第6話 永遠の結末


 星には願いを叶える力がある。そうでなければこの状況を説明できない。そして私はこれからその運命を蹴破らなくてはならない。


 目の前には中村君がいる。


 不自然に四人が消えればさすがの中村君も察しがついただろう。「あーあ、本当にいっちゃったよ」とぼやきながら中村君は気まずそうに目を泳がせた。お膳立てされている。二人いい雰囲気になれよ、的な皆の計らいを少なくともわかってしまう。


 だから緊張していた。私だけじゃなくて中村君も。


 少しの静寂がくる。そのあときっとすぐに中村君は私になにかしら声をかけるだろう。そろそろ行こう、とか。あいつら冗談もほどほどにしろよ、とか。場を和ます言葉を言うに違いない。


 でも私は待てなかった。待ちたくなかった。それを言われたら一歩引かれる。そんな予感がしたからだ。


 「好きです」だから私はその言葉を言った。


 波打つ鼓動が大きく響くのを感じる。中村君は右から左に言葉が流れたように理解してないようで「え、」と呟いてきょとんとした顔をした。


 「中村君。好きです」


 もう一度繰り返してやった。さすがの中村君も理解したようで顔を赤らめた。もしかしたら私の顔も赤かったかもしれない。


 中村君は少し戸惑いを見せ悩む素振りを見せるが頭の整理が出来ないようで「とりあえず歩こうか」と私を先導した。「舞の家こっち?」指をさす手がどこかおぼつかない。


 そして私は中村君と肩を並べて歩いていた。てっきりすぐに返事をもらえると思っていたのでこの返事を待つ時間が不安を掻き立てる。


 すぐに告白をしたのは失敗だったのかもしれない。気まずい空気が流れている。ある程度会話はしているものの、その内容はちぐはぐそのものだった。


 「舞って彼氏いる?」


 何を血迷ったのかそういう質問も来た。そしてすぐに自分の失言を恥じて黙り込む。


 私は幸せだった。ただ教室の端から見てるだけじゃない、こうして隣にいる。それだけで私の心は満たされる。だけど私はもう永遠を祈るわけにはいかない。彼との楽しい時間だけを望むことは裏を返せばこれ以上近づくことのない遠い存在になるからだ。


 もう私は見てるだけの臆病者で在りたくない。


 「中村君。私と付き合ってください」


 進む勇気を。そしてその言葉を聞いてようやく中村君と目があう。ひとつ間をおき、中村君は出そうとした言葉をおもいとどまった。そしてそれを唾といっしょに飲みこんだ。彼もまた勇気を持とうとしているのが分かった。


 一呼吸落ち着かせて、中村君は口を開いた。


 「こちらこそ!お願いします!」


 勇気を込めたその声があたりに響いた。


―――――その刹那、世界が変わった音がした。


 そう感じただけに過ぎないがそうでなければ今視界に映る全てが美しく見えたのに説明が出来ない。その声を聞いて私の中から電撃が外に溢れるように流れたのにも説明がつかない。


 今この瞬間、照らす夕日が今私達だけを当てている。


 はっと我に返り、私はとっさに顔を手で隠した。赤らめた顔が恥ずかしかったからでない。今までの溜めていた不安が行き場を失ったからである。あまりにも嬉しい感情が溢れてくる。


 「なんかごめんな、お願いしますなんて。どこぞのお見合いみたいな言い方しちゃったよ」


 その言葉をきっかけに二人に流れていた緊張がほどけ気まずさが消えていた。


 そして二人に自然と笑顔が溢れ、声を出して笑いあっていた。

 

 ねえ愛美、私とうとう告白したよ。おっけーもらえたよ。と、私は心の中で死ぬほど感謝する。


 そして笑いあいながら私たちは夕日の中を歩いた。


 途中、よくある定番の話で盛り上がったりした。まずどこが好きになったのかなんて聞かれ、俺も可愛いと思ってたなんて返してくれる。


 「誠って呼んでよ。俺も舞って呼んでるし」


 そう約束する。家に着くとさすがに今家族とあうのは気まずいと感じた誠と私は連絡先を交換してまたねと帰った。


 ありえないことだ。落ち着いた私はそう思う。中村…じゃない誠にとってちゃんと話したのは今日という1日だけなのに。付き合えてしまった。


 不思議と愛美から連絡は来なかった。てっきりどうなったかとしきりに言ってくるものだと思っていたが、もしかしたら今日はずっと二人になれるように遠慮してくれているのかもしれない。


 スマホを見れば私の好きな人の名前が載っている。それが嬉しくて私は今日の余韻に浸っていた。


 明日は来るだろうか。なぜだがそんな不安は持たなかった。


 私は確信していたのだ。もはやあの時、星に願った今日みたいな平凡な日は存在しない。私はきっと今日を乗り越え明日に行くのだ、と。


 少女はあふれる気持ちをなんとか押さえつけベットに横たわった。



 ――――――そして――――――



 ———7月3日。


 その日付を確認した少女はスマホを胸に抱え泣き笑った。


 とうとう、あのループを私は突破したのだ。


 永遠は確かに魅力的だった。でもいつまで変わらないのは苦痛でしかない。同じ世界にいるのに自分だけが独りぼっちみたいで仕方がなかった。永遠は望むその時間だけが特別なのだ。手にするべきものでは無い。少なくとも私はそう思う。

 

 少女は衝動に駆られるように友人に電話をした。


 「やったよ! やっと私今日を乗り越えたんだよ!」


 少女の溢れんばかりの感情が部屋に響き渡った。


 それから少女は今日という日を過去に変え、近き日にある遠足を楽しみに未来へ歩き続けるだろう。


 眩しいばかりの朝日が少女の部屋を照らし続けた。



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