第2章 佐伯 2
ポーンと時計が鈍い音をリビングに響かせる。
時計は7時を指していた。
佐伯はフローリングワイパーで床を順次掃除していた。
2階の廊下、階段、リビング、1階の廊下、と流れるように掃除を終えた。床掃除を終えると1階の風呂場のある部屋と他のもう一つの部屋の前へ行き、ポケットからキーケースを取り出した。中から玄関の内鍵とは別の鍵を取り出し、部屋のドアを開いた。
そこはトイレであった。便座は閉じられていてその上に埃が溜まっていた。便器の周りにはティッシュの箱やゴミ袋の入ったパックなどが日用品がたくさん置かれており、物置として使っていることが一目で分かる状態であった。佐伯はフローリングワイパーを壁に立て掛けると、トイレだった部屋のドアを閉めた。そしてまた部屋に鍵をかけ、鍵をキーケースに戻しポケットにしまった。
その後佐伯は風呂場のある部屋の中に入り、洗濯機の前に立った。洗濯機の表示で洗濯が終了していることを確認すると、洗濯機の隣に置いてあるハンガーを取り出して浴室に掛けられている竿に引っ掛けた。そして洗濯機の中から絡んで塊になった洗濯物を拾い上げ、浴室の風呂板の上に運んだ。そこから塊になった洗濯物を一つ一つ取り出して叩いてからハンガーにつけていった。洗濯物を全てハンガーに取り付け終えると浴室を出て乾燥機のスイッチを入れ、部屋を出た。
部屋を出ると佐伯は玄関へ向かった。
玄関に着くと段ボールの横に重ねられた発砲スチロールの箱を持ち上げ、リビングのキッチンへと運び出した。それを3回繰り返して玄関に置かれていた発砲スチロールの箱を全て運び終えると箱を開けた。箱にはそれぞれ敷かれた保冷剤の上に、パックに包まれた白身魚の切り身、卵などの食材やフルーツタルト、牛乳が入っていた。佐伯はそれらを冷蔵庫、冷凍室に次々と入れていく。最後に牛乳を箱から取り出して冷蔵庫に入れていくと、ふと冷蔵庫にあった封が空いている牛乳が気になり、手に取った。その牛乳賞味期限の表示を確認すると、3日前の日付が表示されていた。佐伯はしばらくその表示を見つめると、ため息を吐いてうなだれた。佐伯はグラスを取り出してパックの中に残っていた牛乳を全て注いだ。それを一気に飲み干し、またため息を吐いた。そして口の周りについた牛乳を手で拭うと冷蔵庫の中の牛乳の賞味期限の表示を確認し、賞味期限が近い順番に右から並べ替え、冷蔵庫を閉めた。
ふと佐伯が時計を見上げると時刻は7時半を過ぎていた。佐伯は保冷剤のみとなった発泡スチロールの箱を全て玄関に運び、段ボールの横に積んだ。そしてキッチンに戻ると冷蔵庫から卵やハム、野菜を取り出して朝食の準備を始めた。
野菜を水で流して洗い、食べやすくカットして彩り豊かなサラダを盛り付けた頃、小さくジリリリとなる音が聞こえてきた。
時計は8時を指していた。
佐伯は作業を止めることなく、そのまま朝食の準備を続けた。
焦げ目がつかない様に菜箸で突きながら綺麗に作ったハムエッグ、トースターでこんがりと焼き目をつけたトースト。それらを皿に盛って、先程作り終えていたサラダと一緒にテーブルに並べた。お箸やドレッシングなどをテーブルに置くと、火にかけていた小さな鍋の水が沸騰を始めた。佐伯はその火を止め、先程使用していたフライパンや食器などをシンクに入れ、水道の蛇口をひねった。そしてスポンジを手に取り、洗い物を始めた。洗い物をしていると、段々とギシギシと軋む音が近づいて来ていた。
佐伯は作業を止めることなく、そのまま洗い物を続けた。
全ての洗い物を終え、水切り棚に食器などをかけるとギシギシと軋む音は止んでいた。水道から水の流れる音だけがリビングに響いていた。
佐伯は目をつぶり、小さく息を吐いた。そして目を開き、小さく「よし」とつぶやいた。
佐伯は水道の蛇口をひねり水を止めてから後ろを振り返った。
振り返ると階段のそばに、手を胸の辺りでもじもじとさせながら不安そうに佐伯を見ている女が立っていた。
佐伯は微笑を浮かべてその女に声をかけた。
「おはようございます。恵梨香さん」
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