第11話 侵攻

『まぁ、もうそなたは、かの世界の魔王ではないのじゃ』

 そうだな…あの世界がどうなろうと、もう俺が気にすることじゃない。

『儂は、そなたを元いた世界へ連れ戻すために待っておったのじゃ』

 連れ戻すって言ったってなぁ…

 200年も経っているんじゃ…戻ったところで知り合いもいないし、まさに浦島太郎じゃないか。

『2年じゃ』

「へ?」

『そなたが異世界に連れ去られてから、地球では2年しか経っておらん』

「え〜っと…もしかして、心が…?」

『まぁ、神じゃしの。』

 あ〜…そうですか…ダダ漏れですか…

「でも、俺の心臓はあの時貫かれて、死んだはずでは…?」

『うむ…本来なら神は下界に干渉することは許されぬ。じゃが、発端が神の不祥事じゃからの…特例として、そなたの身体は儂の力で保護されておるよ』

「そうですか。なら、戻るってのもありかな」

『じゃが、1つ問題があってのぅ…』

「問題…ですか?」

『うむ。そなたの魂じゃが…今のまま、身体に戻すことはできぬのじゃ…』

「それは…どういうことですか?」

『そなたにも心当たりはあると思うのじゃが…そなたの魂はそなた一人のものではないな?』

 あぁ…そういうことか。

 俺の魂は【魂の絆】の効果であっちでの仲間達を全て受け入れているからな…

『そなたの、かの世界での記憶と能力スキルを消せば、元の身体へ戻すことは可能じゃ』

「お断りします!」

 何を言ってるんだ…この神様は…

 俺の一番大切なものを消すだと?あり得ない選択肢だ。

 なら、このまま消えてしまうのもいいかもしれないな…

 あの世界での思い出はろくでもないものばかりだったが、かけがえのない大切な絆を結べたのも事実だ。

 できることなら、みんなの魂と共に、輪廻の輪とやらに還り、いつの日か再び、みんなと会いたいものだ。

『そうか…』

 俺が、このまま消えることを望んだ時、神様は少しだけ悲しそうな顔をした後、俺の意志を尊重すると言ってくれた。


 その時、騒がしく、慌てる声でこの部屋へと入ってくる者がいた。


『か、神様!た、た、た、大変です!』

『なんじゃ、騒々しい!』

『女神ルフィアが地球へと攻めてきました!』

『なんじゃと!?』

『すでに、管理権限の一部をうばわれ書き換えられてしまいました…』

『あの愚か者め…他世界への侵攻など、神の規則ルールの中でも禁忌じゃということを知らぬわけではあるまいに!』

『それで、書き換えられた権限とは、何じゃ?』

『世界にレベル制度が導入されてしまいました…』

『なんということじゃ…レベル制度は管理がしやすくなる分、差別が生まれやすいというのに…』


 神様達の話が否応なしに聞こえてくる…

 あのクソ女神ルフィアが地球へ侵攻だと?

 ヤバいな…顔がニヤけちまう…

 神界に乗り込むよりは手が届きそうだ…

「神様…今の話は…」

『う、うむ。聞こえてしまったか…どうやら、女神ルフィアが儂の地球へと攻めてきたようじゃ…』

「一つ確認したいことがあるんですけど、俺の記憶と能力スキルを消さないと元の身体へ戻れないという話でしたけど、本当に方法はないんですか?」

『う、うむ…いや、待て。もしかしたら、何とかなるかもしれん…賭けになるがの…』

「それは、どういう方法なのか聞いても?」

『うむ。記憶と能力スキルを消すのではなく、一部封印を施した上で、時間をかけて身体に慣らすのじゃ』

『不本意にもレベル制度が導入されてしまったようじゃからの。人の身体に能力スキルを受け入れる余地ができた』

 なるほどな…レベルを上げて肉体を強化できれば、仲間達と結ばれている俺の魂を受け入れる器として条件を満たす可能性がある。ということか。


 どうせ、クソ女神ルフィアの元に辿り着くためにはレベル上げは必須だからな…


『それと、今のそなたの魂に封印を施したといっても、元の身体に慣らすためには数年を必要とするじゃろう。目覚める日が遅くなるという可能性があるぞぃ』

「ははっ…200年も待ったんだ。数年程度は物の数に入らないですよ」

『本来なら、神の不始末は、同じ神である儂らがどうにかせねばならんのじゃが…此度の件で神が下界へと干渉するには、ちと事態が大きすぎるでのぅ…黙示録戦争ハルマゲドンが起きて、世界が滅んでしまうかもしれん…』

 さすがに、それは困る…

『儂らは神界でできることをするとしよう。だから、真央くんや…そなたの力を借りることになるかもしれん…また辛い道を歩ませてしまうことを許してほしい…すまんのぅ』

「気にしないでください。俺が自分で望んで進む道ですから」

『そう言ってもらえると感謝するしかないのぅ…では、やるぞぃ。覚悟はいいかの?』

「はい。お願いします!」


 こうして、俺の魂は地球の日本。

 獅童しどう真央まおの身体へと戻ることになった。

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