第2話 ループ
「もう少しで魔王城に着くな。気を引き締めていくぞ」
もう何度目だろうか。俺たちは魔王城に向かっている。足場の悪い道、どこからともなく現れる魔物、そして食料問題にも対応しながら。
勇者ライモン、魔法使いクリスティーナ、格闘家レクノール、そして女兵士のヴィーノ。
「ええ、国で待つ皆様のためにも早く魔王を倒しましょう」
そういうのは女兵士ヴィーノ。俺の知らないはずの人間だ。知らないはず、なのだ。
国王直属の兵士、ヴィーノ。こいつは国の兵士をまとめる副隊長。国を守る正義感から俺たちのパーティーに加わった。なにより彼女は冷静で戦闘を客観的に見る目がある。ひとり突っ走るクリスティーナに俺たちが攻撃を合わせやすいように魔物の動きを制限したり攻撃のテンポをひとつ遅らせて相手を翻弄するテクニックも有する。
ヘーゲルには出来ない芸当ばかりだ。
「……。」
でも俺はそんなことを知らない。俺の知らない記憶が俺の頭の中でいきている。そしてこのループではヘーゲルはいなかった。死んだわけではない。道中の村であいつに出会った。
「は? 誰だお前」ヘーゲルは言った。
ヘーゲルは剣士として生きてはいる。だが俺の知る剣士ではなくなっていた。ただ村を守るので精一杯でとても俺たちパーティーについてくる気はなかった。むしろ早く魔王を倒せとわがままを言ってきた。
俺の知らない世界だ。
でもこれは初めてではない。気まぐれにもループするごとに変わるのだ。
「ふざけるなよ」
怒りが、、、立ち込めてくる。
それから俺は何度も魔王を倒した。何度も仲間が死ぬ様を見た。何度もパレードを見て、また夢から覚めたように魔王が生きている。
もう嫌だ。俺はなんとかループから脱出できないかと模索した。旅の途中間を作っては至るところの泉へとおもむき女神に手を祈りそれを願う。また神殿やダンジョンにこの状況を打破するものがないか探索した。
「魔王を倒すためのアイテムがあるかもしれない」
そう仲間にいうと納得していた。実際遠回りで立ち寄った村に腕利きの鍛冶屋がいてヘーゲルたちの武器を強化した日もあった。でも、それでも肝心の手がかりとやらは見つからなかった。
「反転術式青の目覚め!」
「「合体技!!!剣拳乱舞!!竜の舞!!」」
「「「いまだライモン!」」」
仲間たちの手を借りて何度も魔王を倒す。
「神技抜刀!一閃!」
何度も紫色の雨の血を被った。
何度も、何度も。
コックのモカ。兵士のジェロニモ。銃の使いロックス、半魔人アーベル。
そのたびに流れてくる知らない記憶。知らないメンバー。
誰が俺たちをループさせている? なんのために。一体誰が得をするというんだ。
誰に話してもループについて信じる者はいない。俺だけが知り俺だけが皆とは違う世界にいる。一番つらいのはメンバーの知らない態度だ。あんなに命を懸けて共に戦っても次のループにはけろりと忘れてただの農民になっていたものもいる。その時感じる虚無は何より辛いものだ。
「魔王なんてほっとけ。俺たちの寿命はそんな長くはない。確かに次の世代は困るだろうが俺には知ったこっちゃないな」
信念を持って戦っていたレクノールが飲んだくれになっていた時は確か殴ってやった。その時に俺の知るあいつは死んだのだと悟った。
誰もループを知らない。それがあまりに辛い。
せめて誰でもいいから俺を知っている奴はいないのだろうか。確かにそう思うが。
「また来たな勇者! 今度は誰を連れて来たんだ?」
そう高らかに笑う魔王。
だれでもいいからと思ったが、お前であっていいはずがない。
「いい加減死んでくれ。お前の顔はもう見飽きた」
「私はそうは思わないな。いつも新しい攻撃にワクワクするぞ。さあやろうぞ! 命を懸けたバトルを!」
誰も知らないはずのループを知っているものが、ただ二人を除いて存在した。
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