第8話 最初の犠牲

「いくぞ、みんな!!」

 勇者のかけ声と共に戦闘が始まる。


“魔王の運命さだめが発動します”


 身体全体を強烈な倦怠感が襲う。

 これが、常時パッシブスキルの無効化とステータス低減か…

 そして、その効果はこの部屋全体に影響を及ぼしているようだ。

 周りを見ると、皆の動きも精彩を欠いている。

 まぁ、それも仕方がないだろう。

【女神の制約】の効果で、俺達は人に危害を加えられない。それが直接的な攻撃だろうと、間接的な攻撃だろうと、結果的に人に危害が及ぶ場合は身体が硬直して動けなくなるのだ。

 なので、必然的に防戦一方となってしまう。今、みんなが耐えて粘っているのは、1分1秒でも長く、俺の最期を引き延ばそうとしているに過ぎないからだ。


 アルスは俺を守るように俺の前に立ち、勇者を睨んでいる。

 勇者もアルスのような見た目は小さな女の子に攻撃をするのを躊躇っているのか、動く気配はない。


 今が好機だとばかりに、自分の状態を確認する。

「ステータス」

【名前】シドー

【種族】魔王

【LV】999

【HP】785/785(15345)

【SP】670/670(65500)

【力】125(3980)

【知恵】100(9999)

【体力】120(3450)

【精神】90(6700)

【速さ】110(4260)

【運】50(99)

【アクティブスキル】

 魔物作成モンスタークリエイトLV10(MAX)、

 武神LV10(MAX)、

 気配察知LV10(MAX)、絶隠密LV10(MAX)、未来予知LV10(MAX)、

 縮地LV10(MAX)、空歩LV10(MAX)

 魔神LV10(MAX)、

 魔力操作LV10(MAX)、魔力感知LV10(MAX)、無詠唱、思考超加速LV10(MAX)、並列思考LV10(MAX)、

 邪眼LV10(MAX)、鑑定LV10(MAX)

常時パッシブスキル】(無効)

 不老不滅、身体能力超強化LV10(MAX)、超再生LV10(MAX)、回復量増加LV10(MAX)、魔力超回復LV10(MAX)、魔力回復量増加LV10(MAX)、

 物理無効、魔法無効、精神攻撃無効、全状態異常無効

EXエクストラスキル】

 女神の制約、魔王の運命さだめ、魂の絆

【称号】

 転生者、世界を超えし者、勇者の贄、世界の敵、逃亡者、殲滅者、ダンジョン踏破者、竜殺しドラゴンスレイヤー、武神、魔神、絶対防御、魔物創造主、統率者、魔物コレクター、知識を求めし者、全てを超えし者


「ここまで下がるのか…勇者が弱いのか…女神に与えられたEXスキル呪いが強すぎるのか…」

 EXスキル呪いが自身に与える効果を確認しているうちに、戦況が動いた。


 ズガーーン!!!

 今、壁際へ吹き飛ばされたのは、ジークか?

「おいおい…どうした?どうした?もっと俺を楽しませてくれよ!」

 剣を肩に担ぎ、物足りないと言わんばかりに不満を述べている。

 瓦礫に埋まったジークはピクリとも動かない。


「やぁ〜ねぇ…これだから戦闘狂は…」

 呆れた物言いの女盗賊シーフの足元に、両腕と両足を短剣で貫かれたリーナが倒れている。

 憎々しげに女を見上げる双眸はまだ諦めるものかという意思を感じる。

「あらあら…そんな目で見つめられると私ゾクゾクしちゃうわ〜」

 女盗賊シーフは恍惚な表情を浮かべている。


「やれやれ。若い者は五月蝿いのぅ…」

 どこからか取り出した椅子に腰を掛け、一息ついている爺の前で、ルーファスは床を舐めていた。

「ほっほっほ。儂の重力魔法の中でまだ動けるのかぇ。えぇのう、えぇのぅ」

 爺が嬉しそうに笑う。

「儂はそなたらを傷つけたくはないんじゃ…大切な素材じゃからの。できれば自ら魔石を取り出して渡してくれると助かるんじゃがのぅ」

 魔物モンスターは身体から魔石を取り出せば死ぬ。

 この爺は何を言っているのだろうか、心底理解できなかった。


「もうっ!皆さんいい加減にしてください!女神様はお怒りですよ!」

 神官服に身をつつんだ女性が、仲間に苦言を呈する。

 その近くでは聖属性魔法の炎に焼かれ続けるミラの姿が…

「おや?まだ粘りますか…さすがは魔王の側近ということですかね」

 すでに興味をなくしたのか、相手を一瞥し、女神の素晴らしさを説きはじめる。

「貴女のような不浄の者でも、心から救いを求めれば、女神様の御下へと召されるかもしれませんのに…」

「だ…誰が、あんな…クソ女神に…救いを…求める…ものですか…」

 声も途切れ途切れに反論した瞬間、女神官の様子が一変する。


 ピキリ


 棘の付いた、見るからに凶悪なメイスを取り出して、炎の中のミラへ近づく、女神官…


「お前が…」ドゴンッ!

「お前が…お前が…お前のような者がぁ!」ドゴンッ!ドガンッ!ズガァン!

「女神っ…」ドガンッ!

「様をっ…」バキン!

「侮辱…」ズガン!

「するなどぉ…」グチャァン!

「ゆる…許され…ざるっ…罪です…わ」ドガンッ!バガン!グシャン!バッキーン!

「万…死に…」ズゴンッ!ドゴンッ!

「値します!」ズッガァァァン!


「ふぅ〜ふぅ〜ふぅ〜…」

「そのくらいにしておかんか。全く女神様のこととなると見境なくしおって…せっかくの素材が使いもんにならんではないか…」


 その惨劇の後に残されたのは、

 可憐な容姿など見る影もなく、グチャグチャに潰された肉塊と成り果てた、ミラの姿だった。


「ミラァァァァァァァァァァ!!!!」


 俺達の中から最初の犠牲者が出てしまった。

 勇者達と戦えば、みんな生命を落とすということはわかっていたし、覚悟もしていたつもりだったが…

 やはり、目の前で大切な仲間が殺される光景は辛いなぁ…

 俺の慟哭は皆へと伝わる…

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