第2話

「誕生日が来るんだ……」



 あれからそれほど月日も経っていない。

たまに見る夢は、外で暮らしていて、なんとか雨風を凌いで震えた日々だ。

チョコが帰ってこない夢も何度も見た。

そんな夢の内容は自分しか知らない。誰にも話したことは無い。


 けれど、ジャンボがうなされる俺を助けようとしたのか、いつのまにか抱きしめられていることがあった。



「チョコは夢のこと話してくれるけど、お前はなかなか聞いても泣くばっかりだから」



 バニラはふと俯いたが、聞いてやれなくてごめん、なんてジャンボはいう。

なにかの皮肉でもなくて、本当にそういう人なんだと分かるまでに時間がかかった。

何度疑っただろう。何度拒絶しただろう。

なのに、変わらず笑うジャンボは、相当どうかしている。



「なんで、俺なんかに優しくするんだよ」

「大切だから」



 泣きながら八つ当たりをしても、全部この調子だ。

大体はチョコがいないか寝てる時に、俺は膨らんだ不信感をジャンボにぶつけていた。

チョコがいるとなぜか、この生活が本物な気がしてくる。

包み込まれてしまう。

それが怖かった。信じた瞬間、全てが崩れ落ちる気がした。


 そう思うのに、部屋はあまりにも綺麗に飾り付けされて、食事も美味しくて、手作りのケーキまであって、それに。



「お前たちが生まれて来てくれたおかげで、俺は幸せだ」



 チョコが泣いて暴れているのに、それをなだめようとしているのに、ジャンボは「お前たち」と言った。

常に、ジャンボは俺たちに差をつけることがなかった。


 どうしてなのか分からない。

チョコの方がなにかと優秀だ。字も読めるし書けるし達筆だし、なんやかんや勉強もかなり出来る。

明るく笑っていかにも子供らしくて、その笑顔を可愛がられて。


 その全てが俺にはないのに。

ジャンボは。



「生まれて来てくれてありがとうな」



 分からなかった。

いつか分かるだろうか。生まれてきて良かったのだろうか。

ジャンボは俺の頭も撫でた。

もうすっかり、その手に安心して、全てが本物だと思いたくなってしまう。

いつか思えるだろうか。

ぼんやりとそのまま眠った。

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