第4話
ある春の日の夕方、一人の男がとある場所の路地裏を歩いていた。
何やら思いつめたような硬い表情は静かで薄暗い路地裏の雰囲気と相重なって見るものに不気味な印象を覚えさせるものだった。
(何かあったのかしら)
そんな路地裏にはもう一つその男よりも小さな影があった。
その影は見るものすべてを魅了するような不思議な雰囲気を纏っていて、男とは対照的な存在のようにその場に存在していた。
そしてその影はメイド服を着ていた。胸は大きい。
男がそのメイドの前に差し掛かった時メイドは意を決したようにその男に声をかけた。
「……どうしたのよ。 いつものあんたらしくないわね」
「……」
「…何かあったの?」
「……」
男はメイドの前で足を止めたが、メイドが何度話しかけても男は何も言わなかった。
(何かあったのは確実ね…でも、こいつがこんなになるなんて…よっぽど辛いことがあったのかもしれないわね)
まだ出会って日は浅いが、メイドはそれなりに目の前の男を理解してきたつもりだった。
(そういう思いつめた表情をするキャラじゃないでしょ…どうしたのよ)
「……」
「……」
沈黙が続く--男は捨てられた子犬のような目でメイドを見つめていた。
(じっと見つめられると…少し恥ずかしいわね…/// んっ、これから長い付き合いにもなるし、ここは私が力になってあげなきゃね!)
「…何かあったのなら話して? 私が力になるわ」
「……………………お前が」
「…! うん、どうしたの?」
長い沈黙が破られ、男が言葉を紡ぎだした。
メイドはそのあとに続く言葉がどんなに悲しいことでも精一杯この男を助け励ましていこうと心に誓った。
「お前が……猫だったら良かったのに……!」
「…………は?」
男はこぶしを強く握り力いっぱい訴える。
「なんでお前メイドなんだよぉぉぉ! 普通路地裏で落ちているのって猫とか犬とかだろう!」
「何よ急に! あと猫や犬だってそうそう落ちてないわよ!」
「じゃあ、猫になれよ!」
「無理よ!」
「魔法とか使ってなれないのか!」
「そんな魔法は無いわよ!」
「じゃあお前の存在価値はなんなんだ!」
「ひどい言われようね!」
一通り叫び、男は何かを思い出すように遠くを見つめた
「妹が…」
「あんた妹がいたの…それで、その妹がどうしたのよ」
「今日の朝にな…」
------------3/4 6.00am
「兄さん、朝です。そろそろ起きないといけません」
「んー、あと50分…」
「兄さん、長いです。それでは私が遅れてしまいます」
そう言われたら起きるしかない。
僕は隣で寝ている妹に、おはよう、と声をかけ布団から半身を起す
「おはようございます。 それで、今日の朝食はパンにしますか? ごはんにしますか? それともわt…」
「ごはんかな…悪いね、毎日」
「…いえ、兄さんの世話をするのは私の生きがいですから」
どこかのメイドとは違う、とてもお淑やかで清楚な妹はそういうと部屋を出ていく。
…僕と同じように、いい子に育ったものだ。
あれ…? なんで一緒の布団で寝ていたんだ?
台所には豪華な食事が並んでいた。
「相変わらず妹はすごいな」
「そんなことないです」
そういって妹は徐にスマートフォンを取り出しカメラで僕を撮影した。
「いつも思うけど、僕なんか撮影してどうするの?」
「どうもしませんよ? 気にせず食事を続けてください」
妹も少し変わっているのかもしれない。
でも、両親の仕事は忙しく一年のほとんどを家の外ですごしている、
そのため家のことはほとんど妹がやってくれていることを考えると、やはりできた妹だと思う。
さすがに悪いと思い、前に手伝いを申し出たこともあったが断られた。
…何故だろうか?
食事が終わり、リビングのソファーに座る。
これはなかなか高級な素材でできたソファーなのでお気に入りなのだ。
天気予報でも見ようと思いテレビをつけると、ちょうどペット特集をやっていた。
「猫、かわいいですね」
「ああ、そうだな」
いつのまにか隣に座っていた妹の頭を撫でながらテレビに集中する。
<レポーター:ペットを飼っていて困ったことはありますか?>
<飼い主:寝ているときに布団の中に入ってきたり、おなかの上で丸まって寝たりするんです。でも、そこがまた可愛かったりするんですけどね>
「んっ、羨まし、い…です」
「……」
<レポーター:どういった理由でペットを飼われるようになられたのですか?>
<飼い主:私には妹がいまして、その妹がどうしても猫が欲しいって言いましてね>
<レポーター:それで買ってあげたんですね>
<飼い主:ええ、兄として当然のことです>
なるほど。兄として当然の事、か…。
「なぁ、猫欲しいか?」
「ふぇ…? な、んっ…、ですか…?」
先ほどから妹の様子がおかしい。 …あぁ、頭を撫でていたか。
妹は頭を撫でるとおかしくなる。これは広辞苑にも載っている。
僕が頭を撫でるのをやめると、なぜか名残惜しそうな目で僕をみながら妹は答えた。
「そうですね…猫は好きなので欲しいと言えば欲しいですが…お金、ありませんよ?」
そうだった。
今月は妹が中学を卒業することもあり、色々とお金がかかる。
つまり節約して過ごしていた。
故に、無駄なことに使うお金はなかった。
どうしたものか…
------------回想終了
「と、いうわけなんだ」
「なるほどね…それで猫猫言ってたのね」
「そういうことだ。…というわけで猫になれ」
「どういうわけよ!」
「(´・ω・`)」
「そんな顔してもダメよ! はぁ…まったく…」
メイドは呆れるとともに、いつもの調子の男を見て安心していたが
それに本人は気づいていなかった。
「猫にもなれない駄メイドに用はない。さらばだっ!」
そういうと男はメイドの前から一瞬で姿をくらます。
「瞬間移動テレポート!? あんた絶対に人間じゃないわよ! はぁ…また逃げられた」
そういうとメイドは何やらつぶやき手を上に掲げると一瞬の眩い光につつまれる。
その光が止んだ時にはもう、路地裏にメイドの姿はなかった--。
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