今日という日が永遠に

物書きの隠れ家

少女の永遠

第1話 少女の幸せ


 私は今すごく幸せだった。


 「次は焼きそばね」


 「おっきいの買ってたくさん作ろうぜ」


 「これとかいいじゃん。大容量ってよ。しかも安いし」


 「ちょっと、私達はそんなに食べられないよ」

 

 「いんだよ、俺たち男はたくさん食うから」


 「いやさすがに3袋は要らんわ。肉も焼くんだぞ、時間が足りないっての」


 「頑張る」


 「頑張らなくていい!」


 明後日、行われる遠足のバーベキュー。その男女三名ずつのグループ分けで私は憧れの中村君と同じ班になることが出来た。騒がしい教室で友達の愛美が三人で固まっていた中村君を呼んだのだ。


 班長、鈴木愛美を筆頭に、田中奈々、中村誠、佐藤拓哉、山口健一。そして私、小林舞。


 黒板にメンバーの名前を書いた愛美は私に「舞、応援してるからね」と囁いた。「余計なお世話です」と言い返しつつも内心すごく感謝していた。


 そしてその男女6名で買い出しに来ていた。


 普段の制服姿とは違い、皆新鮮な私服姿にドキドキしてしまう。なんだか中村君がいつもよりかっこよく見えてしまう。


 「アイスとかも買ってこーぜ」と中村。


 「暑い、溶ける、予算オーバー。駄目に決まってるでしょ」と愛美。

 

 「いや、今食べる用で。みんなで公園で食べて帰ろうぜ」


 「あ、そういうこと。ならさんせー」


 ……でも私はあまり中村君に話しかけることが出来ない。愛美が中村君とふたりで仲良さそうに話す姿を羨ましいとは思いながらも、いつもより近い距離で中村君を見れたそれだけでで満足してしまうのだ。


 「なあ、舞。お前も食うよなアイス」突然中村君はこちらをむいた。


 「あ、うんもちろん」


 急に話を振られておどおどして返してしまった。失敗したかもしれない。けどそれよりも彼に名前を呼んでもらえたのはうれしい。隣で愛美がもっと話を続けなさいよという目でこちらを見ている。どうやら愛美が私にも意見を求めるように促したらしい。不甲斐ない友達でごめん。


 でも私は好きだった。この彼と一緒にいるという時間が。それから皆でアイスを買って、公園で食べた。そこで誰の家で食材を保存するか話し合い、重たい荷物を持つのは男子の役目だとじゃんけんが始まる。


 そして悔しそうに崩れ落ちる中村君をみて皆で笑った。


 最後に「じゃあ中村君、遠足までお願いします」となんとか勇気をふり絞って声をかけた。私から声をかけたのはその日それが初めてで最後だった。


 そのあとは男子グループと女子グループで解散。それからまた別々に一人ずつ帰っていく。そんな最後だった。公園で「くっそ、意外とおもてぇ」「ひゃはははは、がんばるのだ誠よ」と騒がしい声が印象的だった。


 その帰り道、私はふと考えてしまった。


 遠足が終わったら彼とは学校の距離感に戻ってしまうのだろうか。男子グループで遊ぶ彼、部活をする彼。ほとんど接点はもうないのではないだろうか。


 「告白しちゃいなよ」


 別れ際に愛美がそういった。


 したいよ。でも私なんかが告白したところできもいと思われないかな。もし振られたら怖い。なら私は眺めているだけでいい。かっこいい彼を見れるならそれで満足だ。


 「舞」 今日彼が名前を呼んでくれたことを思いだす。


 その日の晩、ふと願った。


 今日みたいな日が永遠に続けばいいのに。と。


 夜空を見上げ、そう願った。


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