悩める探偵の事件簿

悩める探偵の事件簿

「犯人はあなたです。」

「…⁉」


「お待たせしました。詳しいことは現場までの車の中で。」

 彼は桐生さん。捜査一課の刑事さんだ。私はふとした事が切っ掛けで、度々事件解決のお手伝いをしている、探偵ってやつだ。

 二人で後部座席に乗り込み、運転手が車を発進させた。


 事件のあらましは大体聞いた。頭の中で、事件のシナリオを組み立てていく。そして同時に、今ある悩みについても思いを巡らせる。

 私には探偵以外にも仕事がある。今はやりの二刀流というやつだ。しかしその二刀流も、最近行き詰っているのだ。

 どちらかを辞めなければならないかもしれない…

 現場に着くと、桐生さんの後に付いて行こうとした私に、運転手さんが話しかけてきた。

「あの、こんな時に何なんですが、あ、後でサインを…」

 そして一冊の本を申し訳なさそうに取り出す。

 私の書いたミステリー小説だ。私はミステリー作家でもある。まぁ、こちらは趣味だ。初めて書いた小説が、たまたま大きな新人賞を取り、当時まだ学生だったこともあって、話題性から売れっ子作家の仲間入りを果たし、現在へと至るワケだ。

 私はその場でサインをした。

 えっと、どこまで話しただろう?

 そうだ。片や一からシナリオを組み立てていき、片や逆に出来上がったシナリオを一つ一つ読み解いていく。

 これまでは上手くいっていた。

 アリバイを考え、トリックを考え、時には完全犯罪なんかも考え、それらを活かして、推理を行い、事件を解決。

 しかし最近は、所々にほころびを感じるのだ。今回もそうだ。綻びを感じながらも、いつものように私は指をさし、こう断じる。

「犯人はあなたです。」

「…⁉」

 ちょっと強引な推理だったろうか?しかし辻褄はあっている。証拠も彼が犯人だと示している。

「ち、違う。俺じゃない…」

 彼も私の推理に精一杯抵抗を見せる。

 しかし抵抗するのは彼だけだ。他の誰もが私の推理が正しいと信じて疑わない。

 これまでの努力が、信用という形で実を結んでいるのだ。多少の綻びで私の組み立てたシナリオが崩れることはない。

 杞憂だったのだろうか…

 ――

 …上手くやっていけるかもしれない。

 私の心が、少しずつ晴れていくのがわかった。

 自然と私の顔に笑みが浮かぶ。

 やっていけるかもしれない。探偵も、…


 …人殺しも。


「俺じゃないーっ‼」

 私はもう一度ニンマリと笑みを浮かべた。

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