無題

 ある夜、夢を見た。 


 土砂降りの雨の中だった。シャワーのように降り注いでくる雨と、跳ね返る水しぶきで数メートル先も霞んでしか見えないほどの、大量の雨。


 立っていたのは、大学の目の前の桜並木だった。大きめの傘を差した学生達が行き来しており、ただ立ちすくんでいる肩に、その先端が、時折ぶつかる。


 すると足下の水たまりから、雨の音とは思えない程大きく、トプンっという音がした。―――そこにあると分かった。


 水たまりの中を手でかき分ける。普通なら、深さは数センチほどしかないだろうが、そこだけは大きくくぼみ、三十センチほどはあった。雨水を一心不乱にかき分ける。


 周囲の学生達は、何事かと驚いた様子でこちらを見てくる。スマホを掲げている人もいた。それでもお構いなしに、水たまりの中を探していた。


 ない、ない、ない、ない、どこ、どこ、どこ。


 しかし、ふと気が付く。

 




 ―――あれ。何を探していたんだっけ。

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