第2話 幸せの中の困惑


 少女は困惑していた。


 「なにもたもたしてるの。早くしないと置いてくぞ」


 「そーだよ。男子チームはもうお店着いたってよ」


 「まったく、楽しみにしてたんでしょ。なんで準備していないかな」


 「うん、ごめん」


 少女は愛美と奈々に急かされながらその背中を追っていた。2時に愛美と奈々が迎えに来る。そう約束していたが私は呼びに来るまで外に出る準備を一切していなかった。そのせいか二人は呆れてしまった。


 でも、昨日買い物したよね。


 少女は言わなかった。日付をいくら確認しても今日という日は昨日である筈だった。でもそれを言ったところで誰が信じるというのだろうか。


 「中村君たちはフードコートにいるんじゃないかな」


 昨日と同じならそこで中村君たちは3人でうどんを食べていたはずだ。でもそれは私にしか分からない。


 「着いたって連絡してみたけど、フードコートで今ご飯食べてるって。なんでわかったの?」


 「……」


 だって、私は一度、今日を体験しているから。なんてことは言えない。


 「だって今お昼の時間だしね」


 そういってごまかした。


 フードコートで中村君たちと合流した。ちょうど食べ終わったうどんの皿が並んでいた。昨日はまだ食べ終わっていなかったが、それは私が今日遅れたからだろう。


 「あ、いーな。私もうどん食べたかった」と愛美。


 「今から食べんなよ。せめて買い物終わってからな」


 「わかってますー。そもそも昼ご飯食べて来たから要らないし」


 「なんだよ。なら別にいいじゃん。皿、片付けてくるから待ってて」


 私はこの異様な光景を夢だと信じたかった。また中村君たちと買い物。嬉しいけど信じがたい状況に困惑する方が今は勝っていた。


 「? ほら行くよ舞」


 「あ、うん」


 そこからは昨日の記憶をなぞる出来事しか起こらなかった。かごにはいくつかの肉と野菜、そして紙の皿と割りばし等。


 「次は焼きそばね」と愛美。


 「おっきいの買ってたくさん作ろうぜ」と中村。


 「これとかいいじゃん。大容量ってよ。しかも安いし」と拓哉。


 「ちょっと、私達はそんなに食べられないよ」と奈々。

 

 「いんだよ、俺たち男はたくさん食うから」と健一。


 「いやさすがに3袋は要らんわ。肉も焼くんだぞ、時間が足りないっての」


 「頑張る」


 「頑張らなくていい!」


 同じだ。まるで昨日と一言一句違わぬ会話の内容。そして焼きそばを入れて、次は。


 「アイスとかも買ってこーぜ」


 そう、アイスを食べようと中村君が言って、それを愛美が反対する。


 「暑い、溶ける、予算オーバー。駄目に決まってるでしょ」


 ほら。

 

 「いや、今食べる用で。みんなで公園で食べて帰ろうぜ」


 「あ、そういうこと。ならさんせー」


 そして愛美が「舞にもアイス食べるか聞いて」とこそこそ言っているのがわかる。


 「なあ、舞。お前も食うよなアイス」中村君が私の方を振り向いた。


 私は落ち着いて、「うん、食べる。今日暑いもんね」と返した。


 愛美がもっとしゃべりなさいよという目でこちらを煽ってくる。でも昨日よりはちゃんとはっきり喋れたもん。とその時。


 「……。なんかお前ちょっと顔色悪くないか」昨日とは違う言葉を中村は吐いた。


 え!? 私は戸惑った。もしかしたら私の表情は怪奇をみるような怪訝な目をしていたのかもしれない。


 「あ、え、いや、そんなことにはない、よ」


 「ふっ、なんだそれ。大丈夫ならいいや」


 あまりにも噛み過ぎて笑われてしまった。最悪。でも分かったことがある。昨日と同じとはいえ、私の行動で周りの反応は変わるという点だ。ま、当たり前か。


 そして会計を終え、近くの公園で皆でアイスを食べた。誰が大きい荷物持っていくかじゃんけんも当然さることながら行われた。そして崩れ落ちる中村君。


 「中村君、遠足までお願いします」昨日と同じセリフを今日も言っておいた。


 そして帰り道。


 「告白しちゃいなよ」愛美がそういった。


 少女は笑ってそれをごまかした。


 

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