第10話 勇者と魔王と世界の理

 ククク…してやったり…だ。

 これで、魔石も魔物素材も、やつらがこの遠征で手に入れたであろうものはすべて消失した。

 最後に、こいつらの悔しそうな顔が見れただけで満足だ。


勇者の一撃ブレイブスラッシュ!」

 勇者の渾身の一振りが俺の身体を貫いた。


(あぁ…身体から魂が抜ける感覚はほんとうに久しぶりだ…)


 過去に何度も味わった、この感覚…

【不老不滅】の効果で、見えない鎖のようなもので肉体と魂が結ばれている。


“不老不滅の効果が発動します”


“ERROR”


 ふっ…これでようやく解放される…

 少しの安堵と1つの心残り。

 自分の亡骸はどうなるのか?

 あの強欲なやつらに利用されるのは嫌だな…と見下ろす先で…

 俺の身体だった物は光の粒子となって勇者に吸収されていった…


 なるほど…【勇者の贄】の効果か…



 そして、解放された俺の魂は真っ暗な何もない空間へと辿り着く。


(ここは!!)


 200年前に連れてこられた、見覚えのある空間に俺の意識が引き締まる。


(そうか…神界へと至る道は死ぬことか…なら、俺には辿り着けなかったわけだ…)


(ここに…ルフィアがいるのか…?)


 集中しろ!

 魔王としての力は勇者に奪われたが、今の俺には999体の仲間たちが力を貸してくれるはずだ!

 魔力を溜めろ!

 神を滅ぼす一撃を!

 今日のこの日のために作り上げた究極の魔法を!


「そこかっ!神滅の炎ジャッジメントフレイム!」


 俺の手から放たれた黄金の炎が、暗闇を切り裂く。


『のわっ…!』

「ちっ…はずしたか…」

『待て!待つのじゃ!』

 姿を現したのは、爺さんだった。

 そして、その爺さんが現れると同時に暗闇の空間は殺風景な真っ白い部屋へと変わっていた。

「なんだ?クソ女神ルフィアじゃ…ない?」

 あの、ギラギラとした悪趣味な神殿じゃなく、どことなく落ち着いた感じのする真っ白い部屋へと変わったことで、殺気立っていた俺の意識も少しだけ落ち着いてきた。

『儂の話を聞いてもらえるかのぅ?』

「…」

 まだこいつが誰なのかはわからないが、少なくとも敵対する意識はなさそうだ。

 俺は無言で頷いた。


『まずは、そなたに謝罪を…すまんかった』

「いや、いきなり謝られても…そもそも、あなたは誰なんですか?」

『儂は地球の神じゃ』

「は?」

『そなたがかつて生きていた世界の神といえばわかるかのぅ?』

「いや、地球はわかりますよ。でも神様から謝られる理由がわからないんですが…」

『ふむ…どこから話せばいいのか…』


 そこから神様が語ったのは200年前のあの日のことだった。


『そなたの魂が異世界の女神に連れ去られたことに気づいて助けに向かったのじゃが…一歩遅くてのぅ…そなたの魂は異世界に落とされてしもうた』

 神は下界へと干渉してはいけないという規則ルールがあるらしい。

 じゃあ、あの女神ルフィアは?ということになるのだが、神の規則ルールを破った罰として、上位神より権能の一時封印などの処罰を受けているそうだ。

 かの世界で女神ルフィアの力を感じなかったのはそういうことか。

『なので、そなたが、かの世界での人生を終え、魂が輪廻の輪へと還る瞬間を待っておったのじゃ。どうやら杞憂だったようじゃがの…』

(なんだ?何か引っかかるような言い方だったが…)

『まさか、輪廻の輪へと組み込んでもおらんかったとはのぅ』

 はっ!あのクソ女神…文字通り俺の魂を放り込んだだけだったってことかよ…

【世界の敵】なんて称号が付くわけだ。そもそも、俺自身が世界にとっての異物だったってことだからなぁ…

 神様の話を聞いて、クソ女神ルフィアに対しての怒りがさらに増す結果になるとはな…


 それにしても、地球の神様は200年も俺のことを気にかけてくれていたってことか…感謝しかないな。

「ありがとうございます」

 素直な気持ちで感謝の言葉を述べたのは何年ぶりだろう…

『いやいや、そもそもが儂ら神の一柱の不祥事じゃ。そなたには辛い人生を歩ませてしもうた…』

『それにの、かの世界でたった200年ほどで勇者が生まれるとは思っていなかったからの。想定外じゃ。』

「それは、どういうことですか?」

『勇者が生まれるには、いくつかの条件があるんじゃ』

 その1つが魔王の存在だ。

『世界に魔王が生まれた場合、対となる勇者が生まれる。それがあの女神がそなたを連れ去った理由じゃな』

 全く…そんなくだらない理由で《殺された》》んだ…あの女神は絶対に許さん…!

『そなたのいた日本という国にも、かつておったはずじゃが…』

 え?何だその話は?知らないぞ…

『あやつは…たしか第六天魔王とか言われておったのぅ…』

 おぉぅ…まさかの織田信長か…

『それを討つために、近しい者が勇者に選ばれたんじゃったかの』

 んで、明智光秀は勇者に選ばれた…と。

 そっかぁ…本能寺の変って勇者と魔王の戦いだったのか…

 世の歴史学者が聞けば、ひっくり返るぞ…

「でも、俺は魔王として200年生きてきましたが、勇者はすぐには生まれなかったようですけど…」

『それが、かの世界が異常だった点じゃ』

 たとえ世界に魔王がいたとしても、世界に勇者が生まれるための素養がなければ、勇者は生まれないのだという。

 必要な素養とは勇気、愛、友情、正義等だ。

 他人を慈しみ思いやる心。

 あの世界にはそれがほとんど存在しないのだという…

 笑っちまうよな。

 そういや、最期に会った勇者パーティーも欲望に塗れた連中だったしなぁ…

 そういや、クソ女神は勇者のいる世界はワンランク上のカテゴリーとか言ってたけど、勇者の生まれる素養のない世界がワンランク下なだけじゃねぇか…

「あれ?でも、そんな世界なら、逆に魔王がたくさん生まれてしまうんじゃ…」

『魔王というのは、世界の中で欲望が突出した者が変異して生まれるのが普通なのじゃが…』

 あぁ…そういうことか。

 要するに全人類の欲望が強すぎて、を持った者がいないってわけね…

 クソ女神が言ってた、なぜか魔王が生まれないってのにそんな理由があったとはなぁ…

 ってか、あいつ《クソ女神》、勇者の生まれる条件も、魔王が生まれる条件も知らないってことか?ほんとに創造主で、世界の管理神なのか?って疑惑すら浮かんでくるんだが…

 まぁ、あれクソ女神だからって言われれば納得できちまうなぁ




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