第3話

 後日、ジャンボだけが来店して、ざっと事情を知ったバオズやの店主は、問答無用で厨房から包丁を持ってきて、彼らの学校へ向かおうとした。

ジャンボはもちろんその背中を止めた。



「なにヘラヘラしてんだ!そんなこと言われて!」

「もうこれは決着が着いた話ですから。それより、バオズやさんが一緒に怒ってくれ良かった」

「当たり前だろ!怒らないやつなんて居ないよ!」

「そう……ですよね」



 悲しげな声に店主は少し落ち着いて、頭を抱えてため息を着く。



「そんなことになるとは……余計なことした……」

「そうじゃないんです。きっと、誰も悪くないんですよ」



 店主は驚いてジャンボの顔を見た。

決意が灯った目は、なにか別のことを考えているようだ。



「なんか企んでる?」

「ええ、少し」

「学校にでも乗り込むのか?」

「よく分かりましたね」



 さっきまで自分が乗り込もうとしてたくせに、店主は焦ってジャンボを止めようとした。

全く、この街は良い人ばかりだ。

それに甘えて、影のことを忘れて、ずっと過ごしてきてしまったようだった。



「俺が所属してる事務所に頼んで、俳優さんや女優さんを何人か連れて、チョコとバニラの学校で軽くお芝居をすることになったんです。

学校側も快諾してくれました」

「え、すご……」

「「俳優の江白」ってなかなか影響力あるみたいなんですよ」

「変な言い方すんなよ。全部あんただろ」

「もちろん」



 ジャンボは飄々と笑った。



「でも、使えるものは全部使ってやろうって決めたんです」



 店主はまだ驚いていたが、少しだけ笑って、その姿を見た。



「今度、また三人で来てよ。なんでもサービスしてやるから」

「上から下まで?」

「おお、いいよ。食えるもんなら食ってみろ」



 ジャンボは笑って頭を下げて出ていった。

笑顔に力強さを感じて、店主はジャンボと最初に会った頃のことを、また思い出していた。

きっと、なにがあっても、あの三人は生きてゆくのだろう。


 その人生が幸せであることを祈った。

自分のできる範囲で、ささやかな手助けもしてやろうと、そう心に念じて。


 しばらくたって、バオズやに三人で現れた彼らは元気よく言う。



「全部タダってホント!?」

「ホント」

「全部食っていいの?」

「食えるもんなら食ってみろ」



 やったー!なんて、チョコとバニラも笑った。

その姿を見てジャンボも笑った。

きっといつか、三人とも幸せに暮らせるだろう。

そうでなかったら、神だかなんだかをぶっ飛ばしてやる。


 店主も彼らを見て笑った。

学校での公演は大成功で、学校の女子の大半がジャンボのファンになったと、ふてくされた声を聞きながら。



終わり

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バレンタイン(夜光虫シリーズ) レント @rentoon

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