【第1章】冒険者登録編
第12話 目覚め
ピッ…ピッ…ピッ…ピッ…
何やら、電子音が聞こえる…
薄っすらと目を開けると、真っ白い天井が目に入ってくる。
ここは…どこだ?
自分の身体はベッドに寝かされていて、ベッドの脇には俺の身体と繋がれた仰々しい機械が電子音を奏でている。
そして、鼻につく薬品の匂い…
「病院…か?」
なんだか…とても長い夢を見ていた気がする…内容は思い出せないんだが…
「痛っ!」
思い出そうとすると、ひどく頭痛がする…
なんだろう?何か、とても大切な何かを忘れてしまったような…そんな感覚に襲われる…
ガチャリ
突然、ドアが開き、人が入ってきた。
「…っ!」
ガチャーーーーーン。
ベッドの上で目を覚ましている俺を見た少女は、息を飲み、手に持っていた花瓶を床に落とした。
割れた花瓶をそのままに、
少女は踵を返し、病室から出ていった。
「お母さ〜〜ん!!!おにぃが…おにぃが…」
廊下で随分と慌てた声が響いている。
「ダメよ。
「う、うん、ごめんなさい」
「で、そんなに慌ててどうしたの?」
「そうだった!大変なの!お母さん!おにぃが…おにぃが目を覚ましたの!」
その報告を聞いた女性は目を見開いて…まだ実感がわかないのが、若干パニックになりながら…
「え?え?…えーーーっ!?ほんと?ど、どうしましょう…そ、そうだわ!先生を、先生を呼ばないと!」
「もうっ!お母さん?病院内では静かにって自分で言ってたのに!」
「あ、そ、そうね。ごめんなさい。でも、落ち着いてなんかいられないわ…お父さんは…」
「お父さんなら、今日はマーケットに行くって言ってたよ」
「もうっ!あの人ったら!こんな大事な時にいないなんて…!」
「お母さんがお父さんにおつかいを頼んだんでしょ!」
「あ、あら、そうだったかしら?…と、とにかく、私は先生を呼んでくるから、
「うん!わかった!」
一体何だったんだ?
随分と騒がしかったけど…
うん…まぁ、気にしてもしかたない…か。
なんだか、また…眠く…なって…きた…な。
すぅ………
それからどれくらい眠っていたのだろうか…
「う…うぅん…」
「あ!お母さん、起きたよ!」
「まーくん!よかった…よかったわぁ…うぅ…」
「真央!父さんだぞ!わかるか?」
ベッドの横で、俺の顔を覗き込む3人の姿が目に入った。
一人は以前、部屋に入るなり花瓶を落として出ていった少女だな。
背は俺よりちょっと低いくらいの黒髪ボブカットだが…どこかで会ったことがあるような…
その他に、俺の顔を見て涙を流しているのはストレートの黒髪のロングヘアを後ろで束ねている女性だ。
それともう一人、俺の手を力強く握るのは短髪で眼鏡をかけている男性だ。
うん。俺はこの人達を知っている…
とても懐かしく感じるが…
「父さん…母さん…それに…明璃…か?」
俺が答えると、3人は
「そうだ!父さんだぞ!」
「まーくん!お母さんよ!わかる?」
「おにぃ〜?何であたしだけ疑問形なのよ?」
一人だけジト目を向けてくるが、みんながとても嬉しそうに笑っていた。
「で、先生!真央の具合は…どうなんでしょうか?」
「えぇ。全く奇跡と呼んで差し支えないかと思います」
「そ、そうですか!よかった…」
「しばらくは検査と予後観察が必要でしょうけど、本来なら筋肉が衰えて、リハビリをしなければならないところなんですが…ご子息にはその兆候が見られません。すぐにでも退院できますよ」
そんな医者の説明を聞く父さん達を見ながら、横にいる妹に尋ねる。
「なぁ…?明璃、それってすごいことなのか?」
「おにぃ…5年も寝たきりだったんだよ?普通なら立つこともできないってお医者さん言ってたよ」
「5年!?」
「事故にあったことは覚えてる?」
「なんとなく…?」
いや…待てよ?俺はその時死んだはずじゃ…
「…痛っ!」
「え?え?おにぃ!大丈夫!?」
「あ、あぁ。ちょっと頭痛がしただけだよ」
「まだ、無理しちゃだめだよ!目が覚めたばっかりなんだから…」
「はいはい。わかったわかった」
「むぅ…はいは一回でしょ!」
「それにしても…5年かぁ…どうりで…」
俺は妹である明璃のことを見ながら感慨にふける。
「何よ?」
俺の視線に気づいたのか、明璃が何か言いたいことでもあるのか?と言うような視線を向けてくる。
「いや…しばらく合わないうちに大きくなったな〜って思ってさ。俺が知ってる明璃は、まだ、こ〜んなちっちゃくて、ランドセル背負ってたからなぁ…」
手のひらを下に向け、腰のあたりで左右に振り、このくらいだったな〜と当時の背の高さを思い出す。
「そんなちっちゃくなかったもん!」
と怒り出す。
「冗談だよ、冗談!そんな怒るなって…」
兄妹の他愛ない日常のやりとりだけど、とても懐かしく、帰ってきたなぁという感じがした。
帰ってきた?
「痛っ!」
全く…何なんだ…一体…
頭の中に霞がかかったような…
思い出そうとすると頭痛がする…
どうしちまったんだ、俺の身体は…
「おにぃ…ほんとに大丈夫?」
「あぁ。大丈夫だって。先生も明日にでも退院できるくらい問題ないって言ってただろ?」
「そっかぁ…それならいいんだけど…」
妹との会話を続けていたら、どうやら両親と先生との話も終わったようだ。
「真央、ちょっといいか?」
「何?父さん」
「先生と話をしたんだが、もう1週間ほど入院させてもらうってことになったんだ。」
「そっか。うん。わかったよ。俺もまだ混乱してるみたいだし…少し落ち着く時間が必要だと思うしね」
「毎日、誰かが来るから、必要な物があったら言いなさい」
「え?いいよ、そんな。父さん達だって仕事あるだろ?俺は自分のことは自分でできるからさ」
「父さん達の今の仕事は…いや、まぁ、いいか。それはまた今度話そう。お前のスマホ、解約しないでおいたから、困ったことがあったら、家族の誰かに連絡しなさい」
「うん。わかったよ」
「じゃあ、父さん達は帰るから、お前は病み上がりなんだし、先生が大丈夫だって言ったとはいえ、ちゃんと休むんだぞ」
「わかったって」
「おにぃ、あたし、また明日来るからね!必要な物考えといて」
「明璃だって、学校あるだろ?そんな気にすんなって」
「明日は学校休みだから、大丈夫だよーだ。それにサキ姉にも、おにぃが起きたって連絡しとかないと!」
ん?サキ姉?
あ〜。幼なじみの
5年も寝たきりだったって言うなら、確かに心配させちゃったかもしれないしな…
「そっか。じゃあ、また明日な!」
「うんっ!」
こうして5年間寝たきりだった俺のことを心配してくれていた家族は病院から帰っていった。
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