バカと天才は二刀流
杜侍音
バカと天才は二刀流
はっきり言ってお姉ちゃんはバカだと思う。
「ごぉじだの、ずずな」
「……いや、別に何でもない」
「あ、ぞう」
正しく発音は聞き取れてないけど、何となくお姉ちゃんの言ってることが分かる。一応、姉妹ですから。
別にバカって言語能力がないからじゃない。今お姉ちゃんは歯を磨いているから口が塞がって上手く話せてないだけ。
……歯ブラシを二刀流してるとこがバカなんです。
「両利きってカッコいいね‼︎」
「え? あ、そうだね」
何日か前、お姉ちゃんがいきなりそんなことを言い出した。確か、文部科学省からなんかの表彰状を貰った時だったと思う。
お姉ちゃんは小さい頃から天才だの神童だのとメディアで取り沙汰されるほど頭がずば抜けて賢かった。
えっと、確かミレニアム問題? みたいな数学のすっごく難しい問題をひらがな帳に解法を書いて学校に提出したり、治療法が数十年も見つからなかった難病を治す特効薬を修学旅行帰りで見つけたり、とにかく世界中から次は何を発表するのかと期待されている。
それに、その秀でた頭脳のため要領がよく、オリンピック全種目制覇できそうなくらいスポーツも得意だし、創作料理で三ツ星を大量生産が可能なほどに美味しいものも作れちゃう。
一体何刀流使いなのと聞きたいほど、お姉ちゃんはできることが多い。
それとおっぱいがデカい……チッ。
「まーた、いつものオッサンにごますりされちゃったよ。あいつマジで口がドブ臭いからあんま近付いて欲しくないんだよなー。夏のゴミ捨て場かと思ったよ」
日本のお偉いさんにそんなことを言えるのは、お姉ちゃんだけだ。普通なら名誉毀損で訴えられちゃうよ?
お姉ちゃんは世界で一番天才なのかもしれない。
けど、それと同時に世界一バカなのかもしれない。
「プリンの上で寝てぇ」
いきなり何を言い出したのかと思えば、勝手に学校のプールいっぱいにプリンを作り、その上に飛び込み沈んでいたし。
「世界一深い落とし穴掘ってみてー!」って言って家を出て行ったきり帰ってこなくて、捜索願いを出したらブラジルにいて、「こっから日本までの落とし穴作ってみたかったんだよな」とかほざいていた。
ちょっと意味が分からない……人類史において失ってはいけない頭脳だから世界中の組織という組織が捜してくれたから見つかったものの……行動力のあるバカは本当に厄介。迷惑をかけないでもらいたい。
世界中が次何をやらかすのか注視してんだからね?
「ガラガラガラ〜ペッ! トボトルロケット夏休みガキが作りがち〜。ふぅー、やっぱ歯ブラシ二刀流はいつもの倍速で倍磨けるな」
だからこそ、両利きになりたいという願いは比較的マシな方かもしれない。
「さてと、二刀流歯ブラシも余裕でできるようになったし、作文と評論文を右と左でそれぞれ書けるし、野球も二刀流になれたな!」
お姉ちゃんの野球での二刀流は、俗に言うピッチャーとバッターを極めてるんじゃなくて、両手にグローブを付けた左右鏡対象での野球ができるようになっただけなんけど……。その姿がSNSにあげられていて『滑稽だ』ってバカにされてたよ?
あと、うがいが独特過ぎない?
「うーん。次、何しよっかな〜」
げっ……⁉︎ お姉ちゃんまた新しいこと考えてる⁉︎
うぅ、また振り回される。巷で現代神、の妹として私まで一緒に崇め奉られてるこっちの気にもなってよ……。
「ねぇねぇ! すずなは二刀流歯ブラシしないの?」
「え、別に。興味ないし」
「え〜、すずなも両利きなんだからさ! 二刀流歯ブラシしてみなよ‼︎」
「えぇー、歯ブラシもったいないじゃん」
──しかし、これが意外にも磨き場所に偏りなく、良い感じに歯が磨けている気がする。
「うぐ、だじがぁに、いいがも」
「でしょー‼︎」
バカと天才は二刀流 杜侍音 @nekousagi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます