第2話 おばあちゃんは一人
「え? おばあちゃんってふたりいるの?」
毬の目は点になった。目の前で小平 毬(こだいら まり)の親友である晴菜ちゃんが大きく肯く。
そう、毬は知らなかったのだ。一般的に祖父母は二組であることを。
話の発端はお正月のお年玉だった。小学生にもなると、同級生たちが3学期始まりに、それとなく『お年玉、いくらもらった?』と騒ぎ出す。必然的に誰からもらったかを列挙する。晴菜ちゃんは言ったのだ。
「えーっとぉ、お父さんとお母さんでしょ、静岡のおじいちゃんとおばあちゃんでしょ、藤枝のおじいちゃんとおばあちゃんでしょ、それとぉ、焼津のおじさんとぉ…」
え、どういう意味? 静岡のおじいちゃんおばあちゃんと藤枝のおじいちゃんおばあちゃんって。おじいちゃんが静岡でおばあちゃんが藤枝ってことかな。毬は晴菜ちゃんに聞いてみた。晴菜ちゃんは不思議な顔をした。
「静岡のおじいちゃんとおばあちゃんはお父さんのお父さんとお母さん。藤枝のおじいちゃんとおばあちゃんはお母さんのお父さんとお母さんよ。何かおかしい?」
真顔で返される。毬のおじいちゃんとおばあちゃんは一組しかいないため、『〇〇の』と形容する必要がないのだ。何しろ物心ついてからずっとおじいちゃんとおばあちゃんは一組だけだったから、誰のお父さんとお母さんなんて考えもしなかった。お父さんとお母さんが一組しかいないのと同様だと思っていた。
だから毬は帰宅後、母親に訊ねた。
「毬のおじいちゃんとおばあちゃんは誰のお父さんとお母さん?」
母の小平 彩(こだいら あや)は答えた。
「誰だっていいでしょ。おじいちゃんとおばあちゃんなんだから」
誰だって良くないと毬は思ったのだが、その拒絶的な母の態度にそれ以上言い出せなかった。その後も機会があれば毬は訊ねた。父親にも聞いたが、どうやら『祖父母はもう一組いたが、毬が生まれる前に亡くなった』ようだ。現在の毬の祖父母は父親方の祖父母らしい。それで押し通されてきた。
しかし中学生になって、ようやく家族や世間のことを聞きかじり始めた毬は、疑問を深めた。もう一組の祖父母が毬が生まれる前に亡くなったとしても、写真すら見た事ないのは何故だ? 普通は父母それぞれに実家があるそうだが、毬が知っているのは父親の実家だけだ。お母さんの実家ってどうなったの? 一度問い詰めねばと思い始めた矢先に、その母親が病気で倒れ、入院してしまった。病気と闘う母にそんな話も出来ず、そうしている間に、つまり毬が中学3年生の時に母親は亡くなった。疑問は残ったままだが解決の糸口は消失し、毬のもう一組の祖父母は依然謎のまま残されたのだった。
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