第4話 荒れる16歳
「化粧、濃すぎないか?」
「はぁ? 意味判らん」
毬は父親を一瞥して、制靴のローファーを突っかけたまま玄関を出て行く。全く聞く耳を持っていない。帰ってきたらもう一度聞いてみよう。徹は思い直したのだが、その日は毬の帰宅時間も遅かった。部活をやってるわけでもないし、塾に通うわけでもない。しかし『ただいま』も言わずに入って来た毬をいきなり𠮟りつけるのも躊躇われる。ぼそっと帰って来た毬に徹は努めて明るい声で聞いたのだ。
「遅くまで何かあったの?」
毬はまた徹を一瞥し『別にぃー』と言いながら前を素通りする。徹はその背中に呼びかけた。
「あのさ、校則で化粧禁止とか決まってないの?」
話をぶり返す。以前からずっと気になっていたのだ。だって自分が高校生の頃って女子は精々リップを塗る位ではなかったか。卒業間際に学校にBAがやって来て、女子だけを集め『化粧の仕方』とか教えていなかったか。もはやそんな時代じゃないかも知れないが、他の女子高生がどの程度の化粧をしているのか確かめようとしても、あまりじっと見つめると、事件にもなりかねない。
毬は立ち止まり、振り向いて言った。
「昭和と一緒にしないでくれる?」
徹はそれ以上何も言えず、二階に駈け上がる娘を見送るしかなかった。
+++
やれやれ、今の校則には『高校生らしいお化粧に留めましょう』とか書いてあるのかもな。思い出すと落ち込むわ。幸い今朝は出勤時間が早かったから毬の顔を見ていない。あのまま引きずられて口を利いてもらえないのも辛いし、晩メシで機嫌取るか…。
徹の思考は夕食へと舞い戻った。しかし、下手な料理を作ったとしても…だ。徹はまたネガティヴワールドに取り込まれる。だってさ、作ってんのが判ってる筈なのに、あいつはコンビニで買ってくるんだよな。確かに最近のコンビニ飯は優秀で俺が作った料理より遥かに旨い。でもな、だからってそれは無いだろうよ。
結局俺は、自分で二人分を食べる羽目になって益々太ってゆく。すると毬は『ちょっとぉ、いい加減にしてよその体形。見せつけられる方の身にもなってよ。パーハラって言うのよ』と嫌な顔をする。いや、この場合はパーハラの被害者はこっちじゃないのか。全く親の威厳はどこへ消えたのだ? 徹はスマホの中の妻の写真に訴えた。
「どーすりゃいいんだよ、彩。全然解んねぇよ…」
いつの間にか徹は団地の周回道路に掛かっていた。気のせいか、七色の鱗粉が、夕方の太陽の光を受けてきらきら光りながら周囲を舞っている気がする。
『そう言や、さっき、ここら辺に虹の麓があったよな…』
その瞬間、徹の肩に軽い衝撃が走った。
ピユ ピユ。
はい? 徹は自分の右肩を見て驚いた。
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