第3話 今日の繰り返し

 

 夜空に光る星には願いを叶える力がある、そうでないと今置かれた状況に説明がつかない。少女はスマホに映った7月2日の日付をカレンダーを確認してそう確信した。


 また今日が来た。


 ピンポーン。と鳴ると同時にドアを開く。そこには愛美と奈々の二人が立っている。


 「はや! 押したばっかよ。どんだけ楽しみにしてたのよ」


 「私いつも早めの準備を心がけてるの」


 「またまた~。どうせあいつのことが頭一杯でいてもたってもいられなかったんでしょ」


 「え! 舞好きな人いるの! だれ!だれ!」


 やはり少し違う今日。私達はまたスーパーに向かって歩く。そこでフードコートで待つ男子3名と合流し、買い物をする。


 私は昨日とは違う恰好をしていた。といっても皆からしたら関係ないが、もしかしたら中村君の反応が変わるかもしれない。可愛いといってくれたら、なんて思いをしばし持ってしまう。でも服装に関してなにかイベントが起こることは無かった。


 「なあ、舞。お前も食うよなアイス」


 「もちろん。私バニラのカップ好きなんだ」


 「わかるわ。やっぱシンプルなバニラが一番最強だよな。爽のバニラとかにしよっかな」


 少し勇気を出して話に加わるように頑張ってみた。それでも愛美はもっと話続けなさいよと目で訴えてくる。いや、頑張ってる方だよ。


 皆がなにを言うのかなんとなく知っているのでいくらか言葉を考える準備ができる。話しかけられたら頭が真っ白になるのもまだ軽減できる。


 幸せだ。


 「中村君、重たいと思うけど遠足まで荷物お願いします。楽しみにしてるから」


 少しでも中村君と話を出来るのは気分が良かった。


 「告白しちゃいなよ」


 その言葉を聞いて今日を終える。


 そして次の今日が始まる。今度は爪にネイルなんかしてみる。普段学校で出来ない姿を見てもらいたかった。


 「うわ、アドバイスだけどネイルは男受けしないんだぞ」と愛美。


 「別にいいじゃん。他の人を気にする必要ある? 可愛いならいいじゃん」と奈々。


 愛美はネイルを落としてくるよう促したが私はそのままでいいと押し切った。だってまた今日がくるなら関係ないでしょ。


 「うわ、魔女かよ」と健一。

 「ネイルってなんかおばさんみたいだな」と拓哉。

 「ばかお前ら、あれ一応オシャレなんだからな。失礼だろ」とこそこそと二人に注意する中村君。


 ごめん、聞こえてるよ中村君。私の隣でほら言ったじゃないのと愛美が睨んでる。まあでも中村君が悪口を言う人じゃなくて良かった。そこが中村君の良さだ。でももし彼に「きもい」なんて言われたらきついな。次から挑戦はひかえよう。


 「なあ、舞。お前も食うよなアイス」


 「うん食べるよ。私チョコアイス食べようかな」


 「あーいいなそれ。俺もチョコ好きなんだよ。ブルーシールのチョコアイスにしようかな」


 中村君はたぶん流されやすいのかもしれない。それか人を否定しないで同調することが出来る。私の知らない中村君をしれて私はますます彼を好きになる。


 「一番好きな味は?」


 「バニラだな。これは間違いない。あ、ならバニラにしようかな」


 なるほど、私の好きな味と一緒だ。なら試す真似はしなくてよかったみたい。


 「バニラなら爽のやつとか」


 「それ! あれシャリシャリしてうまいよな」


 なんかインチキしているような気がする。愛美が何とも言えない顔でこちらを見ている。その様は何かのソムリエのようである。そしておもむろに親指を突き立てた。どうやらようやく合格したらしい。なにに合格したかは不明だけど。


 「告白しちゃいなよ」


 そしてまた今日が終わる。


 何度も今日を始め、終わる。その楽しい時間を私は謳歌した。


 だけど。


 ——中村君、遠足までお願いします――


 何度目かのころ、私は罪悪感からかその言葉を言えなくなっていた。その頃ぐらいから、なんだか胸につっかえるものを感じ始めていた。


 幸せだよ、でもね。


 「遠足楽しみだな」


 そういう中村君の顔を見る事が苦しくなっている。


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