にとうりゅう

@ns_ky_20151225

にとうりゅう

「見よ、これぞ我が二刀流。素直に負けを認めればこの道場においてやるぞ。下働きでな」

 あいつは得意気に構え、いつものように憎まれ口をきいた。決して悪い奴じゃない。こんな風にしか話せないのだ。そして考えが足りない。

「二刀、じゃないな。剣だろ、それは」冷静に指摘した。

「うるさい! そんな細かい区別はいいから、おまえもなにか持て! 今日こそどちらが強いか決めるんだ」

 もう怒った。これで道場を継ごうというのだから困ったものだ。わたしは背負い袋をごそごそやってあいつのように前に突き出して言った。

「二頭竜」

「あ、なるほど……ってそんな赤ちゃん竜どっから持ってきた! 早く返しとけ! 母竜に見つかったら消し炭も残らんぞ!」

 赤ちゃん竜を袋に戻し、またかきまわして取り出したものを並べた。

「何だ? それは」

「いや、知ってるだろ。一緒に冒険した異世界の土産だよ」

「ああ、セーターだな、それは。暖かくて重宝する」

「違う違う。生地の名前」

「ニットだろ。となりのは瓜か」

 うなずいた。そのとなりに置いた瓶を傾けて中の液体を一たらしした。

「それは油だな。つまり……、ニット、瓜、油」

 大きくうなずく。「最後だけちょっと読み方変えてみようか」

「最後? ああ、油か。油は『ゆ』とも読むな。亜麻仁油とか鯨油とか言うもんな」

「そうそう、じゃ、早口で続けて」

「ニット、瓜、油(ゆ)、にっと、うり、ゆ。にっとうりゆ、にとうりゅ……。おまえなぁ」ぷるぷるしている。

「だめか」返事を待たずに片付け、次を出した。

「なんだ、そのぺらぺらしたものは。呪符か。そんなもので戦う気か」

「まあ、見ろよ」

 目を近づけた。

「黄金温泉御宿泊券? なんだ、えらく豪勢だな。こんな贅沢ができると自慢でもしたいのか」

「いや、二人でどうかなと思って。修行はじめてから息抜きしたことないだろ」そういって券をずらして二枚あるのを見せた。あいつの顔にとまどいが浮かぶ。

「あのな、跡継ぎは師匠が良いようにして下さるし、なるようになるさ。それより、俺はおまえと出会って修業ができたことに感謝したい。どうだ、気晴らしに旅行でも」

 あいつの肩から力が抜けるのがわかった。剣が下を向く。

「おまえ……」

「なあ、うんと言ってくれ。力の限りぶつかった友達なんてそうそうできるもんじゃない。だろ?」

「そうか。そうだな。俺がまちがってた。道場のことはなんとかなるよな」

 あいつは笑って剣をおさめた。わたしは追い打ちをかける。

「なあ、分かるか?」

「なにが?」

「宿泊券、二枚あるよな」

「うん?」

「二逗留ってのはどうだ」

 あいつはまた剣に手を置いた。


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