話も証明できると考えていいのか?」
「ここで呼んだら、部屋が壊れますけど…」
「そ、そうか…それは困るな。長谷川、訓練場は空いてるか?」
「今の時間だと、それほど混んでないかと思われます」
「支部長権限で一時使用禁止とする」
「それは、どういう…」
「そうだな…では君も着いてきてくれ」
「かしこまりました」
「すまないが、場所を変えたい。着いてきてくれ」
「「わかりました」」
俺と咲希は支部長と京香さんの後を着いていく。エレベーターに乗り、地下へ降りると、広大な空間に出た。どうやら、ここが訓練場のようだ。
訓練場には3人組のパーティーが2チームで模擬戦をしているようだった。
「そこまで!」
支部長がストップをかける。
模擬戦をしていたパーティーは動きを止め、こちらへとやってきた。
「あれ?支部長と姐さん!どうしたんすか?」
ゴチンッ!
「誰が姐さんだ、誰が!」
咲希の拳骨をくらった男が頭を押さえている。
「あ〜。すまんな、銀次。ちょっと今からギルドの要件で訓練場を使うのでな。すまんが退去してくれ」
「はぁ?わかりやした!おい、お前ら!そういうわけだから、撤収だ」
「うっす」「了解っす」
「わかりました」「ありがとうございました!」「またお願いします!」
銀次と呼ばれた男の号令によって、その他のメンバーも撤収の準備を始めた。
「咲希、今の人は?」
「あぁ、
「姐さんって?」
「そ、そ、そ、それはいいだろ…別に…」
まぁ、なんとなくわかるので、これ以上は追及しないことにした。
全員が訓練場を出ていったので、京香さんが立入禁止の措置を施す。
「さて、これでいいと思うが…見せてもらえるか?」
「わかりました」
(アルス、擬態なしで出れるか?)
(うん、大丈夫だよー)
「召喚!アルス・グラトニア」
地面の魔法陣から、5mサイズのスライムが現れる。
「こ、これほどとは…」
支部長が驚いている。
「長谷川、鑑定できるか?」
「やってみます」
京香さんがアルスを鑑定しているようだが…多分無理だろうな…
「種族名、アルティメットスライム?…ダメです…それだけしか分かりません…」
「そうか…」
種族名はLV2の俺の魔物鑑定でも分かったくらいだから、そこはレベル差による制限がかからないんだろう。ただ、それ以外の部分は、この世界の人間にアルスを鑑定できるやつはいないと思う。
「真央、と言ったな?このスライムのステータスを開示することはできるか?」
「それは命令ですか?」
「いや、任意だ」
「では、お断りします」
「理由を聞いても?」
「現状、俺はこのスライムとしか契約してませんから。情報の開示は弱点を晒すようなことになるので」
(本音は強すぎて公開できない。だけどな)
「ただ、Bランクパーティーを無傷で撃退できるだけの能力はあるとだけ言っておきます」
「そうか。ありがとう。もう確認はできたから、戻してくれていいよ」
「では、送還!」
魔法陣が光り、アルスはその場から消えた。
(ごくろうさん。やっぱアルスはいつもの姿のほうが可愛いな)
(えへへ〜)
「さて、大体の事は理解した。ということはFランクダンジョンの異変は解決したということでいいんだな?」
「はい。原因はあのスライムでしたから。念のため、ギルドの方で
「それはもちろんだ。長谷川、ダンジョン部の方へ連絡を頼む」
「かしこまりました」
「さて、今後の話だが、今の君のLVは22だと言っていたな。ならば、支部長権限でDランクまで上げようと思う。異存はあるか?」
「いえ、特にないんですけど、Fランクの召喚士をいきなりDランクまて上げても大丈夫なんでしょうか?」
「まぁ、中には納得しない奴らもいるだろうがな…Bランクパーティーが失敗した依頼を解決し、伝説級の秘薬を発見。さらには未知の魔物との契約だ。これでランクが上がらないなんてことになれば、冒険者達がやる気をなくしてしまうぞ」
「なるほど…では、ランクアップの件はよろしくお願いします!」
「あぁ。今日の夕刻までには済ませておくので、後で冒険者
「わかりました」
これで、ギルドへの報告は済んだので、支部長達と別れて、俺達はロビーへと移動した。
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