遅咲きのサクラ
そんな私にはたったひとつの誰も知らない夢がある。
誰にも話さない。
誰にも言わない。
誰にもみせない。
何のために生きているのかと問われたら
「私は自分をつくる為に生きてる」
と人生一番の大声と勇気を使い、
叫ぶだろう。
どれだけの体力が消耗されるか、考えるだけで悪寒がする
けれど、これをする為に生きていると言っても過言ではない。
私の部屋には両親すら知らない小さなスペースがある。
そこにはかき集めた宝物がひっそりと息を潜めている。
高校生の大切なバイト代を使い、フリマアプリや韓国通販で安く手に入れた私の宝物。
週末にはそれをリュックサックに詰め込み、家を出る。
朝早くから家を出発し、夜遅くに家に帰る。そんな2日間を過ごせるのは、両親が私に興味がないという理由だから。
そんなことはどうでもいいくらい私はその時間が幸せだった。
平日の5日間。自分という存在を消しに消した分、この2日間で大きな爪痕を残し、メンタルを保つ生活をずっと続けている。
とあるビルの2階。
何の変哲もない、通行人からすればただのビル。しかし、そこが私にとって居場所であり、私のステージだ。
「おはようございます。」
「おはよう!!相変わらず、顔色悪いなぁ〜笑
ホントに君はこの界隈で『クイーンキング』って呼ばれてるのか分かんないね笑」
大きな鏡と、メイクグッズ、ファッション誌が綺麗に整頓された事務所はとても居心地がよく、私の数少ないリラックス出来て、人と話すことの出来る空間。
真っ先に明るい笑顔を振りまき出迎えてくれた、いつもお世話になっている大学生のイズミさん。
私は、彼女を実の姉のように慕っている。
最初はいつも通り事務所の端で準備をしつつ、気配を消す努力をしていた。
ーここに通い始めてまだ日が浅い頃ー
「ねぇ、そのコンシーラー今めっちゃ
私もそれ気になってて買うか迷ってたんだよね〜!!
使い心地どう?結構いい感じ?」
人と話すのに慣れていない私は太陽のような彼女に焼かれ、頬っぺたが緊張と人見知りで赤くなった。
これまでの人生、自分から人に話したいとはあまり思わなかった。
理由は学校の人と
だけど、彼女に対して「なんて素敵な人なんだ」と感じた。
それは、恋愛感情とかではなく、人として尊敬の感情が溢れ出たんだと思う。
「……とても発色がいいですし、肌荒れもしないので気に入っています…
多分、敏感肌に合うかと思います」
消え入りそうな声で呟き、自分はハッと我に返り俯きながら
「っっ!!ごめんなさい…見ず知らずに肌に合うとか言われたら気味悪いですよね、ごめ…」
「なんで私が人よりも敏感肌なの知ってるの!?」
とても驚いた様な顔をして私を覗き込んだ
「いや…先程、鏡の前で頬に出来た炎症と肌のことについて話しているのを聴いたので…聞き耳なんて趣味悪いですよね…」
「そんなことないっ…!
耳が良いのはこの
ー才能ー
私には無縁の言葉。
この言葉がどれだけ欲しくて欲しくて堪らなかったか。きっと、誰も分かってはくれない。
「必ず、この世の人にはひとつずつ自慢出来るような物を持ち合わせているんですよ」
そんな綺麗事はないけど、自分の生まれ持った性格を、能力を、磨くか磨かないかで人間の
私は、生まれ持った技術を磨く事をしなかった。
したところで、私が私であることは変わらないし別にいいかなって思ってた。
そんなマイナス的な考えを持つひねくれ者の私を変えてくれたのがイズミさんだった。
教室で自分の気配を消すことを努力した結果。いつの間にか、聞こえてくる音や声にとても敏感になっていたみたいだった。
そんな理由で身につけてしまった「耳の良さ」を彼女は世界中を走り回ってやっと見つけた物のように喜んでくれた。
そんな彼女に釣られて私も自分の新たな発見をとても感動を覚えた。
生まれて初めて自分の取り柄を見つけた。
コンシーラーをイズミさんがウキウキと使っているのにほっとしながら開けた窓から入ってくる少し季節外れの桃の香りが鼻をくすぐった。
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