第1章 恵梨香 2
木の擦れる音が鈍く鳴りながらドアが開いた。
ドアが開くと部屋に廊下の照明の明かりが入り込んできた。廊下は天井の照明で明るく照らされていた。間接照明の優しい光を強烈な廊下の光が飲み込んでいく。
廊下から部屋に入り込む光に恵梨香は思わず顔を背け、目をつむった。瞬きを多くさせて目に光を慣れさせると、目を細めながらゆっくりと廊下に顔を出す。自分の着ているパジャマの首元をぎゅっと握りしめる。部屋から顔を出して左側を覗くと近くに下る階段があるのが見えた。耳をすませてみると物音がしている。
恵梨香は恐る恐る足を部屋から外へ踏み出した。片足を出すと床がギシギシと鈍い音を立てた。自分で鳴らした足音に体をビクッとさせる。恵梨香は音が立たないように次の足を慎重に踏み出した。廊下には小さく鈍い音が響いた。
恵梨香は振り返り、廊下を見渡した。階段とは逆の右側を見てみると2つドアがあった。近くのドアには「トイレ」と書かれた表札がかかっていた。
ふと下に目線を下げるとドアの近くにプラスチックのカゴが置かれており、廊下の景観と比較して一際違和感を放っていた。
恵梨香はなるべく音をたてないように慎重にドアを閉めた。だが、どうしても木の擦れる音が鳴ってしまった。ドアを閉めると物音の聞こえる階段の方をじっと見つめた。パジャマの首元をぎゅっと握り、唾を飲み込む。大きく深呼吸をし、意を決したように階段へ向かって歩きだす。出来るだけ慎重に、ゆっくりと恵梨香は足を進める。床はギシギシとゆっくり音を立てている。
階段まで着くと下に空間が広がっていて物音がそこから聞こえてきていることがわかった。だが階段からは下の空間の様子が見ることができないため、恵梨香はなかなか階段に足を進めることが出来なかった。しゃがんで下の様子を伺ってみるが変わらなかった。階段をじっと見つめてから目をつむり、重いため息をついた。そして意を決したように目を開き、階段へ足を踏み出した。
ゆっくりと階段を1段、また1段と下っていく。階段を下っていくにつれて廊下で聞こえていた物音がだんだんと大きくなっていった。水道から水の流れる音、食器の当たる音が聞こえてくる。
階段を半分まで降りると16畳ほどの広さの部屋が広がっているのがわかった。カーテンは閉められていたが、天井の照明が明るく照らしていた。部屋の奥には本棚やローテーブル、ソファー、テレビが置かれており、階段の付近には少し大きめのテーブルがあった。テーブルにはサラダやトーストなど朝食の準備がされていた。テーブルで向かい合わせに2人分の朝食のようだ。その奥にはキッチンがあり、そこから物音が発されていた。
そこには男が立っていた。男は白いシャツに黒いズボンという格好をしていた。
階段から降りた恵梨香は立ち止まり、その男の後ろ姿を見ていた。少しの間見ていると水道の音が止み、急に部屋は静寂に包まれた。
急な静寂に恵梨香はまたパジャマの首元をぎゅっと握った。
不安げな表情を浮かべて男を見ていると、男は振り返った。そして口を開いて静寂を破った。
「おはようございます。恵梨香さん」
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