第5話

「なぁ、お前いつの間に彼女できたの?」


「は?」




授業が終わり、愛する妹のクラスまで向かおうとしていた僕に話しかける者たちがいた。




「なんだよつれね~な~! 彼女出来たなら俺らにも紹介しろよな!」


「は?」


「証拠は挙がってんだ。諦めてここで洗いざらい吐け、そうすれば楽になるぞ」


「は?」


「お前さっきから は? しかいってないぞ」


「無駄に威圧感合ってこええんだよなこいつ」


「なんかオーラみたいの出てる出てる」




話しかけてきたのは、右から友人A、友人B、友人Cだった。自分の数少ない友人たちが揃いもそろって意味の分からないことを言っていた。とりあえずオーラはしまっておこう。




「俺にいつ彼女ができたんだよ」




まったく身に覚えがない上に、自分に彼女の影すらないことを自覚し気分が落ち込むだろうが。


すると友人Aは何やら写真を一枚取り出しこちらに投げ渡してきたのでそれをキャッチする。そこにはランニング中の僕と例のメイドが向かい合っている姿が写っていた。あ~…




「これを見てもしらを切るつもりかね」


「お前どうやってこんな可愛い娘と知り合ったんだ!」


「放課後デートとはうらやまけしからん」




ここ最近毎日メイドに絡まれていた俺の姿を目撃した人がいたらしい。それを俺に彼女ができたと勘違いしてこいつらは騒いでいたらしい。はー、女子と話していただけではしゃぐとか、童貞乙(笑)




「いや、お前も童貞だろ」


「然り」


「この間おっぱいの大きな女子大生に道を聞かれただけでテンションがうなぎのぼりしていた童貞は誰だよ」


「それもまた然り」




おっぱいの大きなお姉さんに話しかけられたら仕方ないだろ!!おっぱいが大きいんだぞ!!


…ごほんごほん。それはさておき、




「あー。お前らこれは違うぞ」


「お、この期に及んでまだ抵抗するか」


「よく考えてみろ」




はぁ、こいつらはなにもわかってないな。




「こんな薄暗い路地裏にメイドがいるわけないだろ」


「!」「!」「! い、いやこの写真があるし…!」


「しかも巨乳だ」


「……なるほどな」




お、友人Bはやっと気づいたようだな。




「どういうことだってばよ!」口調がおかしい友人Cに友人Bは眼鏡をくいっと持ち上げこういった




「こんな巨乳美少女のメイドが路地裏にいるわけないってことだ。冷静に考えたらありえない夢のようなシチュエーションだ。つまりこれはだれかの悪戯で加工された写真ってことになる」


「そういうことだ」




どこの世界にそんなシチュエーションが存在するというのか。そんな童貞が考えた妄想に踊らされるとは恥ずかしい奴らだ。


自分の過ちに気がついた友人たちは少し照れたように謝ってきた。素直なのは大変すばらしい。




「すまなかった疑ってしまって」と友人A


「いいんだ、誰にでも間違いはある」


「こんな簡単なことに気がつかないなんて俺としたことが…」と友人B


「思わぬ勘違いは誰にでもある、気にするな」


「へへ…でもよかったぜ! 俺のお前が誰かのものになったわけじゃなくて」と友人C


「あぁ、俺は誰のものでもない。それとお前は今後俺に近づくな」


「照れんなって!」


「やめろ近づくんじゃない!」




友人たちの勘違いは解けたが、友人にある疑いを持つことになってしまった俺は逃げるように教室を後にした。








――とある路地裏にて


「じーっと私を見てどうしたのよ」




いつも通り路地裏に迷い込んだ俺は、いつも通りのメイドをみると何故か大きな安心感を抱いていた。




「お前といると何か落ち着く」


「!? な、なによ急に…」


「お前は可愛い女の子だ」


「えっ/// あっデレ期ね! ついにデレ期が来たのね! ここまで邪険にされてたのは初めてだったけどあなたもやはり女に飢えた男だったというわけね… いいわ、存分に胸を揉みなさい! ってどこにいくのよ!!」




メイドはともかくとしてやはり男は女と恋愛しなければならないのだ。人の恋愛にとやかく言うつもりはないが少なくとも僕は男ではなく女が好きだ。決して男が好きなわけではないのだ。




「ちょっと聞いてる!? せっかく胸を差し出してるんだから少しくらい揉みなさいよ!」


「は? 何言ってるんだコイツ痴女か」


「痴女じゃないし!!」




女は好きだが痴女は恋愛対象外だ。帰ってよろしい。




「え、ちょ強制召喚の術式が発動したんだけど!? これもしかしてあなたがやってるの!?」


「揉まされる胸に興味はない」


「急に何言ってるのよ! あっちょっまt」




どうやら痴女メイドはあるべき場所へ還ったようだ。俺も帰宅しよう。






男が去ると先ほどまでの喧騒はどこへやら、路地裏には静寂が返ってきたのであった。

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