【第2章】ランクアップ編

第29話 護衛

「おはよう。咲希、明璃も」

「あぁ、おはよう真央」

「おはよ。おにぃ。あたしはおまけか…笑」

「マオー様おはよー」

「お?アルスも起きたか」

「ちょ、ちょっと、おにぃ…なんでアルスちゃんがおにぃの部屋から出てくるのよ?」

「ん?一緒に寝てたからだが?」

 その一言に咲希がプルプル震えて怒っている。

「こんの…浮気者ぉ〜!」

 拳を握った咲希にアルスが反応してしまう。

(ヤバいっ!)

「アルス!ストップだ!!」

 アルスが咲希の拳を受け止める。

(危ない…もう少し遅かったら、咲希は死んでいたかもしれない…)

「マオー様?この人は敵?」

 アルスから怒気が少しだけ漏れる

「ひっ」

 アルスの怒気に当てられた咲希が怯えて後ずさる。

 俺は咄嗟に、咲希をガバっと抱きしめた。

「真…央…え?」

「咲希、ごめんな。大丈夫、大丈夫だから、落ち着いて…」

 咲希の心臓の音が聞こえる。

 トクン トクン ドキドキドキドキ…

 あ、あれ?鼓動が早まってる?

 そして、自分が今何をしているのかを思い出し…

「ご、ごめん」

「ううん、大丈夫だから…」

 お互いに顔を赤らめて、抱擁をやめる。

「アルスはさ、俺の護衛なんだ。だから、俺の敵だと認識しちゃったら容赦がなくなっちゃうんだ…ごめん。ちゃんと説明してなくて…」

「私も…勘違いとはいえ、ごめん…」

「いいんだ。あれは俺達にとってはいつものことだろ。挨拶みたいなもんさ笑」

 アルスはまだ警戒してるか?

「アルス。この人は俺の敵じゃないよ。俺の一番大切な人なんだ。だから、そんなに警戒するな。むしろ、俺と同じように守ってあげて欲しい」

「い、一番…大切…」

 咲希の顔が真っ赤になる。

「おにぃ〜。朝から見せつけてくれるねぇ〜笑」

「こ、こら、からかうなよ、明璃…」

「おにぃ、照れてる笑」

 こ、こほん!と咳払いしてごまかし、

「アルス、こいつも俺の大切な家族だ。二人を守ってやってくれるか?」

「うん。マオー様!ボクわかったよ!」

 やっと警戒を解いてくれた。しかし、このままだといつか取り返しのつかないことになるかもしれないな…

「なぁ、アルス」

「な〜に?マオー様」

「俺やこの二人を守ってもらうのはありがたいんだが、攻撃してくる相手を殺しちゃだめだ」

「ん〜?それは相手が敵でも?」

「できれば拘束するくらいでやめておいて欲しいかな」

「う〜…」

 敵を殺すなという命令に悩んでいるようだ…

「そうだなぁ…敵を拘束したときに、俺が殺すなって言ったら殺さないでくれるか?」

「うん…わかった!」

 どうやら、納得はしてくれたらしい。アルスの中では、俺を守るということは何よりも優先される使命だと思っているからな。

 俺の頼みを聞いてくれたアルスが二人に何かを手渡した。

「お姉ちゃん達、これあげるね」

 アルスは手のひら大のプニプニした物を取り出し、二人に手渡した。

「アルスちゃん、これは?」

「んとね、ボクの分身だよ」

「分身…?」

「うん!マオー様がお姉ちゃん達も守ってほしいって。これがお姉ちゃん達を守ってくれるから、持ってて!」

「そうなんだね。ありがとうアルスちゃん!」

 アルスの小さな分体は、二人の手の上でピョンと飛び跳ね、服の中へ侵入していった。

「きゃっ。ふ、服の中に…く、くすぐったい…きゃぁ!アルスちゃん?」

「ひゃっ…やん…む、胸に…あ…あぁんっ…み、見ないで…真央ぉ?」

「ご、誤解だ!俺は何も指示してないぞ!」

「その方がちゃんと守れるから!」

 アルスがいたずらが成功したみたいな顔して笑っている。


 う、うん。どうやら和解できたみたいだな。


 アルスちゃんになんてこと教えるのよ!とジト目で説教を受けた後、俺と咲希は、ぎこちなく手を繋いでギルドへ向かった。

 今日は報告だけのつもりなので、二人とも普段着だ。普段着と言っても、アルスの分体が今も咲希の服の中に(どことは言わない)いるので、守りに関しては安心なのだが。

 アルスの分体は体が小さい分、HPとSPは本体の1/10しかないんだけど、能力値は本体と同等だからな。

 そういえば、召喚士は1体しか召喚できないって話だったけど、分体は何体いようと1体って扱いなのかな?まぁ、大丈夫っぽいので気にすることもない…か。


 俺達がギルドに入ると、周囲の人間からヒソヒソ話が聞こえてくる。

「お、おい、あれ…」

「そんな…咲希さん、いつもの格好じゃないなんて…」

「やっぱり、引退なのかな…?」

「でも、よく見ろ、隣りにいるの、彼氏クンじゃないか?」

「え?ほんとだ…死んだって話じゃなかったっけ?」


「やっぱり俺って死んだことになってるんだなぁ」(ってか、彼氏クンって何だ?)

「まぁ、あの状況じゃ、しょうがないよ」

「一応、ダンジョンから出たときに、ちゃんと帰還報告したんだけどなぁ…」

「それって昨日の夜の話だろ?なら、まだ冒険者には伝わっていないんじゃないか?」

「そういうもんか。なら、咲希のパーティーメンバーも知らないかもしれないな」

「あぁ。きっと驚くぞ」

 そんな話をしながら、受付カウンターの前まで行き、咲希が受付の職員に声をかけた。

「すまないが、支部長を呼んでもらえるだろうか?緊急の要件だ」

「…!!か、かしこまりました。ただいま、お取り次ぎいたしますね」

 受付嬢は俺の顔を見て息を飲んだ。

 すぐに業務に復帰し、支部長に取り次いでくれるようだ。

 しばらく待っていると、

「おぅ!咲希か。もう大丈夫なのか?」

 顔に大きな傷痕のある、歴戦の猛者という感じ貫禄のある男性が声をかけてきた。

「咲希、この人は?」

「あぁ、この冒険者ギルドの支部長だ」

 この人が支部長…


「その節はご迷惑をおかけしました」

 咲希が支部長に謝罪する。ご迷惑って何なんだろう?と気にはなったけど、聞かないほうがいいような気がする。

「まぁ、仕方のないことだ。冒険者なら死と隣り合わせなのは覚悟しておかないとな。立ち直ったなら、それでいい」

「いえ…そうじゃなくて…ですね…」

 咲希が申し訳無さそうに目を逸らす。

「なんだ歯切れが悪いな…で、そちらさんは誰だ?」

「えーっと、ですね…生きてたんです…彼」

「なんだと?」

「おい。詳しく聞かせて貰えるんだろうな?」

「は、はい。そのためにお呼びしたんです…それと、その件で緊急の連絡もありまして」

「わかった。俺の執務室でいいか?」

「はい」

 こうして、俺達は支部長の執務室へと移動した。

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