第3話

 病院のベッドの上で、最後に見た光景までやっとたどり着き、彼は青ざめながら、なんとか人を呼ぼうと声をだす。

声は弱々しくて、体もまともには動かなくて、それでも彼は人を探した。

しばらくしてやっとその姿に気がついた医者が、彼へと駆け寄った。



「目が覚めましたか!?」

「たぶん、覚めました……」



 医者は勝手になにかを思い詰めていたようで、目が覚めたばかりの彼にべらべらと話しだす。



「あの爆発の中で、その中心にいたはずのあなたは、手足も失わずに生き延びていたんです。

一歩離れたところにいた人達なんてみんなバラバラになってたんですよ。

なのに、どうしてかあなただけは酷い後遺症になるような怪我すらもなく」

「やめてくれ……何を言ってるか分からない……」



 若い医者はここ数日に対応した、あまりにも多い酷い怪我の患者たちの姿にのまれ、ノイローゼのようになっていた。

その中で生き延びていた彼を、勝手に希望の象徴のようにしていた。



「すみません……私は落ち着かなければ」



 そんな変な言葉と共に咳払いをして、医者は、やっと当たり前の質問を彼にした。



「まず、名前を教えて頂けますか?」



 名前を言えるかどうか、それは一番最初の確認事項だ。

しかし、それ以上にもう一つ、確認しなければいけない状況でもあった。

たった一歩離れた所の人はみな、バラバラになっていたのだから。



「名前って、俺は……」



 なにを言ってるんだ、決まってるだろ。

そう呆れたような思考の中に、わずかな困惑が生まれた。

本当にかすかな混乱で、言葉を遮られるほどではないのに、彼は黙り込む。

医者は慌てたように、まだ伝えるべきではない情報を彼に言った。



「双子のご兄弟がいらっしゃいますね?

あなたもご兄弟も、顔に怪我をおっているので、どちらか見分けがつかないまま運ばれてきたんです」



 ゾッとして、自分の怪我の状態よりも、彼は医者に問いかける。



「あいつはどうなったんですか」



 医者は何かを言った。なにかを。意味がわからないと思った。

爆発の中心で生き延びたのはあなただけだと。



「あなたは、潘岳さんですか?潘雲さんですか?」



 名前まで導くように、医者は言った。

呆然としてベッドに横たわった「彼」は、99という数字を思い出す。

俺は。



「俺はどっちなんでしょう」



 医者は勝手に困惑して、なにかを確認しに行くために、どこかへ消えた。

まだ体を起こすことも出来ないまま、ベッドの上で彼は泣き始める。

呼吸の異常を感じ取り、機械がビービー騒ぎ出した。

うるさい、一人にしてくれ。


 そんなことを思って、もう自分は一人なのだと思って、彼は自嘲するように笑った。

俺は誰なのだろう。誰もその答えをくれる人はいなかった。

99%を得た彼は、ほとんど二人分の幸運でその身を守り、たったの1%に苛まれていた。


 答えなど出せるはずがない。彼は孤独に蝕まれて泣き続けた。

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