第13話 幼なじみ
「おにぃ〜。起きてる〜?今、そこでサキ姉とバッタリ会ったんだ〜」
病室に来るなり、開口一番、騷しいのは我が妹よ…
「起きてるよ。ってか、お前は朝から元気だな〜」
「えへへ〜。それがあたしの取り柄だからね〜」
そんな明璃の後ろから、そーっと病室を覗き込む女性がいた。
そして、俺の姿を見るやいなや、病室へと飛び込んできた。
「真央っ!」
俺の名を呼んだ、茶髪のゆるふわポニーテールの女性が、瞳に涙を浮かべながら、俺に抱きついてきた。
突然の出来事に驚くも、情報過多すぎてわけがわからない…
そもそも、このエロいコスプレのおねーさんは誰なんだ?
いや、わかってるよ。明璃がサキ姉って言ってたし…
ビキニアーマーって言うのかな?そんな格好で俺に抱きついてきてるもんだから…
柔らかい双丘に顔を埋める形になっちゃってるんだけど…
それよりも、咲希…どうしちゃったのさ?そんなコスプレ趣味とかあったっけ?いやいや…そもそも、その格好で病院まで来たの?
もう、頭の中がパニックだよ。
でも、まぁ、いっか。今はこの感触を堪能するとしよう!
ふにふに。
う〜ん…咲希も立派になって…
もみもみ。
すっかり大きくなったなぁ〜。俺は嬉しいよ…
プルプル…
あれ?咲希の身体が小刻みに震えてるような…
バッチーーーーィンン!!
「このバカッ!変態っ!スケベッ!」
「ぶべらっ!」
「いや、今のはおにぃが悪い!」
頬に真っ赤なモミジの跡を残しながら、ベッドの上で正座させられている俺は、今、絶賛、ジト目で睨まれているところである。
「いや、だってさ…咲希が、そんな格好で抱きついてくるからさ…」
なんて言い訳をしてみると…
咲希が額に青筋を浮かべて、拳を握ってプルプルしている…
「嘘です!すんませんっした!調子に乗りましたぁ〜!」
華麗な土下座を披露する。
完全敗北である。
「はぁ…もういいよ。で、あんた、ほんとに身体は大丈夫なの?」
「え〜?殴っといて、それ言う?」
「もう1発いっとく?」
笑顔が怖い…
「いえ、結構です!」
「とまぁ、冗談はそれくらいでさ、先生はすぐにでも退院できるくらい大丈夫だって言ってたよ」
「そっか。よかったぁ…」
「それよりも…咲希。その格好、何?」
「え?これ?あぁ〜、わたしは武道家だからさ!」
「は?」
いや、意味がわからんのですけど…
「あぁ!そっか!おにぃは目が覚めたばっかりで、まだ知らないんだ!」
「明璃?知らないって、何を?」
「う〜ん…何から説明したらいいんだろう?」
「今、地球にはダンジョンがあって、魔物がいるんだよ」
「へ?」
何だそのパワーワードは…ゲームじゃあるまいし…
「う〜ん…まぁ、信じられないってのはよくわかるよ。わたし達も最初は信じられなかったからね…」
「しかし…魔物…魔物かぁ…痛っ」
魔物なんてゲームとかじゃ馴染みのある言葉なんだが、なぜかとても懐かしい感じがする。なんでだろ…?
「痛っつー…」
ダメだ、考えようとすると頭が痛くなる…ちょっと考えるのはやめたほうがよさそうだ。
「ちょっと!おにぃ…大丈夫?目が覚めたばっかりなんだから無理しないで?」
「あ、あぁ。すまないな、明璃…」
予想外の頭痛に戸惑ったが、ベッドに横になり、深く考えるのをやめたことで、頭痛はやわらいだ。
それから、明璃と咲希が、かいつまんで、今の地球の現状を話してくれた。
「今から3年くらい前に、突如として、世界中にダンジョンができたんだよ」
「そこにLIVE配信をやってる人達が、[ダンジョンに潜ってみました]なんてタイトルで配信したんだよね」
「あぁ、あれは…思い出したくもないな…」
LIVE映像で、人が魔物に惨殺されて、食われるという衝撃的なシーンが世界中のネットに流れて大炎上したらしい。
事態を重く見た、各国の政府は警察、自衛隊、軍隊、特殊部隊などなど、武力を持ってダンジョンを制圧しようとしたんだけど…
ダンジョンではほとんどの銃火器は効果がなくて、そこはプロだから、戦い方を近接戦に変えることで、どうにか魔物を倒すことに成功した。
「それが地球で初めて、人がレベルアップを経験したって話」
「でも、結局、その第一次ダンジョン制圧作戦は失敗しちゃったんだ…」
ダンジョンは広くて、進めば進むほど魔物も強くなっていった。隊員達は、レベルが上がって強くなったけど、ダンジョン奥の魔物には勝てなかった。
結局、そこでも大量の犠牲者が出てしまったらしい。
この情報を持ち帰ったのが、情報を地上に持ち帰るという任務を受けた、まだ若い新兵達で、この作戦の唯一の生き残りだったらしい。
「その後だったよね…ダンジョンが溢れたのは」
「あれは地獄だったな…」
「溢れる?」
「うん。ダンジョンの魔物がダンジョンから出てきちゃったんだ…」
「最初の
「
その時の
「その時にね、世界中にレベルアップの情報が
「それを受けて、勇気ある人達が、魔物に立ち向かったんだよね」
「その時、魔物を倒してレベルアップした人達のことは覚醒第一世代って呼ばれてるんだ」
そして、ダンジョンが世界に現れたときに未成年だった者たちは、魔物を倒さなくてもレベルの恩恵を受けられることがわかった。これが覚醒第二世代と言われているそうだ。
さらに、第一世代や第二世代から産まれた子供達は生まれながらにレベルがあるので、覚醒第三世代と言われているんだと。
「ってことは、俺は第二世代ってことになるのか…」
「うん。そうだね。冒険者ギルドへ行けば、無料で鑑定してもらえるよ。鑑定してもらえば、自分の
「冒険者ギルド!?」
これまた、心惹かれるワードが出てきたな…
「そうだ。わたしはそれで武道家って
「なるほど…それで、その格好なのか…」
って、ん?待てよ…
「じゃあ、咲希はダンジョンで魔物を倒す冒険者をやってるのか?」
「あぁ。そうだ」
どうだ!すごいだろ!とばかりに胸を張る咲希だが、
言われてみると、確かに似合ってるな…咲希は子供の頃から活発な女の子だったし…
「今は15歳になったら、冒険者
ほぉ〜。そんな高校まであるのか…
「ってことは、明璃も持ってるのか?その、冒険者
「うん。あたしも、お父さんもお母さんも持ってるよ」
「え?父さんと母さんも?」
「うん。そうだよ。二人共、おにぃを救うんだ!って、冒険者になったんだよ」
「ん?どういうこと?」
「ダンジョンからは、どんな怪我も病気も治す
そうなのか…両親の愛を感じるな〜
なんだか、すごく嬉しい。
「でも、ダンジョンって危ないんだろ?俺はもう大丈夫だから、二人にはあんまり危険なことしてほしくないなぁ…」
「これからはあんまり無茶なアタックはしなくなるだろうし、大丈夫だと思うよ。お父さんもお母さんも強いしね」
(父さんと母さんが強いってのは全然想像つかないけど…)
「まぁ、二人がいいなら、それでいいのかな?」
「おにぃは退院した後、どうするの?」
「どうするって言われたってなぁ…」
「あ!そういや、俺…高校ってどうなったんだ?」
「おにぃが事故にあって寝たきりになってから5年経ってるからね〜。たしか、自主退学ってことになってたと思うけど…」
「え…マジか…なら、俺の最終学歴って中卒じゃん…」
「え?悩むとこ、そこなの?」
明璃が俺の呟きに呆れながら笑っている。
「まぁ、大丈夫だよ。いざとなったらサキ姉が養ってくれるって!」
「ちょっ!明璃!何を言っているのだ!」
咲希の顔が、若干赤い…
「そうだぞ、明璃。何だその堂々とヒモ宣言は…さすがに情けなさすぎるだろう」
「でも、おにぃ。サキ姉はこう見えてBランクの冒険者なんだよ?おにぃが
「そうなのか?Bランクってのがどれくらい凄いのかよくわからないんだが…」
「それに、サキ姉はお父さんたちと同じ理由で、おにぃのために冒険者になったんだからね〜」
「ワーッ!ワーッー!ワーッ!」
咲希が顔を真っ赤にして慌てている。
「明璃!それは…内緒だって言ったろう!」
咲希が涙目だ…
「へぇ〜。そうだったんだ…」
人が自分のために何かをしてくれる。そんなことが嬉しくて、ついニヤけてしまった。
ニヤニヤしている俺を見た咲希は…
ドカンッ!!
「忘れろっ!」
ぐぅ…り、理不尽…
バタン。
俺は意識を失った…
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