第5話 また一歩


 「ボーダー柄のTシャツにジーパン。本当にそのまんまの恰好だな。信じるって決めたけどやっぱりどうにも納得できないわ」


 奈々には直接お店に来てもらい合流した。そしてその恰好をまじまじと見た愛美がぼやく。それに対して奈々は自分の服装に文句あるのかと唸っている。


 「いや別に。こっちの話」


 「なんだよー。気になるなー」


 愛美にはさらにループを信じさせる要素として奈々の服装を教えておいた。


 「この服、GUの服でーす」


 愛美が私を見る。いやさすがにそこまでは知らなかったよ。


 「で、とりあえず本題なんだけど」


 私は奈々にも協力してもらうために中村君に告白することを伝えた。ループの事はややこしくなるから伏せておく。


 「まじ! 舞、中村のこと好きなん! どんなとこが?いつから?」

 「もっと前から言ってくれたらよかったのに。愛美は知ってたの?」

 「初恋かー。いいね初恋。私の初は小学校で終わっちゃったからな。速攻振られたし」


 馬鹿でかい声で反応を示してくれる。と、このフードコートにはそろそろ中村君たちが昼食を取りに来るので、私たちは隠れるように場所を移動する。


 「で、詳しい話は分かんないけど、荷物を持って帰るのが中村君になるから、そこで二人きりで帰るために手伝って欲しいと。そういうわけね、未来予知さん」


 理解が早くて助かるよ愛美。


 「未来予知って?」


 ごめん奈々、今度詳しく話すから。


 「あ、舞の言う通り連絡来た」


 愛美のスマホに男子達からフードコートにいるという連絡が入る。よし、ここからが本番だ。


 「行くよ。舞」


 ここから……勝負。そう思うとふいに不安がこみ上げてくる。


 「そんなに心配いらないよ。絶対成功するって。あいつの幼馴染の私が言うんだから間違いない、あいつはおっけーするよ」


 愛美に勇気をもらい私たちは中村君たちと合流する。


 「ポニテだ。私服だと雰囲気めっちゃ変わるな」


 中村君を前にして私はどのループよりも緊張していた。


 「次は焼きそばね」


 「おっきいの買ってたくさん作ろうぜ」


 何度も繰り返した日のはずなのに胸の鼓動が止まらない。


 「なあ、舞。お前も食うよなアイス」


 「あ、もちろん。わ、わたしはバニラにするの。あの、あれ爽みたいな。バニラが一番おいしいもんね。だってカップだもん」


 告白するんだ。そう考えれば考えるほど言葉がうまく紡がれなくなり焦れば焦るほどボロが出てきてしまう。


 「なにやってんの」


 愛美がしっかりしろと睨む。自分でも驚きだ。ループのおかげで中村君が言う言葉は理解しているはずなのに。一歩前に進むのはこんなにも不安になるものなのか、すぐに頭の中が真っ白になってしまう。このあと告白するんだということが頭の中に埋め尽くしてぎこちなくなる。


 そしてあっという間に時間は過ぎる。公園で皆でアイスを食べる時間。


 「遠足楽しみだな」中村君が笑っている。


 その笑顔のためにも。いや、私自身が遠足に行きたい。中村君と遠足に行く。絶対に。


 「じゃあ荷物なんだけど。ここはレディーファーストってことで男だけでじゃんけんして負けた人が持って帰ろう」


 話が進む。私はすかさず一歩前に出た。


 「私もそのじゃんけんする」


 「え、なんで?」


 「私、家が近いからすぐに持って帰れるから。肉とかすぐ冷凍庫に入れないといけないでしょ」


 やる。と言われてわざわざ断る選択肢を取らないだろう。中村君たちとわたしを含めて四人でじゃんけんをすることに決まった。そして。


 「あー、まけちゃった」


 私は悔しそうな、ふりをする。


 「本当に荷物大丈夫?」と中村君が心配そうにする。


 皆がだす手はわかっていたから私はわざと負けた。そして愛美と奈々にここからサポートしてもらう。「なら家まで運ぶの手伝ってあげたら」と野次を飛ばしてもらうのだ。そうすればきっとふたりきりになれ――――。


 「———おいおい、誠。お前家まで手伝ってやれよ」


 愛美が言う前に健一が言っていた。準備していたものを横取りされた愛美は戸惑っている。


 「そうだ、女の子にそんな重いもん持たすなんてサイテーだな」拓哉も。


 「でもじゃんけんで――」


 「あー、女々しいぞー、誠くん」

 「そこは持つっていうところだろ誠くーん」


 「なんだそのノリは。別にかまわないけどさ」


 中村君は不貞腐れたようにため息をついた。


 「わかった。俺が舞の家まで荷物運ぶよ。家近いんだろ?」


 不機嫌にするつもりはなかったのでちょっと困った。でも二人きりになれるチャンスだ。


 「お願いします!」


 この後告白するんだ。そう頭によぎり声が裏返ってしまった。


 「別にいいよ。女子に重たいの持たせる方がなんか気にかかるし」


 私の変な声を気にせず中村君はひょいと荷物を持ち上げた。



 そしてその少女の後ろ。愛美が健一と拓哉に耳打ちしていた。


 「あのさ。この後なんだけど」


 「あー、いい。わかってる」


 愛美がいう前に拓哉は手をひらひらさせた。


 「小林さん、誠のことすきなんだろ」


 「え、知ってたの?」


 「知ってたっていうか、態度見ればわかるだろ」


 「それ。あいつ俺たちが喋りかけてるとき普通なのに誠に対しておどおどしすぎだろ。あんなの誰にだってわかるわ」


 愛美と奈々は二人でまじかよと顔を合わせる。


 「もしかして誠も察してるかな」


 「どうだろ。あいつもあいつでちょっと緊張するって言ってたしわかんね」


 「まじ。それ俺聞いてない」


 「トイレ行っている時。髪型変えるだけでめっちゃ可愛くなるなとか言ってたし」


 二人ともなんとなく事情は察していたようだ。


 「これから二人きりにさせて邪魔するなってことだろ」

 「告白でもするんだろ」

 

 「いや物分かり良すぎて逆に怖いわ」


 でも助かる。舞は頭抜けているところあったからこの後健一や拓哉がついてきたらなんて考えはしていなかっただろう。まったく世話の焼けるやつだ。


 「おい、もう解散するぞ」と拓哉。


 「俺たちも先帰るから、小林さんをちゃんと家まで送れよ」と健一。


 「舞、私達も用事あるから帰るね」と愛美。


 「そう、私も用事あるから」と奈々。


 待って、という中村を放って置き、四人は公園をでる。その帰り道で謎の達成感を四人は味わっていた。


 「愛美、用事ってなんだよ。誤魔化し方下手じゃん」


 「知らないわよ。だって他になんて言うか考えてなかったんだもん。それより奈々、私の後に連続で用事って言ったらもっと変に聞こえるじゃない」


 「え、そうかな。私は本当にこの後塾あるから帰らないといけなかったから」


 「本当に用事あるんかい」


 この後ふたりがどうなるか知らない。でもきっとうまくいくはずだ。少なくともいつもより幸せな日なんてだけじゃ終わらない、きっと特別な日になってループを超えられるはずだ。


 「ま、私にはそのループってやつも半信半疑だけど」


 なにかいった?と言われて愛美は首を横に振った。


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