第9話 魂の絆
瓦礫に埋もれていたジークの身体が本来の姿へと変わる。
黄金の鱗をもつ巨大な竜王が、翼をはためかせ、宙に浮いた。
この大広間なら、彼が本来の姿で暴れても、狭くはないだろう。
「いいね、いいねぇ〜。さぁ2回戦といこうか!」
舌舐めずりをした騎士が獰猛な瞳で竜を見上げていた。
「ワオォォォォーーーーン」
突如して響き渡る獣の咆哮。
リーナも本来の姿を解き放っていた。
美しかった蒼銀の毛は全身を覆い、人間など一飲みできそうな大きな口と雄々しい尻尾を備えた神々しい狼が4つの足で立ち上がった。
「あらあら、まぁ!素適な毛並じゃない〜。ちょうど毛皮のコートが欲しかったのよぉ〜」
「我が君が見ている前で、いつまでも這いつくばっているわけにはいきません…ね!」
重力の枷を霧散させた
彼はあらゆる魔術を使いこなすのだ。その権能を発揮すれば、あらゆる魔力を霧散させることも可能である。
「ほほぅ。魔術を消す…か。なかなか面白いことをするのぅ。研究のしがいがありそうじゃ。ますはその頭を切り開いて中身を調べることから始めるとするかのぅ!」
「ミラ姉…」
アルスがボソッっと呟く。
「絶対に許さない!」
小柄な少女の姿だったアルスが数メートルの巨大なスライムの姿へと変わった!
「っ!」
対峙していた勇者も息を呑む。
「勇者様!」
女神官が勇者の下へと駆けつけてきて、俺達は2対2の構図で立ち向かう。
だが…
俺達の反撃はここまでだった…
「ちっ…なんだよ…強えのは威勢だけか…」
吐き捨てるように言った騎士の視線の先で、黄金の竜王は翼を斬られて地に落ちていた。
「ふん♪ふん♪ふ〜ん♪」
横たわるリーナの上に座る女
リーナの瞳からは生命の光が消えていた…
「全く…魔術を消すとは厄介じゃのぅ…」
魔道士の爺と対峙するルーファスにも攻撃手段がなく、2人の状況は膠着していた。
だが、次の瞬間、ルーファスの胸から剣が生えた。
「爺さん、手こずってるようだなぁ」
「遊んでおっただけじゃわい。そう言うお前さんの方は終わったのかの?」
「ん?…あぁ、ほれ」
騎士が指さした先にあったのは、首を斬り落とされた竜王の亡骸だった。
「いいかげんに、そこを通してくれないか?」
女神官の
「絶対に通すもんか…魔王様はボクが守るんだ…」
アルスの意思は挫けない。
「なら、仕方ない…か」
覚悟を決めた勇者もとどめを刺すために剣を上段に構える。
「ハァッ!
振り下ろされた剣から放たれる、魔力を纏った剣圧がアルスの身体を両断した。
「ボクは…また…守れな…かった…ごめ…ん…なさ…い」
その言葉を最期に、アルスの身体は魔石を残して消滅した。
地面に落ちた魔石を爺が拾い上げる。
「ほぅほぅほぅ!綺麗な魔石じゃぁ!さすがは希少種は違うのぅ。この遠征で希少な素材が大量に取れたわい」
「おい、爺さん!魔石はやるが、あの竜の肉は俺がもらうぞ!竜の肉は美味いからなぁ!それにこれだけの城だ、きっといい酒もあるに違ぇねえ!」
「あの毛皮は私のよ!あと!宝物庫があったら私がもらってくからね!」
「この征伐が成功すれば…私は女神様からお褒めの言葉を賜われるはずよ!そうしたら、司祭…いえ、勇者を支えた聖女として語り継がれるかもしれないわ!」
勇者の仲間たちが、もう仕事は終わったとばかりに自身の欲望を垂流しながら集まってくる。
全く…どいつも、こいつも…
欲の皮の突っ張ったやつらばかりか。
肉だの毛皮だのと…俺の仲間を何だと思っていやがる…
まずは爺!
「その薄汚い手を離しやがれ!」
「なんじゃあ?まさか貴様、魔物の分際でこの魔石が欲しいのかぇ?」
訝しげな目を俺に向けながら、
「バカめ!これは儂のじゃ!誰にもやらんわ!」
こいつらには何を言っても無駄だということはわかっている。
貴様らに俺の大切な仲間の髪の毛1本、血の1滴もくれてやるものか!
この戦闘が始まってから、ずっと考えていたことがある。
獲得の条件は1000以上の魂の願いが集うこと。
あの時、俺の配下の
つまり、あいつらの魂は、まだこの世界に残っているのではないか?と俺は考えている。
強欲なやつらのことだ。ここに来るまでに倒した俺の仲間たちの魔石は回収しているに違いない…
この世界には
そして、この世界の魔物と俺の生み出した
俺の生み出した
ならば、俺のやるべきことは1つだ!
「
そう宣言した瞬間に、自分と仲間達の魂の繋がりが強く感じられるようになった。
「
ピキッ…パリィィーーン!!
最も近くにあった、爺の持っていたアルスの魔石が砕け散った。
パリンッ!パリンッ!パリンッ!パリィィーーン!
次いで、ミラ、ルーファス、リーナ、ジークの体内にあった魔石も砕ける音が響く。
そして、彼らの亡骸は光の粒子となって消失し、彼らの全てが俺の中へと流れ込んできた。
「なんじゃあ?儂の魔石が…」
爺はあわてて
「ない!ないぞ!儂が集めた魔石が…みんな、なくなってしもうた…」
「私の毛皮のコートが…」
「竜の肉が消えた?なんだ?てめぇ!一体何をしやがった!」
俺は不敵に笑い…
「貴様らに教えてやる義理はない」
さぁ、
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